3年前に逝去したピエール・カルダン、巨額な遺産をめぐる相続人たちの争いが継続中。

Culture 2023.08.10

2020年にデザイナー、ピエール・カルダンが98歳で亡くなって以来、相続人同士の激しい争いが起きている。遺言書が発見されたり、ブランド売却の動きがあったり、残された遺産をめぐっての泥沼訴訟合戦が続く。

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2020年、ピエール・カルダンは、現在ブランドを率いるロドリゴ・バジリカティ・カルダンとマリース・ガスパールの立ち会いのもと、秘蔵っ子のピエール・コーティアル(左)を正式な後継に任命した。(パリ、2020年2月27日)photography: Jana Call me J / Jana Call me J/ABACA

2023年春、ファッション関係者らは30年ぶりにピエール・カルダンの名前がファッション・ウィークの公式プログラムに載るのを目にした。一部の人は3月5日のショーに招待され、実際にその復活に立ちあった。ショーを企画したのは長年ピエール・カルダンを支えてきた4人、なかでもピエール・カルダンのお気に入りモデルであり、1991年に設立されたピエール・カルダン・エボリュシオン社重役のマリース・ガスパールと、2020年12月29日に亡くなったデザイナーの親族であるロドリゴ・バジリカティ・カルダンの2人が旗振り役だった。かつて未来派クチュリエと呼ばれたカルダンのコレクションはしかしながら話題を欠き、ほとんど報じられず、ショーの運営や「滑稽な」シルエットが一部のジャーナリストのあいだで内輪ネタになる程度だった。その後、同ブランドはビヨンセや、フレンチポップグループのランペラトリスのステージ衣装を手がけたり、海外でもファッションショーを開催したりしているが、あまり注目されず、遺産がどうなったかの報道もない。しかしながらその裏では熾烈な相続争いが繰り広げられていた。

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遺産をめぐる内紛

生涯独身で子どももいなかったピエール・カルダンは巨額の富を残した。持ち株会社や子会社、ライセンス契約で管理するブランド自体に加えてパリや南仏プロヴァンス地方等に数々の不動産を所有する。カンヌ近郊にあるシュールな造形の別荘「パレビュル」、伝説的なレストランの「マキシム」、南仏リュベロン地方のラコスト村にある城や村内の複数の建物等々。故人の大姪たちの代理人であるジャン=ルイ・リヴィエール弁護士がAFP通信に語ったところによれば、遺産を全て売却したら7億5000万ユーロから8億ユーロと見積もられているそうで、これをめぐっての対立が生じている。13人兄弟の末っ子であったピエール・カルダンには22人の相続人がいる。

対立構造の一方にいるのはクチュリエの姪の息子であり、2018年にピエール・カルダン・グループの社長に、2020年11月に会長へ就任したロドリゴ・バシリカティ・カルダンだ。1995年、25歳だった彼は、祖父エルミニオがピエール・カルダンの兄だった関係でデザイナーの面識を得た。ピエール・カルダンがイタリア・ヴェネト州のトレヴィーゾ市の名誉市民に任命された6月5日、祖父につきそって任命式に行ったのがきっかけだった。当時ロドリゴはピアニストとしての活動の傍ら土木工学を学び、学校でデッサンを教えていた。ロドリゴの多能ぶりに魅了されたデザイナーは自分の庇護下に置き、ヴェネチアのパレ・ド・リュミエール(光の宮殿)建設計画(2013年に計画中断)やトスカーナのミネラルウォーター事業の立て直しなど、さまざまな事業を任せた。現在50代のロドリゴ・バシリカティは姓に「カルダン」をつけ加えて名乗っており、「ピエール・カルダンの遺志を尊重し、事業やイメージを守っていきたい」と言う。

他方、ピエール・カルダンの姉の一人、ジョヴァンナの孫娘たちのパトリシア、ローランス、レジーヌ、マリークリスティーヌは残る相続人ら大半の支持を受け、すべての事業の売却を主張し、「遺産を奪おうとする試み」を糾弾する。具体的にはロドリゴが「ピエール・カルダンの個人資産と事業全体を、怪しげで詐欺的な手段によって入手しようとしている」ことを非難しているのだと彼女たちの代理人、リヴィエール弁護士は述べた。

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発見された遺言書

とりわけ疑問視されているのは、ロドリゴ・バジリカティ・カルダンを唯一の相続人に指名した2016年11月付け遺言書の存在だ。ピエール・カルダンの署名が入ったこの遺言書を「たまたま」ロドリゴが故人のパリの住居で発見したのは2022年。リヴィエール弁護士によれば、「持分85%を占める相続人たちが同意した」グループ買収の提案があってすぐのことだったそうだ。

AFP通信によれば、ロドリゴの方では、この遺言書がデザイナーの死後におこなわれた「財産目録作成作業中に発見されるべきだった」ものの、「少なくともこれのおかげで自分の一族のことがわかった」と語っている。さらに、ピエール・カルダンは「存命中、私に跡を継いでほしいと言い、10年かけて一連の手続きを行い、最後に遺言書を作成した」とロドリゴは主張している。この遺言書の効力は現在、パリで民事裁判となっている。訴訟合戦はさらに刑事分野にも及んだ。

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2020年、ピエール・カルダンは自らが育てたデザイナー、ピエール・コルティアルにブランドを委ねた。 (パリ、2020年2月27日) photography: Jana Call me J / Jana Call me J/ABACA

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刑事裁判

カルダンの大姪たちは3月、「弱みにつけこんだ行為、特別背任、詐欺、文書偽造、偽造文書行使」の告訴をおこない、これを受けてパリ検察庁が捜査を開始したと、仏経済週刊誌「シャランジュ」が報道した。ある司法関係者はこの報道が正しいことを認め、捜査は現在も進行中であり、パリ警察の経済犯罪組織部が担当していると語った。カルダンの大姪たちは今年に入ってから他に3件の告訴をおこなっており、そのうちの1件は6月に却下された。他の2件のうち1件は「背任と文書偽造」、もう1件は「詐欺と背任」を理由とするもので、司法関係者によれば現在精査中とのことだ。

告訴のなかで、大姪たちはピエール・カルダンが亡くなって数日後、ロドリゴ・バシリカティ・カルダンが持ち株会社のトップに就任したことに対しても異議を唱えている。そもそも彼女たちの祖母、ジョヴァンナ・カルダンが2000年3月に97歳で亡くなる数日前に署名した株式譲渡証書の効力も疑わしいそうだ。「ロドリゴ・バシリカティ・カルダンは自分で自分を指名した状態になっている。純粋に個人的な理由で、他の相続人を厄介払いしたいと思っている」と大姪たちを代弁してリヴィエール弁護士は告訴理由を述べた。

一方、ロドリゴ・バシリカティ・カルダンは6月21日、名誉毀損を理由に民事訴訟を起こした。「一族の中でピエール・カルダンが私を後継者に指名したことを認めようとしない者たちは、私やグループに害をなすことだけを目的として虚偽の申し立てをおこない、法的手続きを繰り返し、マスコミを動かそうとしている」と怒りを露わにした。ピエール・カルダンは亡くなる3カ月前、「パリ・マッチ」紙にこう語っていた。「自分が亡くなった後? 何も考えていない、何も準備していないよ。まったくなにも」

text: AFP agence et Mitia Bernetel (madame.lefigaro.fr)

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