人生に戸惑うアラサー、わが友グレタ・ガーウィグ。

Culture 2024.03.16

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photography: Everett Collection/アフロ

2023年の夏、世界中をピンクに染めた映画『バービー』。女性の気持ちを正直に、そしてありのままに代弁した本作は、アメリカ本国のみならず、日本にも女性として生きる喜びとエールを届けた。その中心にいるのが、グレタ・ガーウィグだ。彼女は女優としても数多くの作品に出演し、その後『レディ・バード』で監督デビュー。等身大の女性ヒロインたちを描き、名立たる映画賞を受賞してきた。そんな彼女は、2024年にアメリカ人女性監督として初めてカンヌ国際映画祭の審査員長に選ばれ、いまいちばん勢いのある女性監督のひとり。
フィガロジャポンでは、グレタ・ガーウィグの魅力を4回に渡って解剖する。

自身もグレタの大ファンである山内マリコは、『ここは退屈迎えに来て』で単行本デビュー。近年では、東京の異なる階級社会を描いた『あのこは貴族』、女性たちの気持ちに寄り添った短編+33のエッセイ集『あたしたちよくやってる』、自身の結婚生活を綴った日記エッセイ『結婚とわたし』などの作品を通して、"わたしたち"を応援してきた。そんな山内マリコをも魅了するグレタ・ガーウィグの魅力とは。

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『レディ・バード』、『ストーリー・オブ・マイライフ』、『バービー』......  たった3つの監督作で、「名匠」みたいな存在へと駆け上っていった。グレタ・ガーウィグは、ミレニアル世代の星だ。

わたしは年齢でいうと彼女の3つ年上だが、気分的には1個下の後輩くらいの感じがする。なんとなく先輩感が漂う。なんでだろう。といっても、しっかり者で完璧な、憧れの先輩ではない。豪快な失態で輝く、いつも破れかぶれな先輩。人生に正面からぶち当たって、派手に転んだ姿を見せてくれる。だからこそ学ぶべきところが多い。

そう思うのはきっと、わたし自身がアラサーでシングルだった悩み多き年頃に、彼女の主演作を立てつづけに観ているからだろう。殿堂入りの名作『フランシス・ハ』はもちろん、『29歳からの恋とセックス』というマイナーな映画もすごくよかった。いずれも、わたしの中で「グレタ・ガーウィグのイタいアラサー映画」として括られている。

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photography: ©Pine District, LLC.

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若いだけの日々は過ぎ去り、アラサーになってはじめて、わたしたちは"女の子"という特別枠を卒業して、"人間"になる。人間になったばかりの数年は、よちよち歩きなので失敗も多い。その失敗を、グレタ・ガーウィグほど体当たりで見せてくれた人はいない。

親友が結婚してしまったり、自分の結婚がダメになったり。年齢的にも「結婚」は大きなテーマだ。言うまでもなく結婚は、しなかったり、できなかったりしたときに、女性をもっとも成長させる。もしかしたら女の人がいちばん魅力的なのって、この逆境かもしれない。

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完成度の高い『フランシス・ハ』は、劇場で一度観たきりだ。完璧な短編小説のような切れ味に惚れ惚れした。同じく脚本・主演作『ミストレス・アメリカ』をはじめて観たのは、たしかニューヨーク行きの飛行機だった。

『ミストレス・アメリカ』はすごく変わった映画だ。親同士の再婚で義理の姉妹になることになった、姉グレタ・ガーウィグと、妹ローラ・カーク。田舎からNYに出てきたばかりの文学部の学生ローラ・カークは、NYを庭のように自由に生きるグレタ・ガーウィグに一発で魅了され、すっかり彼女の虜となる。しかしあんなに魅了されながら、義姉をモデルにした短編小説では、とても冷徹な眼差しで、この魅力的な人物の欠点を書き連ねていた。曰く......
「彼女には魅力以外の武器がなかった」
グレタ・ガーウィグが演じるブルックは、自称インテリア・デコレーター。最初こそ素敵なアパートに住む自立した女性に見えたが、実はエアロバイクのトレーナーや中学生の家庭教師といったバイトを掛け持ちして生きている。

シングルのアラサー女性が自活するのは簡単ではない。なんとかこの状況から脱却しようと、経験もないのにレストラン開業の夢を見て、資金集めに奔走している。
夢について語る場面が印象的だ。

「30歳くらいまでは夢への強い思いなんてない。

思いは年を重ねるごとに強くなる。

願望は強まるけど可能性は減るから」

好きなことで生きていきたい、自分を活かして生きていきたい。そういうアラサー女性の夢を、『フランシス・ハ』は見事に、現実的な解決へと着地させていた。

しかし『ミストレス・アメリカ』では、彼女はただ夢破れて、NYの街を去ることになる。アラサー女性の淡い夢がやすやすと叶えられるような時代はすでに終焉しているのだ、というシビアな後味だ。けれど映画は、その敗北を華々しく、祝福するかのように描いている。彼女の健闘を讃えている。

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アラサーのときに自分に向き合わず楽をすると、その後の人生でツケが回る。逆にアラサーのとき、納得いくところまで踏ん張ったら、そのあとで人生が拓けてくる。

俳優としてのキャリアをストップして、2017年に撮った『レディ・バード』以降、グレタ・ガーウィグ監督作はどれも傑作だ。女性の映画監督が、彼女自身の感性や、やりたいことを貫く形で、商業的にも批評的にも大成功を収めるなんて、ハリウッド初の偉業かもしれない。これはすごいことなのだ。

そのキャリアを眩しく見つめながら、わたしはこんなふうに思っている。

「当然ですよ。だって先輩、アラサーのとき、めっちゃがんばってましたもん!」

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『フランシス・ハ』
●監督/ノア・バームバック
●主演/グレタ・ガーウィグ、ミッキー・サムナー、アダム・ドライバー
●発売元:新日本映画社
●販売元:ポニーキャニオン
©Pine District, LLC.

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『ミストレス・アメリカ』
●監督/ノア・バームバック
●主演/グレタ・ガーウィグ、ローラ・カーク、ヘザー・リンド
●発売:ウォルト・ディズニー・ジャパン
© 2024 20th Century Studios.

text: Mariko Yamauchi

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