本質的で普遍的なメッセージが込められたエッセイ集。
Culture 2024.01.20
言葉が刺さり、浸透する、最果タヒのエッセイ、51本。
『恋できみが死なない理由』
曲がりなりにも文を書くことを生業としている私は、少なからず「感じる」と「望まれる」のずれを埋めながら生きている。「他人や世間に対してネガティブな感情を抱いたり、それでいて表情や態度はまったく違ったり。こんな自分は望まれてないよね?」。こうして、たとえば「嫌い」を「好きじゃない」に言い換えているうちに、あの頃より文章は上手くなったかもしれないけれど、鮮度も純度も格段に落ちていることに、ある時気付かされた。ある時とは最果タヒさんの言葉に出合った時。このエッセイ集の帯にも記されている「私は感情の起伏が激しくて......、最近これは『心が派手』ということなんだなと思うようになった」は、私だけでなく誰にも思い当たる節があるのではないかと思う。仕事でも恋愛でも日常の何気ないひとコマにふと湧き上がってくる「何か」には、しばしば濁った色、不快な音、ざらついた質感があるもの。でも、心の中の視覚や聴覚や触覚が作り上げる思考こそが「私」と思い知る。自分に嫌気がさす、けれど自分に愛着も湧く、それを丸ごと熟成させるのが人生なのかもしれない、と。
ページをめくるたびタヒさんの言葉が刺さり、まるで「針コスメ」のように浸透するのだけれど、特にいまの私を強くした一節がある。
「年をとっていくことで、大望をいだかなくなる、なんていうのは嘘だと思う。年をとってみつけた夢は、若い頃に語っている夢より、ずっとスムーズに『目標』という形に姿を変えていけるから、むしろ昔の夢よりずっと、大きいのではとも思う......。自分が生きているってこと、普通であり続けるっていうことが、奇跡なのだと知っているからこそ」(「ご挨拶2017」)
格好をつけなくたっていいじゃない? 格好をつけたっていいじゃない? 私は私でありたいし、私は私になりたいのだから。この一冊に詰め込まれているのは、そんな、普遍的で本質的なメッセージ。
鳥取県生まれ。大学卒業後、航空会社、広告代理店を経て、出版社に入社。現在はフリーランスとして美容やインタビューを中心に活動。近著の『顔は言葉でできている!』(講談社刊)ほか著書多数。
*「フィガロジャポン」2024年2月号より抜粋