タランティーノ初の小説ほか、いま読みたい4冊。
Culture 2023.08.19
タランティーノが小説家デビュー。映画とは異なる結末にグッとくる。
『その昔、ハリウッドで』
クエンティン・タランティーノが小説を書いた。ディカプリオとブラピが主演した自らの監督作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』のノベライズ。舞台は1969年のロサンゼルス。落ちぶれた俳優のリックと付き人のクリフが実際にあったシャロン・テート殺害事件に巻き込まれる。クリフの過去が明かされ、映画オタクならではの蘊蓄の数々がほとばしる。怒涛の映画愛にあふれた小説版を読めば、映画版を見直したくなること必至。
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幻想は不条理な現実を突破する力。変身と反撃の7つの物語。
『オレンジ色の世界』
危険な赤色の世界と安全な緑色の世界。私たちはその中間にある「オレンジ色の世界」を生きているのかもしれない。赤ん坊を守るため悪魔に授乳する新米ママを描いた表題作のほか、絶滅危惧種の樹に寄生されたり、ミイラの少女に恋をしたり、カレン・ラッセルが描き出す幻想小説は不条理な現実を生き抜くために編み出された奇妙で切実な処世術でもある。翻訳は『おばちゃんたちのいるところ』で世界幻想文学大賞を受賞した松田青子。
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食べることは生きていくこと、記憶に残るおいしさが蘇る。
『桃を煮るひと』
美食家でも丁寧な暮らしでもない。この人の食は生活とともにある。台所で作業を中断して作る炊きたての小さなおにぎり。数カ月に一度、どうにでもなれと思いながらかぶりつく“ファミチキ”。仕事が辛かった自分を救ってくれた苺ジュース。あの時のあの状況だから「おいしかった」記憶が誰にでもあるはず。どうりでお腹が空くはずだ。自分でも何か作りたくなる。『わたしを空腹にしないほうがいい』以来、5年ぶりの食のエッセイ。
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答えはひとつじゃなくていい、心を楽にしてくれる絵本。
『メメンとモリ』
「メメントモリ」とはラテン語で「死を想え」という意味。お皿を割ってしまい「ずーっと」はないと知るふたり。未来のことは誰にもわからないなら、どう生きたらいい? ヨシタケシンスケの絵本が大人気なのは、子どもの頃に抱いた素朴な疑問から大人もハッとする回答を導き出してくれるからだろう。「さいごまであきらめずにがんばってもいいし、一度決めたことをコロコロ変えたっていい」。多彩な選択肢が心を自由にしてくれる。
*「フィガロジャポン」2023年9月号より抜粋
text: Harumi Taki