新スタイルのジャズほか、いま聞きたい最新アルバム3選。
Culture 2023.07.21
優美で力強いUK発のフィメールラッパー。
『ノー・サンキュー』/リトル・シムズ
やはり本物だったと認めざるを得ない作品。一昨年の前作ではマーキュリー賞を筆頭に数々のアワードの栄冠に輝き、世界中をツアーで回って新感覚のヒップホップを見せつけてきた注目株。今作においても成功したことに背を向けるかのような辛辣なメッセージを織り込みつつも、女性らしいしなやかでクールな佇まいのラップを聴かせる。生のバンドサウンドを思わせるオーガニックなビートや、オーケストラからゴスペルのコーラスまでを取り入れた、壮大なスケールのアレンジも圧倒的だ。
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ジャズシーンと密接に繋がった意欲作。
『オムニコード・リアル・ブック』/ミシェル・ンデゲオチェロ
ソウル、ジャズ、ロックといったジャンルを自由に横断し、ありとあらゆる楽器をこなすマルチミュージシャンが、名門ブルーノートに移籍したというだけで問題作になることは確実。実際に、深遠でエッジーでアカデミックなフューチャージャズとして強烈な一撃を聴く者に与えてくれるだろう。マーク・ジュリアナ、コリー・ヘンリー、ジョエル・ロスといった現代ジャズのキーパーソンが多数ゲスト参加し、緻密さとフリーな即興とのせめぎ合いで、新しいジャズを見事に提示している。
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知的でみずみずしいピアノデュオの調べ。
『リフレクションズ』/スフィアン・スティーヴンス、ティモ・アンドレス&コナー・ハニック
ふたりのピアニストと2台のピアノによるコンテンポラリーな響き。フォークからエレクトロニカまでさまざまなスタイルでアメリカーナカルチャーを表現する、シンガーソングライターでありクリエイターの新作は、バレエのためのクラシカルなスコアという異色作。グリッサンドを多用したメロディアスで躍動感に満ちたピアノの演奏は、11人のダンサーを跳躍させるためのものだと思えば納得の迫力。現代音楽ほど難解ではないが、アカデミックな印象を保ったままリリカルな調べを聴かせる。
*「フィガロジャポン」2023年8月号より抜粋
text: Hitoshi Kurimoto