岸優太、未来を見る、まっすぐなまなざし。
Culture 2023.08.25
『Gメン』で映画初主演を果たした岸優太。まるで原作から飛び出したような、誰からも愛される天然キャラと迫力のあるアクションで、不器用なほどまっすぐな主人公を熱演。ストイックかつ感受性豊かな彼に聞いた、演技やアクションへの思いとは。
YUTA KISHI/1995年9月29日生まれ、埼玉県出身。主な出演作は、2016年公開の映画『黒崎くんの言いなりになんてならない』や『ニセコイ』(18年)。そのほか21年のテレビドラマ「ナイト・ドクター」など。『Gメン』が映画初主演作となる。
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“アクションに没頭することで湧き出る感情。
そこから想像を超えた動きが生まれた”
浮ついたところがない、と事前に多くの人から聞いていたけれど、撮影中は終始、顔がほころぶことがなく、ストイックなまなざしでファインダーを見つめ続けていた。それが、突如、崩れたのはインタビューの最中、カメラマンが撮影したばかりの写真をプリントアウトし、壁面にずらりと張っていることに気付いた時。「え? これ、僕ですか? すごくカッコいい写真だなと、遠目で思っていたんですけど、でも、どっかで見たことあるなあって。いやあ、僕かあ。この距離から見ると、本当にモデルさんかと思いましたね。もう最高です(笑)」と自身のポージングの数々のショットを見て、岸優太は素直に驚きの声を上げた。飾らない人なんだなというのが第一印象。なるほど、映画『Gメン』の主人公、門松勝太の持つまっすぐさと共振する。
中学生の頃から憧れていた、ヤンキーモードの青春劇。
仁義と仲間愛が炸裂する、昭和の香りが強く漂うヤンキー映画のジャンルに、進学校において問題児だけが寄り集められたG組というスクールカーストの要素を入れ込んだのが『Gメン』だ。主人公の勝太は、モテたいという想いだけで、“彼女できる率120%”という噂の私立武華高校へ転校してきたが、入ったのは“校内の肥えだめ”と呼ばれる問題児クラスだった。ヤンキーとオタクしかいない底辺クラスで彼女を作るという目的のために青春を謳歌するが、そんな勝太たちの前に凶悪組織の魔の手が忍び寄っていた……。テレビドラマ「おっさんずラブ」「極主夫道」で知られる瑠東東一郎監督が手がけているだけに、登場人物の熱さは今作でも欠かせない。脚本を読んだ時の岸の感想
としては「懐かしい」が真っ先にきたという。「僕が中学生の頃に、漫画やテレビドラマ、映画などで、こういうヤンキーモードの青春劇が流行ったんです。『ルーキーズ』や、『クローズZERO』、『ごくせん』などに憧れていたこともあったので、この『Gメン』も久々にハードな男と男の戦いのドラマということで応援される気がするんです。僕も出来上がった作品を見たら、ものすごく見やすい流れになっていたと感じました。真剣すぎず、でも、コメディに振りすぎず、そのあんばいがちょうどいい感じだなって。慎ちゃん(森本慎太郎)は梅田という、本人とはかけ離れた髭面のヤンキーに振り切って、役に埋没している感じですけど、勝太に関してはほぼ僕ですね」
それは、困っている人を見かけたらおせっかいとわかっていても関わったり、助けてしまったりという面で勝太似なのかと聞くと、「いや、そっちじゃなくて、バカな面で」とニヤリと笑う。
では、恒松祐里演じるレディースのヘッドの上城レイナとのツンデレが行きすぎる不器用な恋模様のほうでは?「うーん、彼女ほど本心を隠されるとちょっと戸惑う自分もいるかな。もうちょっと素直に、感情は出してほしいって感じです。ツンデレのツンが強くて本当の気持ちがなかなかわからないですよね」
オバカで、ポップで、楽しいテイストを全面的に出しながらも、ホロッと人情味のあふれるところを突いてくることで知られる瑠東監督の作風であるが、今作でも「おっさんずラブ」と共通して、従来のヤンキー映画では描かれることのなかったLGBTQのテーマが入り込んできたりする。
「瑠東監督もそういうテーマに本当にこだわっていて、たとえというか、役者に伝える説明が本当にすごく上手ですね。こういう時、たとえばどうするんですか、と質問したら、台本以上の共感できる材料を持ってきてくれます。『おっさんずラブ』がエンタメの世界において、LGBTQのテーマの取り扱い方を変えたように、この作品もいろんな角度から楽しめると思います」
さて、これまで出演してきた青春ラブストーリーと違い、今作の岸優太は初の主演ということで、当然のことながら彼の存在が物語を引っ張っていく。何より大きいのがアクションの数々。けんかのファイティングシーンにおいて、岸が演じる勝太の動きは、相手をぶちのめすという暴力性を強く感じさせる方向性ではなく、自分がここにいる、僕はこういう男なんですという彼の主張や誇り、存在意義を感じさせるようなアクロバティックな動きとなっていて、身体をくるくると回転しながらキックで相手の動きを封じるものなど、華麗で、無駄な暴力をかわす動きとして設計されている。
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“強く見られたいというより、静かにいたいと思う。
年を重ねて他人の目を意識しなくなった強さなのかも”
スタントコーディネーターは映画『シン・仮面ライダー』に現役スタントとしても参加していた富田稔が担当していて、聞けば撮影の2カ月前から練習を開始したという。
「今回の勝太役に関しては、頑張って強く見せようというよりは、結局はそのままの岸優太としての自分を受け入れてもらいたいと思いました。たとえば、けんかせざるを得ない場面に遭遇した時、昔は、無駄にカッコつけてみたり、そういう変なプライドが自分にはあったんですけど、年を重ねてみると、強く見られたいとかいう意識はまったくなくなってしまって。ある程度、静かにいたいかなと思います。それって、他人の目を意識しなくなった強さとかも関係あるのかもしれないです。勝太は過去にいろいろあって、そこから変わろうとしていることもありますけど、根本的に仲間思いなところがある。そういう性格が、アクションで表現できたらいいなと。僕、アクション映画だったら『ベスト・キッド』とか、『ホーム・アローン』が大好きなんです。ストーリーを追わなくても、登場人物の動きだけを見ていたらすべてがわかる。ちょっと無声映画みたいな感じ。いま見ても、おもしろい作品だな、すごいなって思うんですけど、ああいうことをこの映画では目指したというか。今回は初めてワイヤーアクションにも挑戦したし、2カ月前から時間をもらって練習を重ねることもできたので、常に危険と隣り合わせの撮影で、みんな気は張っていたんですけど無事に終わってよかったです」
身体能力の高さを感じたことはない。日々の鍛錬と努力あるのみ。
これだけアクションができることを証明したら、今後、アクション劇での需要もぐっと高まることは間違いないが、本人は自身の運動神経にはとても厳しい目を持っている。King&Princeではメルビン・ティムティムやRIEHATAら、世界的に知られるコリオグラファーと組むことが多かったが、苦労の連続だったと振り返る。
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“本当にカッコいいと思うと、どこまでもまねしたくなる。
難しくてもなんとか身に付けられるかなと、格闘するのが自分らしさ”
「こういう動きのダンスをしようと手本を見て、シンプルに最初は『無理なものは無理』と思う。そこから、その動きにハマるか、ハマらないか、ただただそこから、日々の鍛錬と努力があるのみって感じで。僕自身は身体能力が人よりも高いなんて、自覚したことがない。今回、『Gメン』でアクションをやると言われるまでは、自分とはかけ離れた世界だと思って見ていたんですよ。いまでも、アクションは演じるより、見るほうが気持ちいいなと思っちゃうところもある。今回、いい意味でも悪い意味でも、座長というほど座長をしていないし、らしさもなかったけど、アクション指導の富田さんが勝太らしいアクションを構成してくださり、その動きに没頭している中で、自然とセリフが出てきたり、感情が入りやすかったりして、自分の想像を超えて、カッコいい動きを作れるようになったんですね。本当にカッコいいと、どこまでもまねしたくなるので、できないかもしれないけど、興味からなんとか自然に身に付けていけるのかなって、そう格闘するのが自分らしさなのかと」
きっと本当のカッコよさと出合う度、彼はそれを手に入れようと手を伸ばし、コツコツとまねから始めていくのだろう。新たな格闘の日を探して。
人生初の彼女が欲しい! その強い想いだけで、噂のモテモテ男子校に転校してきた高校1年生の門松勝太。だが勝太のクラスは“武華の肥えだめ”とやゆされる、問題児集団の【G組】。ヤンキーとオタクしかいない校内最底辺のクラスメイトたちと、“彼女を作る!”というシンプルすぎる目的のために一致団結する勝太。時に拳を交えながらもどんどん深まるG組の友情。最底辺クラスとバカにされながらも青春を謳歌する勝太たちのもとに、最悪の敵が立ちふさがる。●監督/瑠東東一郎 ●出演/岸優太、竜星涼、恒松祐里、森本慎太郎、りんたろー。、吉岡里帆、高良健吾、尾上松也、田中圭ほか ●2023年、日本映画 ●120分 ●配給/東映 ●8月25日より、丸の内TOEIほか全国にて公開
8月19日発売のフィガロジャポン10月号では、こちらの記事と同じインタビューに加えて、岸優太のファッションポートレート9カット、共演者やスタッフから見た岸優太の魅力について掲載されています。
*「フィガロジャポン」2023年10月号より抜粋
photography: Yoshiyuki Nagatomo styling: Katsuhiro Yokota( YKP) hair & makeup: Kazuom(i Loutus) text: Yuka Kimbara