フェムテックは、治療のあり方をどう変える?

Culture 2024.01.09

魅力的なアプリや革新的なフェムテックが女性たちを次々にとりこにしている。小さな革命は、治療のあり方を変え、医師と患者の関係を問い直す。

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健康分野において、デジタルテクノロジーと人工知能は注目を集める一方、倫理的な問題も提起している。photography: shutterstock

婦人科領域に特化したアプリやデバイスが増加している。世界中で1200万人以上のユーザーが生理周期の追跡に使用している人気アプリClue(クルー)をはじめとして、妊活トラッキングのAva(アバ)ブレスレット、骨盤底筋をトレーニングするElvie(エルビー)センサー、更年期の体温を調整してくれるAircon Watch(エアコン ウォッチ)なども登場している。

「フェムテック」(女性とテクノロジーの略)分野をリードしているアメリカでは、この市場が2050年までに500億ドル(約7兆4885億円)に達する可能性があるという。そして、フランスでも、女性の健康課題の満たされないニーズに取り組み、活動するスタートアップが増えている。

2021年にリリースされた外陰部痛に特化したアプリ、Vulvae(ヴァルヴィ)もそのひとつ。同アプリを立ち上げたパオラ・クラヴェイロは、「外陰部痛はいまだにタブー視されているテーマであり、関連する患者にはほとんど情報が届いていない」と指摘する。Vulvaeは、痛みや治療を記録したり、パートナー医師によって科学的に検証されたオンラインリソースにアクセスできるデジタル日記ツールというかたちをとっている。

すでに存在している、もしくは現在開発中のアプリを使用する際に患者が求めるのは、知識、快適性、安全性の向上だ。ストラスブール大学病院は2018年、乳房手術後のリンパ浮腫を検出することを目的に患者の腕に装着するデバイスLymphometry(リンフォメトリー)の実証実験をした。「乳房手術は外来で行われることが増えています。こうしたモニタリングアプリは、患者が安全かつ適切に自宅に戻ることを可能にします。緊急時には、患者は迅速に診察を受けることができるでしょう」と、仏キュリー研究所の麻酔科医でブログ「IA et médecine(AIと医療)」を運営するパスカル・マイヤー医師は述べる。これらのメリットは、医療アクセスが限られた地域では、さらに重要になると考えられる。

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治療技術の進歩

新しいテクノロジーは、研究をも推進する。Vulvaeは、陰部の疾患に関する史上最大のデータベースの構築に貢献した。しかしプライバシーの問題から、40万件の観察データ(イタリアの大学との協力により収集)はもちろん、ユーザーがシェアした情報はすべて匿名化されなければならない。

デジタルテクノロジーと人工知能に多くの関心が寄せられる一方、倫理的な問題もある。「アメリカで中絶が違法になった際には、月経追跡アプリに入力されたデータは、訴追の証拠となる可能性がある」と、イノベーション分野に特化したブラスト法律事務所の共同創設者で弁護士のクレマンス・マローラは述べる。

健康データはセンシティブであり、アプリやデバイスで個人情報をシェアする前に、データが機密であること、RGPD(一般データ保護規則)に準拠していること、ヨーロッパのサーバーでホストされていることを確認することが重要だ。

医師たちの間でも意見は分かれている。神経科医で書籍『Humanité et numérique(原題)』(Apogée刊)共同編集者のセルヴァーヌ・ムートン医師は、制限なしにこうしたデータが使用されることに懐疑的な立場を表明している。「真の問題は、アプリがそれぞれの患者に本当に何らかの付加価値をもたらしているかどうかということ」と彼女は述べ、デジタルツールの影響に注意を払う。

パスカル・マイヤー医師は次のように断言する。「私が恐れているのは、医師の監視なしに、独自の判断を下すアプリです」。ただし、技術的にはまだ実現可能でないと彼は考えている。これらの新たなテクノロジーがどれほど優れているか否かにかかわらず、あくまでも補助ツールとしての位置に留まるべきだ。

「すべてをアルゴリズム処理に委ねることは、人間を機械に委ねること。人間はそれよりもはるかに複雑です」とセルヴァーヌ・ムートン医師は述べ、人間関係と診療はテクノロジーに置き換わるものではないと強調している。

text: Delphine Bauer (madame.lefigaro.fr) translation: Hanae Yamaguchi

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