恋の手本 さまざまな恋のカタチを知る、フランス映画18選。

Culture 2023.10.09

恋に惑い、狂い、恋に生きている――日本人から見て、フランス人にはそんなイメージもあるかもしれない。新旧の名作恋愛映画から、フランスの恋人同士の関係値や会話、ロマンティックの極致と言える作品をピックアップ。あなたはどの恋のカタチに惹かれるだろうか?

#01. 恋愛至上主義

『ベティ・ブルー 愛と激情の日々』|他人など存在しない、ロマネスクな狂気の恋。

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「狂気の恋」などと言うと陳腐に響くが、本作の恋愛はまさにそうとしか形容できない。かつて小説家を目指すも挫折し、いまは何でも屋で日々をしのぐゾルグは、奔放で情熱的な少女ベティに出会い恋に落ちる。当初は熱に浮かされたような日々を過ごすが、思い込みの激しい彼女は徐々に精神のバランスを崩し、やがて流産をきっかけに最悪の事態を迎える。彼らにとっては他人の目も社会的な体裁も関係ない。本作は自分なりの愛し方で突き進む女と、彼女を献身的に愛する男という図式だが、いずれにしろふたりにとって恋愛以上に価値のあるものは人生にない。ロマネスクの極致であるこの作品が、フランス公開時に大ヒットを記録し社会現象を起こしたのは、多かれ少なかれ、フランス人がこうした恋愛に憧れているからかもしれない。

●監督/ジャン=ジャック・ベネックス
●出演/ベアトリス・ダル、ジャン=ユーグ・アングラードほか
●1986年、フランス映画
●121分

『男と女』|抑えてもなお、忘れられないからこそのめり込む。

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恋愛映画の金字塔と言える本作は、道理をわきまえた大人たちが、それでもなお恋に燃え、相手を想わずにいられない狂おしい気持ちを描く。「ダバダバダ〜」のメロディで知られる音楽や映像は洒脱でも、登場人物は不器用なほど恋に真面目で一途だ。娘をドーヴィルの寄宿舎に預けているアンヌは、娘を訪ねた帰り、同じ学校に息子がいるレーサーのジャン=ルイに出会う。ともに伴侶に先立たれているふたりは惹かれ合い、パリに戻った後も再会を夢見るようになる。控えめで、過去を引きずっているアンヌと、モテ男だが内気なジャン=ルイ。感情を抑えようとすればするほど、想いは強度を増し、ついにタガが外れた時、もうふたりを止めるものは何もない。監督自身も「恋多き男」として知られるクロード・ルルーシュらしい、情感あふれる恋愛讃歌である。

●監督/クロード・ルルーシュ
●出演/アヌーク・エーメ、ジャン=ルイ・トランティニャンほか
●1966年、フランス映画
●104分

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#02. LGBTQ

『Summer of 85』|一瞬も離れたくない、と思えた初恋の人。

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16歳の夏、ノルマンディの海で遭難しかけたアレックスは、2歳年上のダヴィドに助けられる。陽気で自信に満ち、魅力的な彼にアレックスは、初めて恋という感情を経験する。ダヴィドもまたアレックスに惹かれ、ふたりは急速に接近。だがアレックスの思いつめた気持ちは、奔放で破滅的な人生を楽しむダヴィドに、次第に重荷となっていくのだった。フランソワ・オゾン監督は本作で、ホモセクシュアリティをいとも自然な思春期の恋心として描いている。夏の避暑地の太陽と風のもとで、「人生は短い」と、まるで生き急ぐかのようにすべてを経験したがるダヴィドに対して、「ほんの一瞬も離れたくなかった。それでも満たされなかった」と情熱を傾けるアレックスが切ない。誰かを真剣に愛することの喜びと痛みという普遍的な感情がきりきりと伝わってくる。

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●監督・脚本/フランソワ・オゾン
●出演/フェリックス・ルフェーヴル、バンジャマン・ヴォワザンほか
●2020年、フランス映画
●101分
● Blu-ray ¥5,280、DVD ¥4,290
販売:ハピネット・メディアマーケティング 発売:クロックワークス
Amazonプライム・ビデオにて配信中

 

『アデル、ブルーは熱い色』|性の垣根なしに、自分に正直に恋をする。

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17歳のアデルはある時、街でブルーの髪をした魅力的な美大生、エマとすれ違い、一目惚れをする。それまで男子と付き合っていたものの、いまや彼女のことが頭から離れない。数日後、運よくエマに
会したのを機に交際が始まり、ふたりは情熱的に愛し合うようになる。スティーヴン・スピルバーグが「偉大な愛の映画。その一言に尽きる」と賞賛し、2013年カンヌ国際映画祭でパルムドールを授与した本作。LGBTQ映画の代表作のひとつとして挙げられるものの、アデルの場合、好きになったのがたまたま同性の人だったと言うほうがふさわしい。あるいはエマに出会ったことで、自身の真の欲望に目覚めたというべきか。「愛に性の垣根はない」というセリフどおり、心の赴くまま、素直に生きるのが彼女たちなのだ。その姿は健気で美しく、まぶしいほど純粋だ。

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●監督・共同脚本/アブデラティフ・ケシシュ
●出演/アデル・エグザルホプロス、レア・セドゥほか
●2013年、フランス映画
●179 分 
●Blu-ray ¥3,278
販売:ツイン 発売:コムストック・グループ デジタル配信中

 

『燃ゆる女の肖像』|社会的因習に阻まれながら、真実の愛を育む。

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見つめること、見つめられることで気持ちが昂り、愛が生まれる。眼差しは時に、愛の言葉よりも饒舌に感情を伝える。18世紀の孤島を舞台に、伯爵夫人の娘エロイーズの肖像画を描くために呼び寄せられた画家、マリアンヌは、その一挙一動を観察しながら、次第にエロイーズに惹かれていく。だがエロイーズもまた、絵を描くマリアンヌをじっと観察していた。やがてお互いが警戒の仮面を脱ぐ頃には、ふたりの気持ちはすでに明らかだった。女性が自分の人生を自分で決められない時代、エロイーズとマリアンヌの恋は秘め事でしかない。だがふたりきりになれば、身分の違いも社会的なタブーも存在しない。エロイーズは親が決めた結婚相手の元に嫁ぐものの、マリアンヌと出会ったことで、彼女の内面は生まれ変わることになったのだ。

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●監督・脚本/セリーヌ・シアマ
●出演/ノエミ・メルラン、アデル・エネルほか
●2019年、フランス映画
●122分
●Blu-ray ¥2,200 販売・発売:ギャガ
Amazonプライム・ビデオほかにて配信中

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#03. 三角関係

『汚れた血』|見返りを求めない恋の至福と痛み。

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レオス・カラックスの言わずと知れた傑作は、SF的な設定のなかでドラマティックな恋のトライアングルが描かれる。奇病が蔓延するパリで、カードマジックを職とする手先が器用なアレックスは、死んだ父親の友人仲間マルクに請われて、窃盗の手伝いをする。だがアレックスが決意した本当の理由は、マルクの若い愛人、アンナに惹かれたからだった。同世代のアレックスとアンナは、まるで子どものように無邪気に遊ぶ。トライアングルというよりは、アレックスの片想いに等しいが、アンナは彼といる時は童心に戻る。本作を機にカラックスと付き合い始めたジュリエット・ビノシュのあまりの美しさに観客は、アレックスに共感を覚えずにはいられないはず。見返りを求めない純粋な愛は、至福と同じぐらい痛みもあることを、この映画は教えてくれる。

●監督・脚本/レオス・カラックス
●出演/ドニ・ラヴァン、ジュリエット・ビノシュ、ミシェル・ピコリほか
●1986年、フランス映画
●125分

『恋のエチュード』|どろどろしない、美しきトライアングル。

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フランソワ・トリュフォーの作品のなかで『突然炎のごとく』と並んで恋のトライアングルを描いた作品だが、本作はひとりの男性と姉妹という組み合わせ。20世紀初頭、パリに家族と住むクロードは、イギリスから遊びに来た母の旧友の娘アンと知り合う。意気投合し、アンの家族が住むイギリスのウェールズで一夏を過ごすことになった彼は、アンの妹ミュリエルと出会い、姉と妹、両方に恋をする。姉妹の間にも嫉妬はなく、しばらくは3人の天国のような日々が続くのだが。三角関係を描いた作品では珍しく、どろどろとした感情とは無縁であり、ひたすら繊細で美しい。まるでひと時の白昼夢を見るようだ。ちなみにトリュフォー好きで知られるアルノー・デプレシャン監督も、本作を恋のトライアングルを描いた好きな作品として推薦している。

●監督・共同脚本/フランソワ・トリュフォー
●出演/ジャン=ピエール・レオー、キカ・マーカム、ステイシー・テンデターほか
●1971年、フランス映画
●130分
Amazonプライム・ビデオにて配信中

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#04. 凄まじい会話劇

『モード家の一夜』|言葉で擬似恋愛を楽しむような醍醐味。

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恋愛映画の名手であるエリック・ロメールの典型的な会話劇の一作。クリスマスを前にしたある日、敬虔なカトリック教徒の男が、教会で見かけた女性に一目惚れをする。その後友人の哲学者ビダルと再会し、誘われるまま彼の女友だちモードの家を訪れる。無神論者で自由なふたりは、女性の話題を持ち出し、男の敬虔さを試すかのように質問攻めにする。やがてビダルが先に退出し、雪が降り夜も更けるなか、男とモードはふたりきりになる。男の頭には、昼間見た美しい女性のことがあるが。「僕は誰も愛さない」と言いつつ、モードに「24時間しか一緒にいないけれど、君をずっと前から知っていた気がする」と言ってみたり、男の真意が測りかねる一方、モードの思わせぶりな態度も気になる。会話で擬似恋愛を楽しむような醍醐味がある。

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●監督・脚本/エリック・ロメール
●出演/ジャン=ルイ・トランティニャン、フランソワーズ・ファビアンほか
●1968年、フランス映画
●110分
●DVD ¥5,280 販売:紀伊國屋書店 発売:シネマクガフィン

 

『そして僕は恋をする』|パリのインテリ学生の、等身大のセックスライフ。

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30歳を目前にしながら、博士論文も提出しないまま大学院講師の座に甘んじるポールは、マンネリの恋人、親友の彼女、大学のエキセントリックな女友だちと、女たちの間で揺れ動く。哲学を専攻したインテリだが、頭でっかちで優柔不断。気の強い女性に引きずられてばかり。果たしてポールに新しい未来は訪れるのか。原題が「いかに僕は口論したか。“セックスライフ”」と銘打っているだけに、セックスを話題にかなりあけすけなセリフが連発される会話劇だ。「あそこにキスすると怒鳴られる」「後ろは?」「問題外だ」「女が相手だと無能ね」。下世話に陥りがちな話題を、デプレシャン監督はウィットに飛んだ洗練されたものに仕立て、同世代から圧倒的な共感を得た。パリ、カルティエ・ラタンの学生たちの、等身大の生活をうかがい知ることができる。

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●監督・共同脚本/アルノー・デプレシャン
●出演/マチュー・アマルリック、エマニュエル・ドゥヴォスほか
●1996年、フランス映画
●178分
●アルノー・デプレシャン初期傑作選 Blu-ray BOX ¥15,400 販売・発売:アイ・ヴィー・シー

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#05. 振り回される恋

『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』|がむしゃらな愛に身を任せた結果、得たものは……?

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現代のドン・ジュアン物語を女性の視点から見つめた作品。憧れの人だったジョルジオをついに射止めたトニーは、彼が遊び人と知りつつも溺れ、「子どもが欲しい」という彼の子を妊娠。めでたく結婚となったものの、それからが修羅場に。ジョルジオの元カノが自殺未遂を図ったり、ほかのアパートを借りて浮気相手を連れ込んでいたり。怒りをぶつければ「俺が俺だから惹かれたんだろ」と開き直られる。裏切っては甘い言葉で懐柔し、逃げたかと思えば舞い戻る。振り回されっぱなしのトニーがあまりに痛々しく、観ているこちらは「よせばいいのに」を何度も頭のなかで連発するはめに。「がむしゃらな愛に失うものなどない。ただその深みに身を投げるだけ」と語るトニーの愛し方は、ある意味あっぱれだ。しかし本当に失うものはないのか、を考えさせられる。

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●監督・共同脚本/マイウェン
●出演/ヴァンサン・カッセル、エマニュエル・ベルコほか
●2015年、フランス映画
●126分
●DVD ¥4,180 販売:アルバトロス 発売:セテラインターナショナル、ニューセレクト

 

『愛を綴る女』|本当の愛とは何なのか、を問いかける。

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恋愛でひどい経験をさせられるのはもちろん、女だけではない。つれない女にハマった男たちもまた、地獄を見ることになる。ミレーナ・アグスの原作を映画化した本作は、1950年代、南仏の村に住む美しいが精神的に不安定な女性ガブリエルと、彼女の母により強引にガブリエルと結婚させられた労働者、ジョゼの物語。彼にとってガブリエルは高嶺の花だったが、結婚当初から「愛していない。絶対に愛さない」と宣言される。やがて病を患って入院した病院で出会った若い兵士を、彼女は運命の相手だと思い込み、追いかける。すべてをわかったうえで寡黙に受け入れ、それでもガブリエルを愛するジョゼの姿には、真の男気が感じられる一方、頑なにジョゼを拒み続けるガブリエルが追うのは、あくまで幻想の恋でしかない。本当の愛とは何かを、観る者に痛切に問いかけてくる。

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●監督・共同脚本/ニコール・ガルシア
●出演/マリオン・コティヤール、ルイ・ガレルほか
●2016年、フランス映画
●120分
●DVD ¥4,180 販売:アルバトロス 発売:ニューセレクト

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#06. 思いがけない出会い

『メニルモンタン 2つの秋と3つの冬』|ゆっくりでもいい。なんとなく恋らしきものが進む。

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映画のキャッチが「ぱっとしない大人たちの、恋の季節」とあるように、どこにでもいそうな冴えない男と、男運のない地味な女が織りなす愛の邂逅。33歳のアルマンは、求職中で恋人もできない。そんな彼が生活を一新しようと決心した時、新しい出会いをするのはなんとジョギング中だった。近所の公園を走っている時、同じく走ってきたアメリとばったり鉢合わせをする。もっとも、そこからすぐに交際が始まるほど容易ではないものの、とにかく、こうして彼らのスローな交際が始まる。飲みに行ったり、ディナーに招いたりという平凡なデートを経てようやく幸せを掴んだかに見えたふたりだが、アメリの迷いによって再び障害を迎える。人生は山あり谷ありだが、それでもどこかに出会いはあり、修復や和解もまた不可能ではないのだ、と思わせてくれる。

●監督・脚本/セバスチャン・ベベデール
●出演/ヴァンサン・マケーニュ、モード・ウィレールほか
●2013年、フランス映画
●90分

『愛されるために、ここにいる』|タンゴが50代男にもたらした、人生の再生。

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仕事にも人生にも疲れたバツイチ50代の男が、医者の勧めでしぶしぶ通い始めたのがタンゴ教室。だがそこで、子どもの頃、彼の母親に世話になっていたという30代のチャーミングな女性フランソワーズに出会う。こうして彼女とタンゴを踊るようになったのが、すべての始まりとなる。ペアで踊るタンゴはふたりの呼吸と相性が要。抱き合って踊るゆえに、吐息すら聞こえる接近度で、ジャン=クロードは長らく忘れていたときめきを得る。しかしフランソワーズには婚約者がいることがわかり……。原題の直訳は、「愛されるためにここにいるわけではない」。つまりジャン=クロードは、「愛するためにいる」のである。フランソワーズが人のものであることがわかっても、何を彼女から求めるのでもなく、ただ心のなかで愛し続ける、限りなく利他的な愛なのだ。

●監督・共同脚本/ステファヌ・ブリゼ
●出演/パトリック・シェネ、アンヌ・コンシニほか
●2005年、フランス映画
●93分

『パリのどこかで、あなたと』|若者よ、携帯を置いて街に出よう。

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セドリック・クラピッシュ監督の作品の多くは現実に根ざし、こういうシチュエーションあるある、と思わせられることが多い。本作もまさにそのひとつ。主人公の男女は隣り合ったアパルトマンに住み、道ですれ違ったり、同じ薬局やスーパーに行ったりと、顔を合わせる機会には事欠かないのに、知り合う機会がない。それぞれ孤独で恋人を持ちたいと願って、職場の同僚を誘ったり出会い系サイトなどで試すものの、ふたりともうまくいかない。そんな彼らがついに出会う場所は。ネタバレになるので控えるが、これもまたいかにもフランスらしい展開だ。SNSなどではなく、生身のふれあいを大事にするこの監督らしいアイデアが光る。孤独な人間が多いパリのような都会にありがちなシチュエーションを生かした、心が和む物語だ。

●監督・共同脚本/セドリック・クラピッシュ
●出演/フランソワ・シヴィル、アナ・ジラルドほか
●2019年、フランス映画
●111分
Amazonプライム・ビデオにて配信中

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#07. 恋愛遊戯

『カプリス』|恋はあくまでライトに、が、人生を楽しむ流儀。

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デビュー当時、トリュフォーの後継者といわれ、恋愛映画しか撮らないことを自負するエマニュエル・ムレ監督が手がけた、恋の輪舞を描いたコメディ。ひょんなことから憧れの女優と付き合うことになり、夢見心地の小学校講師クレマン(ムレ自身が快演)。だがそこに女優の卵という若い女性カプリスが現れ、彼に猛然とアタックをかけてくる。ほとんどストーカーと言えるような彼女の粘りと情熱にぐいぐいと引きずられ、クレマンはふたりの間で揺れる、という、フランス映画に多いひ弱系男の典型。ちゃっかりその隙を狙ってクレマンの親友が女優に接近するにいたって、たとえ友人仲間でも油断のならないパリジャンたちの交友関係が浮かび上がる。だがあくまでライトで重くならないのが、ムレ監督流の人生を楽しむ流儀と言えるかもしれない。

●監督・脚本・出演/エマニュエル・ムレ
●出演/アナイス・ドゥムースティエ、ヴィルジニー・エフィラほか
●2015年、フランス映画
●100分

『パリの恋人たち』|狙った獲物は逃さない、恋の宣戦布告。

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アベルは3年同棲していた恋人マリアンヌから、いきなり別れを告げられ、家も追い出される。彼女はアベルに内緒で、彼の友人ポールと恋仲になり妊娠したのだった。だが数年後、ポールが亡くなり、その葬式でアベルはマリアンヌに再会。想いが再熱し、マリアンヌにやり直そうと迫る。一方、子ども時代からアベルに憧れていたポールの妹は、アベルについに告白。さらにマリアンヌに宣戦布告する。「アベルを私にちょうだい。愛していないでしょ?」「断ったら?」「戦争ね」。狙った獲物は諦めず、あっけらかんと宣言するところは、まるで『仁義なき戦い』だ。監督、主演のルイ・ガレル自身、フランス映画界のモテ男であるがゆえに、説得力を感じてしまう。ちなみにマリアンヌを演じるのは、私生活でもガレルのパートナーであるレティシア・カスタという点が、さらに好奇心をそそる。

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●監督・共同脚本・出演/ルイ・ガレル
●出演/レティシア・カスタ、リリー=ローズ・デップほか
●2018年、フランス映画
●75分
●DVD ¥4,180 販売元:オデッサ・エンタテインメント 発売元:サンリス
Amazonプライム・ビデオほかにて配信

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#08. 悲恋

『美しいひと』|愛する人すら、本当に知ることはできない。

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17世紀末に書かれた小説『クレーヴの奥方』を、クリストフ・オノレが現代に置き換えて映画化。パリのリセに転校してきたジュニーは、従兄弟の友人のオットーと交際を始めるが、新しく担任になったヌムールに内心惹かれている。ヌムールは女たらしという評判だったが、ジュニーに本気になる。ふたりは一線を越えたわけではなかったものの、思いつめたオットーが自殺。ヌムールは休職し、その後あらためてジュニーの前に現れ求愛するが、彼女は拒否する。原作では、奥方は求愛を断り修道院に入ることを考えれば、ジュニーの決断は愛が壊れるのを恐れるゆえの拒否と言うべきか。愛に求めるものが大きければ大きいほど、悲恋は避けられないのかもしれない。ジュニーが最後に呟く「愛する人すら、本当に知ることはできない」という言葉が耳に焼きつく。

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●監督・共同脚本/クリストフ・オノレ
●出演/ルイ・ガレル、レア・セドゥほか
●2008年、フランス映画
●88分
●DVD ¥4,180 販売・発売:オンリー・ハーツ

 

『すぎ去りし日の…』|大人の事情に囚われた不倫の行方。

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フランスで愛されているロミー・シュナイダーとミシェル・ピコリの、悲劇的な不倫物語を描いた人気作。過去と幻想、フラッシュバックや逆回しなどを織り交ぜた構成も印象的だ。妻と別居中のピエールは現在の恋人エレーヌと暮らしているが、息子に合うと決心が緩み、彼女とヴァカンスに出る約束を反故にする。だが、やはりエレーヌへの気持ちを抑え難く、猛スピードで車を飛ばして会いに行く最中に……。たまらなく愛していても、妻への罪悪感や息子への愛に後ろ髪を引かれ、いつまでもけじめをつけられない男と、そんな彼を責めながらも愛し続ける女。大人の事情に囚われた恋愛に決着をつけたのは、ある悲劇だった。三角関係が悲恋に終わる顛末を、名匠クロード・ソーテがしっとりと描く。シュナイダーの憂いを帯びた美しさが一層、切なさを募らせる。

●監督・共同脚本/クロード・ソーテ
●出演/ロミー・シュナイダー、ミシェル・ピコリほか
●1970年、フランス映画
●88分

*「フィガロジャポン」2023年11月号より抜粋

interview & text: Kuriko Sato

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