山崎美弥子とMichiru、自然のリズムとともに生きること。
Culture 2023.09.25
ハワイのモロカイ島で暮らし、“1000年後の未来の風景”をカンバスに描き続けるアーティスト山崎美弥子が、10月1日まで青山のスパイラルガーデンで展覧会「DAWN −kind of blue」を開催中。新作100点以上を含む約300点の絵画のほか、9組の作家やクリエイターたちとコラボレーションした多様なインスタレーションも見どころだ。
「以前から彼女の作品に魅せられていた」と話すのは、フィガロの美容アンバサダー、ボーテスターのひとりでメイクアップアーティストのMichiru。今回、展覧会に合わせて東京に滞在中の山崎との対談が実現した。色に親しみ、自然のリズムとともに生きるふたりには、どこか共通項も……!?
深い青、「夜明け」に込めたメッセージ。
Michiru(以下M) 今回の展覧会のテーマは“DAWN(夜明け)”ですが、美弥子さんにとっての夜明けとは、どんな時間ですか?
山崎美弥子(以下Y) 18年ほど前に船上で生活していた時期があったんですが、その頃に毎日見ていた夜明けの海と空は、ほとんど黒に近いような青で、あまりにも圧倒される色だったんです。それを描くことをずっと躊躇していたんだけど、今年に入って突然、その色を描けるようになったの。メイクでも、いままで使わなかった色を急に使いたくなることってありますか?
M ありますね。メイクのカラーも服の色もそうですけど、自分の中のいろいろな思考ともリンクしていますよね。
Y そうですよね。「夜明け」というテーマにはもうひとつ意味を込めていて。いま世界中でいろんなことが起きていて、恐れや不安を感じている人も多いと思うのね。でも私たちの地球は、これからいい方向に向かうのではないか?とも感じるの。“夜明けの前がいちばん暗い”と言うじゃないですか。だからどんなに真っ暗で、悲しみや苦しみの中にいるようでも、太陽が昇る前の瞬間なんだということに気付いてほしいなと。
山崎が初めて描いたという、深い青で表現した夜明け前の時間。
M 夜明け前は、生命や魂が生まれる神聖な時間というイメージもありますよね。私はその時間帯に瞑想すると、すごく深く入れるんです。ハワイの、陽が昇る時の刻々と変わっていく空にインスパイアされてメイクのカラーを作ったこともあるんですよ。
Y ハワイの空は、何度見てもハッとするほどきれいよね。作品を見てくださっている方からも「いつか美弥子さんの住んでいる島に行って、その風景を見てみたいです」とメッセージをいただくんです。けれども夜明けの空は東京でも見られるじゃないですか。だから「私が見ている海と空は、日本にも繋がっているんですよ。あなたの目の前にもあるんです」とお伝えしていて。高いビルがあって見づらいというのもあるかもしれませんが、意識が向かないのかもしれませんね。
M 都会にいると物や情報が多すぎるから、意識しないと日々、空を見ることも忘れてしまいますね。
Y 私も東京で生まれ育って30代前半まで暮らしていたので、それはわかります。だからこそ自然を求めていたのかも。去年からはもう、家の扉を開けっぱなしにしていて外で暮らしているみたい(笑)。高台で、風が強いし遮るものがないから、虫も入るし土埃もすごいけど、その感じがすごく好きで。服もシーツを半分に切った布をパレオにして、胸の上でぎゅっと結んでいるだけ。下着もつけないし、肩紐も何もないからとても楽なんです。布一枚増えるだけでも身体のストレスになるんだなって知りました。
M 人って皮膚からも呼吸しているので、服はなるべく最低限のものを纏うだけでいい、と聞きました。本来はガンジーみたいに、一枚の布だけと裸足で過ごせるのがベストなのかもしれないですね。
藍染アーティストの飯田朋美、ハワイアンレイのLei Malulani Healohaなど、クリエイターとコラボレーションした作品も。
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子どもの頃の特別な体験を描き続けて。
M ハワイは雨が降ると虹もきれいですよね。2年前の美弥子さんの展覧会のテーマが「ナイトレインボー」でしたが、それってなかなか見られないものなんですよね?
Y はい。ハワイでは古くから「ナイトレインボーに遭遇したら魂の願いが叶う」と言い伝えられています。私も船で生活していた1年の間にいちどだけ見て、その後、島で暮らしていても15年以上見たことがなかったんですよ。ところが2020年の元日から3夜連続でナイトレインボーを見ちゃった! だからそれを展覧会で再現することでみんなにも見てもらおうと思ったの。
M そういうふうに、ハワイの自然から受け取ったものをほかの人に手渡すような感覚で絵を描いているんですか?
Y その要素もあるにはあるんですけど、私が絵にしているのは、子どもの時に自分の内面で体験した、とても特別な出来事のことなの。例えるのが難しいんだけど、しいて言うならば……私たちが暮らしている空間がモノクロだったとします。ずっとその中で生きている分には違和感がなかったんだけど、ふと窓の存在に気付いて、開けてみたらその先にカラーの世界が広がっていた!というような経験だったの。カラーの世界はずっとそこにあったんだけど、自分が窓を閉めていたから全然知らなかった。ほかの言葉で例えてみますね。私たちの心の中にはいろんな思いがあって、楽しい気持ちもあるけど、心配、嫌なこと、いろんな感情が混ざり合っているじゃない。それが人間の心というものだけど、窓の向こうを垣間見た体験というのは、自分の心の中があたたかな愛だけで100%振り切れてしまったみたいな、無上の世界。それがあまりに素晴らしくて「これが本当の世界だったんだ!」と、涙が止まらなかったほど。
M おそらく瞑想などを続けていった先にある、神聖なる真我と繋がった世界がそういうものでしょうね。
Y そうだと思う。その世界というのは本来“目指す”ものではなく、最初から“ある”ものなんです。窓を開ければ存在しているのに、私たちがその窓に気付かないだけで。私の体験は、仏教的に言うといわゆる「悟り」の境地を一瞬、見せてもらったのかなと思うんだけど、それがどういう仕組みで起きたのかはわかっていないから、いまでも探究し続けている。絵で表現することについては、幼稚園の頃から不思議と「これが私の仕事なんだ」と思っていて、その特別な体験をした時に「私はこれを描いていくんだ」とわかったんですよね。だから、海と空の風景でもあるんだけど、自分が体験した色も匂いもない意識の世界をみんなに見える形にしたいという、そういう作業。誰にも伝わらないと思っていたけど、見に来てくださる方々は理解して、絵に気持ちを向けてくれる。みんなわかっているんだ!というのが驚きでした。人々の感性って素晴らしいと思う。
M 私も今年の春、目に見えないものをメイクのカラーで表現したことがあるんです。「プラーナ」という、アーユルヴェーダの考え方で「生命のエネルギー」とされるものをテーマにして。この色は早朝の静かな地平線と清涼な空が時間で変化していく色をイメージしたもの。新鮮なプラーナを吸ってフローするような心地よく呼吸を取り入れる感覚で、アジア人の肌に合うブルーというのを考えていたので、少しグリーンがかったブルーを作ってみました。でも、イマジネーションだけの世界の話は説明しにくいですよね。
Y まったく色も形もないものを具現化するということだものね。でも突き詰めて考えていくとおもしろいよね。
M 美弥子さんの絵を見た時に、色からヒーリングされるような感覚があって、ピンクの絵の前に立つとハートが温かくなるし、ブルーのところにくると静かな感じになります。「この色が好き」というのは人それぞれ違いますか?
Y はい、いろいろな感想をいただきます。でも私は色にパワーを感じて描いているわけではないし、その絵に引き寄せられているとしたら、それは見ている方自身を反映しているんですよね。絵には後からタイトルを付けるんですが、そのタイトルが購入してくださった方と偶然シンクロしているようなことも起きていて、絵は鏡のような役割でもあるんじゃないかな、と。
Michiruが惹かれるという、ピンクとパープルの組み合わせ。
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自分らしい美しさとは。
M 自然の中で生きる美弥子さんにとって、「美しさ」ってどういうものですか?
Y 若い頃、東京に住んでいた時は周りの人と比べてコンプレックスを隠すためにメイクをしていました。でも暮らしが変わって、いまは何もしない自分を美しく感じていられる。船の上での生活を経験したり、いまみたいに馬と犬とアヒルと一緒の毎日で、隠さなくても「私はこれでいいんだ」と。もしこの先私が東京で暮らして、メイクをしたりきれいにする機会があるなら、隠そうとするのではなく「もっと自分を楽しく表現しよう」と思えるはず。
M 自分のままでいいということですよね。いまってジェンダーもボーダーもなくなってきているから、私はその人らしさを表現できるのがビューティの世界かな?と思います。内面が現れるもののひとつだし、メイクを完璧に仕上げることも、艶肌にこだわりを持つことも、何もしないことも、その人らしい「美しさ」。美弥子さんにとってはもう、モロカイが自分のいるところという感じ?
Y そうですね。東京は生まれ故郷だけど、ここでの生活には戻れないかな。疲れてくると無性に土の上を裸足で歩きたくなるの。東京で暮らしていた時には考えたこともなかったけれど、ハワイに移住しておもしろい欲求が出てきたなと。でもきっと、みんなにも必要なことなんだと思います。
M 裸足で土の上に立つ機会なんて滅多にないけれど、都会にいるからこそリセットが必要ですよね。いろんなことを溜め込みすぎて、結局それがストレスになって出てきてしまうから。私は毎日、瞑想でリセットするんですけど、裸足になるのもいいですね。
Y 自然はそこにあるんだからね。こんなふうにお話ができて、ご縁があるのもすごいこと。今日はありがとうございました。
M 美弥子さんの作品からインスパイアされたものが生まれてきそうな気がします。ありがとうございました。
吹き抜けスペースにはコラボレーションの植栽や小屋が配され、都会のオアシス的空間に。小屋の窓を覗くのをお忘れなく!
会期:2023年9月15日(金) ー 10月1日(日) 11:00-20:00
会場:スパイラルガーデン(スパイラル1F)
東京都港区南青山5-6-23
tel: 03-3498-1171(スパイラル代表)
入場料:無料
www.spiral.co.jp/topics/spiral-garden/dawn-kind-of-blue
コラボレーションによるインスタレーションの展示
参加作家:/360°(建築)、春山福太郎(植栽)、浦野孝裕(映像)、ULTIMATE RHYTHM &NOISE featuring Luca(音楽)、渡邊謙一郎(家具)、飯田朋美(藍染め)、野口アヤ(服)、AFRIKA ROSE(生花)、テライシマナ(押し花)、Lei Malulani Healoha(レイ)
展覧会の特製ブックレットを5名様にプレゼント! 今回のテーマについて山崎さんが綴ったメッセージや、コラボレーション作家の紹介も収められた一冊です。下記のフォームからご応募ください。
応募締め切り:2023年10月20日(金)23:59まで
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photography: Daisuke Yamada