W杯での活躍が期待されるサッカーフランス女子代表の現状とは?

Culture 2023.07.23

FIFA女子サッカーワールドカップ2023。フランスは7月23日、シドニーでジャマイカとの初戦を迎えた。これまでスポットライトが当たることは少なく、評価もされにくかったフランスの女子サッカー選手の現状を、フランス「マダム・フィガロ」がリポート。

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タラー・スタジアムでの女子国際親善試合、アイルランド対フランス戦で3点目のゴールを喜ぶフランスチーム。(ダブリン、2023年7月6日)photography: Stephen McCarthy / Sportsfile via Getty Images

ワールドカップを目前に控えたフランス女子代表へ寄せられる期待は大きい。それはもちろん好成績への期待もあるけれど、決してそれだけではない。女子サッカーへの注目度が高まるにつれ、このスポーツにおける女性の地位向上の象徴的な存在としても期待が寄せられているのだ。

この点、フランスは周回遅れの状況だ。優れた選手が揃っているにもかかわらず状況が改善しない一番の理由、それは女子選手のプロ化が進んでいないこと。女子サッカーが連盟に認められたのは1974年だった。今日でもクラブに所属する女子選手はプロリーグではなくフランスサッカー連盟(FFF)が管理する契約の下でプレーしている。国際プロサッカー選手会は最近、女子選手の半数がパートタイム契約であることを発表した。これは経済的な問題に彼女たちがさらされていることを意味し、最低賃金から年金、産休、さらには医療費負担に関してもさまざまな問題をはらんでいる。

これに加えて選手がトレーニングに費やせる時間が足りないことや利用できるスタジアムの大きさ、場所の問題もある。このような状況は得点数や収益性に影響を及ぼし、メディアからの注目も得られにくい。この不均衡を反映してか、今大会のフランスでのテレビ放映権は公共放送のフランス・テレビジョンと民間のM6テレビが土壇場でようやく購入を決めた。おかげでほとんどの試合がフランスの公共放送局で無料放映されることになったのはありがたく思おう。いずれにせよ女子代表選手たちの士気は高く、初戦の対ジャマイカ戦で全力を尽くす決意を固めている。それによってこのスポーツへの関心もさらに高まるかもしれない。

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紆余曲折を経て

史上初の女子サッカー試合はイングランド対スコットランド。1881年のことだった。そして女子のスポーツとして世の中に認められるまでにはさらに1世紀を要することになる。ジャーナリスト、ユベール・アルチュスの著書『Girl Power: 150 ans de football au féminin(原題訳:ガールズパワー、女子サッカーの150年)』(Éditions Calmann-Lévy刊)にあるように、ボールを蹴りたい女性はずっと努力してきた。たとえば第一次世界大戦中のイギリスでは、出兵した男性に代わって軍需工場で働くようになった女性たちが仕事のあと、しばしサッカーを楽しんでいた。フランスでは1968年の五月革命を契機として1974年、女子サッカー初のフランス選手権が開催され、やがて1991年の第1回FIFA女子ワールドカップに繋がった。

女子サッカーの歴史はフェミニズムの歴史とリンクしている。フランス人の集合的記憶に刻まれた最近の女子サッカー試合をひとつ挙げるとすれば、2011年ワールドカップでのフランス対アメリカ戦だろう。フランスはアメリカに1-3で敗れたものの、予想に反して誇らしくも準決勝まで勝ち進んだ。

こうして2011年はフランス女子サッカーの歴史における重要な年となった。当時、フランスのビッグクラブに女子チームはあったが、問題はチームへの予算配分がなかなか進まなかったことだ。それでも徐々に女子チーム強化に資金を投じるクラブも現れた。オリンピック・マルセイユ(OM)、パリ・サンジェルマンFC(PSG)、FCジロンダン・ボルドー、そして2010年代以降、輝かしい成績を残しているオリンピック・リヨン(OL)。

それにしても男子サッカー選手は3部リーグでさえ、スポーツで生計を立てている。一方、2部制となっているフランス女子サッカーリーグでは、上位ディヴィジョン・アンの選手でさえ大半は生計を立てるために働かなくてはならない。女子選手のプロ化が遅れている弊害は、いまもなお不平等をもたらしている。ビッグクラブでプレーできる女子選手は、最も恵まれた環境にあり、なんとかなる。他の選手たちはプレータイムでプレーに力を注ぐことができず、なかなか上達できない。

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ますます注目されている

「再びブルーのユニフォームを着ることができて大変誇らしく思います」と最近、アマンディーヌ・アンリは2023FIFA女子ワールドカップに出場するメンバーに戻った喜びを語った。もっとも7月7日、トレーニング中にふくらはぎを負傷したため、7月20日から8月20日までオーストラリアとニュージーランドで開催されるFIFA女子ワールドカップに出場することは結局叶わなかった。フランス屈指の名プレーヤーはオリンピック・リヨンで長くプレーし、2020年以降はフランス代表から外れていた。アンリは、長い選手生活を通じて徐々にこの種目が認知されてきたのを感じてきたと言う。「キャリアをスタートした頃は女子サッカー自体に驚く人がいましたが、いまではそうではありません。ますます多くの人が試合を見るようになりました」とフランス代表チームの主将として2019年のワールドカップに出場し、抜群の知名度を誇るアンリは言う。

アンリは、「私がサッカーを始めたころ、女子サッカーは一般的ではありませんでした。思春期を迎え、一定の年齢になると女子は宇宙飛行士やサッカー選手になる夢を諦め、男の子はダンサーの道を諦めていました。これからはそんなことはありません。全力を尽くして努力すればいいだけです。私自身、成功するまでには男子の2倍、頑張らなくてはなりませんでした」と語った。そんな思いがあるからこそ、彼女はサッカー・プレーヤー・バービー人形のモデルになることを承諾した。

幼い頃からボール遊びが好きな少女たちが共感できる人形があってもいい。平等というのは現実的には服装についても言えることだ。「サッカー選手である前にわたしは女性です」とアンリは言う。そして「ユニフォームのサプライヤーは徐々に進化して、これまでより体にフィットしたシャツや、短いショートパンツになりました。同時にオーダーメイドのメニューで私たちのパフォーマンスも向上し、スポーツ選手らしいシルエットになったりしました」とも語った。

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ワールドカップ効果

2019年にはワールドカップ効果で女子サッカーも盛りあがった。しかし、選手やこの種目への関心がその後、あまりにも急速に冷めてしまったことを嘆くむきもある。今回の大会で女子サッカーへの関心が再び高まり、これまで以上に身近な存在になることが期待されている。フランス代表の暫定メンバーは25名。これが4度目のワールドカップとなる主将のワンディ・ルナールが率いるのは、FWではウジェニー・ル・ソメとカディディアトゥ・ディアニ、MFとしてケンザ・ダリや、アメル・マジリがいる。アメル・マジリは2022年7月に誕生した娘を連れて現地入りすることになっている。DFではセルマ・バシャ、エリザ・ドゥ・アルメイダ、サキナ・カルシャウィら。「フランスはまだ勝利できていないけど、タイトルを取れば状況が変わるのは間違いない。私個人の経歴に足りないのはそれよ。理想はタイトルをひっさげてロサンゼルスに到いくこと」とワンディは言う。

2007年にオリンピック・リヨンに移籍したワンディは、女優ナタリー・ポートマンが2人の起業家、カーラ・ノートマンとジュリー・ウルマンと立ち上げたロサンゼルスのクラブ、エンジェル・シティへじきに移籍することになっている。米国ではハリウッドスターやビッグブランドが女子サッカーを普通に支援している。フランスとは大違いだ。男女同一賃金の実現にも熱心なナタリー・ポートマンはこのフェミニスト的イニシティブに力を入れ、女優のエヴァ・ロンゴリアジェニファー・ガーナージェシカ・チャステイン、テニス選手のセリーナ・ウィリアムズなど、投資家として有名な何十人ものセレブを動かすことに成功した。ここにはアメリカンサクセスストーリーの全ての要素が詰まっている。きらびやかなスター、そして錦の御旗としての平等主義。

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フランス代表の特殊事情

フランス代表チームに選ばれたトップアスリートの事情は異なる。彼女たちのなかには別な職業を持っている者もいる。男性プレーヤーにそうした存在は皆無ながら、彼女たちがそうしているのは別な専門知識を維持していくためのようだ。パリFCのストライカー、クララ・マテオは、パリ・サクレー大学理工学部を卒業し、エンジニアとしてアルケマ・グループに勤務している。同グループは同名のカップ戦のスポンサーでもある。同じくパリFCのストライカーであるガエターヌ・ティネイは、フランスサッカー連盟のナショナル・テクニカル・アドバイザーとしてユースの育成を担当している。昨年3月、「レキップ」紙は、最も高額報酬を得ているサッカー選手の男女差を試算した。肖像権込み、ボーナス抜きの前提で男子選手のキリアン・エムバペが月額600万ユーロであるのに対し、女子選手のマリー・アントワネット・カトトは月額5万ユーロという数字だった。

オーストラリア、ブラジル、アイルランド、イングランド、北欧などは前回のワールドカップ後に男女の格差の解消を決めたが、フランスでは依然として大きな格差があり、差はなかなか埋まらない。アメリカの女子選手たちが連盟を相手取って訴訟を起こし、試合での勝利数が多いことを理由に男子よりも多くの報酬を支払うよう要求し、未払い報酬額を6600万ドルと試算した強気の姿勢とは大違いである。

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それでもプレーしたい

ピッチ上の女性選手を蔑視する偏見の根強さ、女性のプロ選手を認めないサッカー連盟の頑なさ。こうしたテーマも取り上げながら制作された映画がある。往年の名プレーヤー、マリネット・ピションの伝記映画、ヴィルジニ・ヴェリエ監督の『Marinette(原題訳:マリネット』だ(注)。1990年から2010年にかけて女子サッカー界のアイコン的存在であり、アメリカ最優秀選手にも選ばれたマリネットの話は、自己表現と変革の場としてスポーツが持つ力の話でもある。

それと同時に強く願うことの大切さや逆境を強さに変えること、自由にスポーツを練習するために戦うこと、数えきれないほどの差別の存在が描かれ、いまだに実現しない平等を得るためにマリネットが戦ったことを教えてくれる。男性選手と女性選手が差別されているのはプレーのレベルの問題ではない。300ゴールを決めたマリネットはウジェニー・ル・ソメが出てくるまで男女問わず歴代得点王であった。この問題は、各組織に政治的意志が欠如していること、その結果としての構造的な後進性の問題なのだ。

サッカーの背後には、欲望と闘いが渦巻いている。女子サッカー選手のキーラ・アムラウィの著書『Kheira à contre-pied(原題訳:逆をつかれたキーラ)』(JC Lattès刊)からも、そのことが浮かびあがってくる。2021年に暴漢の襲撃を受け、パリ・サンジェルマンFCとの契約も終了し、新監督からフランス代表に選ばれなかったキーラは今日、一連の出来事に対する本人なりの解釈を試みた。「今日、私の名前はあの事件と結びついている。私が誰でどこから来たのか、人々に知ってもらいたいと思った。サッカー選手になると、なんらかのキャラを演じるようになる。178mの私はめすライオンだった。でも、その裏に隠された歴史があり、価値観がある。私は戦いながら自己形成した。周囲はボールへの情熱を理解してくれず、兄弟は空手に夢中になっていた。この戦う力が私を救い、立ち直らせてくれた」

彼女の著書の一節に、女らしさについて考察した部分がある。彼女によると、本人は国立サッカー養成所のクレールフォンテーヌで自分の女性性と折り合いをつけたそうだ。さらに、フランスとスペインにおける女子サッカーへの認識の違いも述べている。数年間をスペインで過ごしたキーラは、「私は幸運にも、かなり若い頃からサッカーで生計を立てられるようになった。3年間プレーしたスペインでは、サポーターは女子の試合も男子の試合も区別しない。スタジアムは7万人、9万人と満員になる。一方、ここでは1000人の観客しかいない」ことを明かした。

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希望と現実

事態は少しずつ改善している。どんな場合もそうだが、問題意識を持った人たちがまず動き、選手たちも動く。意欲があり、資金力もあった人物として人々の口によく上がる名前はオリンピック・リヨンの会長を勤めていたジャン=ミシェル・オラスだ。映画『マリネット』では最初のコーチの存在がクローズアップされている。才能を伸ばすには多くの場合、良い出会いが重要だ。この伝記映画には女子サッカー界の現状を知らしめる効果があるだろう。また、スポーツマーケティング会社の中には、選手たちの契約交渉を助けたり、スポンサーへつないだりして女子サッカーに貢献しているところもある。一方、一部のスポーツ関係者がいまだに女子サッカーの話題を避けたがるのは、主にこの不平等な現状があるからだ。

マリネット・ピションの自伝映画はこんな事実を私たちに突きつける。マリネットが2007年に引退して16年経った今も、女性選手の待遇改善が今回のワールドカップで問題視されているとはどういうことなのだろうか。「この映画を準備するにあたり、前監督と主力選手との不和、選手の“反乱”と言われた事態について何人かの選手が述べている資料を読みました。そしてフランス代表でさえ、十分な医師のサポートや理学療法士の人数を確保する資金がないことを知りました。事態は改善していますが、これを知った時は本当に驚きました。私としては政治的な主張の映画を撮るつもりはなかったのですが、当時も今も状況があまり変わっていないことを認めざるを得ません。改善のペースが遅すぎます。問題は選手のレベルでも試合結果でもなく、資金です。意志があり、そう望めばチームは世界一になります。たとえばジャン=ミシェル・オラスがオリンピック・リヨンでやったように」とヴィルジニ・ヴェリエ監督は語った。楽観的な人はワールドカップが男女同時におこなわれる日を早くも夢見ている。

(注)ヴィルジニ・ヴェリエ監督作品『マリネット』。出演はギャランス・マリリエ、エミリー・ドゥケンヌ、アルバン・ルノワールら

text: Céline Cabourg (madame.lefigaro.fr)

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