イギリス各地の庭を、写真で、文章で、その魅力を伝える。

Culture 2023.10.03

イギリスの庭に魅せられた、写真家と文筆家のめくるめく世界。

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戎 康友写真 鈴木るみこ著 青幻舎刊 ¥5,940

ページをめくるたび、ため息が漏れる。

布張り大判のその本を開くと、植物たちがあるがまま、奔放に生きて、息づいている。人工の野生であるところの庭園の中で、悠然と伸びやかにそこに在る。庭師たちの姿はそこにいることの喜びに満ちている。植物たちのありのままの瞬間を、戎康友がリンホフで写し取ったそれらの写真は、ある時は実にさり気ない自然な眼差しで、またある時は蜜蜂になったような心持ちでその場にあった気配までも捉えている。

庭の植物たちの優美さにめろめろになりながら、鈴木るみこが各地の庭や庭師に取材したエッセイを読む。イギリスの庭に心奪われた彼女が、同志であるところの「みどりのゆび」の持ち主たちと対話し、引き出した言葉は、私のイギリスの庭のイメージを刷新するものだった。恋人を愛でるように植物たちを育む庭師たちの言葉の隅々を丁寧に描写し、それぞれの庭とそこに関わった人々の人生が綴られている。決して自分語りではない、それなのに、鈴木自身がイギリスの庭と対峙した時間そのものが重なって感じられる。すっきりとしているのに彼女の視点と情感がリズミカルに伝わってくる端正な文章だ。取材は7年にわたる期間で、3度(2008年、14年、15年)行われたという。写真家と文筆家、ふたりの作者が時間をかけ、気持ちを傾け丹念に作り上げたひとつの賜物である。「めくるめくもうひとつの世界」がこの本の中に存在することに、読み手はすぐに気づくことだろう。

ヴァージニア・ウルフの庭を訪れた時、ウルフが入水し命を絶った川の辺で小石をコートのポケットに詰め込み、ひとり長い間歩いていた……鈴木に対する戎の回想も印象に残った。ともに作品を作り上げ発表してきたチームが傑作を生み、我々に残してくれたことに敬意を捧げたい。チームの要である有山達也のデザインがこの本の存在感を決定的にしていることは言うまでもない。

文:在本彌生 / 写真家
東京生まれ。アリタリア航空で乗務員として勤務する中で写真と出合う。2006年よりフリーランスの写真家として本格的に活動を開始。世界の衣食住を探るべく国内外を撮影。本誌でも連載中。

※『みどりの王国』発売を記念して10/8(日)に青山ブックセンター本店でトークイベントが開催。詳細はこちら▶︎▶︎

*「フィガロジャポン」2023年11月号より抜粋

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