欠点は個性?! 社会規範からの自由を模索するミレニアル世代の代表、グレタ・ガーウィグ。
Culture 2024.04.07
30代になることへの不安と希望を描いた、映画『29歳からの愛とセックス』。photography:『29歳からの恋とセックス』ディズニープラスのスターで配信中。 © 2024 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.
女優、そして映画監督として知られるグレタ・ガーウィグは1983年生まれ。80年代から90年代半ばに生まれた世代をミレニアル世代と呼ぶが、日本だと昭和から平成へと差し掛かり、価値観が大きく変化した時代でもあるとも言えるだろう。年を重ねたら必ず"大人"にならなければいけないというわけではなく、等身大の姿でいいと肯定してくれたのは、ミレニアルの星、グレタ・ガーウィグだったのかもしれない。
本人に2度インタビュー経験のある映画ジャーナリストの立田敦子に彼女の素顔と魅力、そして未来を尋ねた。
フランスのヌーヴェル・ヴァーグやウディ・アレン、ジョン・カサヴェテスなどNY派の影響を受けたインディーズの潮流"マンブルコア派"の女優として頭角を現したグレタ・ガーウィグは、ノア・バームバック監督の『フランシス・ハ』(12年)で押しも押される存在となった。バームバック監督作『ベン・スティラー人生は最悪だ!』(10年)への出演がきっかけでプライベートでもパートナー関係となったふたりが共同で書き上げ、グレタが主演した本作は、当時27歳だったグレタ自身の恋愛観や人生観が反映された等身大の主人公が女性観客の共感を呼びヒット、批評家からも高く評価された。女優として名前が出始めてはいたが、学生時代は脚本家志望だったグレタはクリエータータイプであり、そんな彼女の資質を開花させたのが『フランシス・ハ』だった。2年後の2014年のベルリン国際映画祭では審査員のひとりの抜擢されたが、これも映画界の彼女への大いなる期待の現れだった。
映画『ベン・スティラー 人生は最悪だ!』のベン・スティラー演じる人生迷子中のロジャーは、ノア本人を表現しているという。photography: © 2009 Focus Features LLC. All Rights Reserved. U-NEXT配信中
監督デビュー作の『レディ・バード』(17年)は、アカデミー賞監督賞、脚本賞にノミネートされるという快挙を成し遂げた。ソフィア・コッポラ以来のインディーズ系大型女性監督の誕生である。1971年生まれのソフィア・コッポラより一回り年下の1983年生まれ、ミレニアル世代のグレタは、ソフィアもそうだったように、これまでにないまったく新しい感性とアプローチで独自の世界観を作り上げている。自分自身をある種投影している女性主人公たちは、優秀で生意気で頑固で、ちょっと狂っている(いい意味で)。頭はいいけれど、ものわかりのいい優等生にはなれず、時に自家中毒に陥って葛藤する。社会規範の女性像から開放され、自由に率直に目の前にある問題や人生を見つめる主人公たちには、圧倒的なリアリティがあった。こうしたfemale gazeは、これまでには有りそうでなかったアプローチである。
連続2作品主演として作品に参加したシアーシャ・ローナン。自称レディ・バードと名乗る高校生の主人公クリスティンの成長を描く映画『レディ・バード』。photography: ©︎2017 InterActiveCorp Films, LLC. All Rights Reserved.
筆者は、2度ほどグレタにインタビューしたことがあるが、実際のグレタも彼女が描く女性たちを彷彿とさせる。
活気が漲り、知り合ったらすぐに誰とでも友達になってしまいそうなフレンドリーさがある。
けれど、感じがよいだけで終わらないのがグレタの魅力でもある。
ノア・バームバッグ曰く「頑固」なのだが、愚直なまでに自分に素直であろうとする姿勢が言葉の端々に垣間見られる。
『ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたし若草物語』(19年)のインタビューの際に、感銘を受けたのはその洞察力と取り繕わない物言いだった。南北戦争時代を背景にしたオルコットの不朽の名作を映画化した本作は、キャラクターを掘り下げ、新解釈することによって、とてつもなく現代的な物語に生まれ変わった。いや"生まれ変わった"のではなく、原作にあったモダニティを発見し、磨きを掛けたといったほうが適切だろう。
ルイーザ・メイ・オルコット著「若草物語」を映画化した『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』。四女エイミーを演じたフローレンス・ピューは、この作品で一躍大スターに。photography: ©2019 Columbia Pictures Industries, Inc., Monarchy Enterprises S.a r.l. and Regency Entertainment (USA), Inc. All Rights Reserved.
4姉妹のどのキャラクターにも共感するというグレタは、三女のベスに対して"変わり者"だと分析した。通常は、大人しくて心優しい"聖人"のように見られているけれど、それだけの女性ではない、と。グレタにとって"変わり者"は決してネガティブな表現ではないのだ。これまで男性優位の社会では、女性が頑固であること、生意気であること、変わり者であることは決して褒め言葉じゃなかった。けれど、グレタはこうした資質を受け入れる。その圧倒的なポジティブさと肯定感はグレタの最大の強みだ。
スタンリー・キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』を模したような『バービー』の冒頭シーン。photograhy: ©2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
そんなグレタはご存知のように、最新作『バービー』で大成功を収めた。全世界興行収入は14.4億ドルを突破、2023年で最大のヒットとなった。完璧な世界で生きるバービーが、男性優位社会である人間界に行くという設定により、ジェンダー・イクオリティやフェミニズムの概念を解体し、可視化するという芸当をやってのけた。さらには"バービーの彼氏"というアイデンティティしか与えられていなかったケンというキャラクターを通じて、"トキシック・マスキュリニティ(有害な男性性)"による男性の生きづらさにも目配せしている。ちなみに、筆者は冒頭の『2001年宇宙の旅』のパロディなど必ずしも手放しで本作を称賛しかねるのだが、それでもこの映画がエンタメ作品でありながら、現実においてフェミニズム的にも重要な作品であることは間違いないと思う。アカデミー賞においては7部門8ノミネートを獲得しながら、歌曲賞"What Was I made for"のみの受賞結果になった。しかしながら、おそらくこの"壁"はグレタにとって新たなる創作の着火点になるだろう。
2024年のカンヌ国際映画祭では審査員長に抜擢されている。9名からなる審査員団だが、審査員長の視点が結果に色濃く反映されるのがカンヌの常。今年のカンヌの結果には大いに期待できそうだ。
『フランシス・ハ』
●監督/ノア・バームバック
●主演/グレタ・ガーウィグ、ミッキー・サムナー、アダム・ドライバーほか
●発売元:新日本映画社
●販売元:ポニーキャニオン
©Pine District, LLC.
『ベン・スティラー人生は最悪だ!』
●監督/ノア・バームバック
●主演/ベン・スティラー、グレタ・ガーウィグ、ジェニファー・ジェイソン・リーほか
©2009 Focus Features LLC. All Rights Reserved.
U-NEXT配信中
『バービー』
●監督・脚本/グレタ・ガーウィグ
●脚本/ノア・バームバック
●出演/マーゴット・ロビー、ライアン・ゴズリング、シム・リウ、デュア・リパ、ヘレン・ミレンほか
©2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
『ストーリー・オブ・マイライフ』
●監督・脚本/グレタ・ガーウィグ
●主演/シアーシャ・ローナン、フローレンス・ピュー、ティモシー・シャラメ
●発売・販売元/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
©2019 Columbia Pictures Industries, Inc., Monarchy Enterprises S.a r.l. and Regency Entertainment (USA), Inc. All Rights Reserved.
text: Atsuko Tatsuta