柚木麻子の短編小説ほか、いま読んでおきたい4冊。

Culture 2024.05.06

科学がもたらした功罪を描く、チリの新鋭による傑作短編集。

『恐るべき緑』

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ベンハミン・ラバトゥッツ著 松本健二訳 白水社刊 ¥2,750

表紙の緑色の雲は第1次世界大戦で使われた毒ガス。開発者のフリッツ・ハーバーはノーベル化学賞を受賞した。ブラックホールの存在を初めて示唆した天文学者カール・シュヴァルツシルト。実在した天才たちの評伝というかたちで描かれるのは、画期的な発見が人類に何をもたらしたのか、その光と影だ。自然科学における輝かしい進歩は戦争の歴史と表裏一体なのだ。ブッカー賞の最終候補にもなったチリの新鋭による傑作短編集。

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理不尽な閉塞感に反撃する、痛快なエンパワーメント小説。

『あいにくあんたのためじゃない』

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柚木麻子著 新潮社刊 ¥1,760

過去のブログが炎上したラーメン評論家の佐橋のもとに、かつて出禁になったラーメン屋の店主から店に来てほしいというメッセージが届く。番組の打ち切りが囁かれる元アイドルのキャスター真木伸介は、動画がバズっている子持ちの女性「MCワンオペ」を出演させようと居場所を探す。言いたいことも言えない息苦しさを吹き飛ばす思いがけない展開。短編ならではのキレ味と、タイトルを裏切らない爽快な読後感を堪能できる全6編。

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『侍女の物語』のアトウッド、近未来3部作がついに完結。

『マッドアダム』

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マーガレット・アトウッド著 林 はる芽訳 岩波書店刊 上下巻各¥3,630

女性が産む機械とみなされる近未来を描いた『侍女の物語』が社会現象を巻き起こしたアトウッドの新たな衝撃作。謎のウイルスにより人類はほぼ絶滅。生き残ったのはトビーとセブら一握りの人間と人造人間クレイカー、そして残忍な凶悪犯たちだった。『オリクスとクレイク』『洪水の年』に続く3部作の完結編。9年前の1作目でパンデミックと格差社会にあえぐ人々を描いたこの作家のディストピア小説は、現実に警鐘を鳴らす予言書だ。

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生涯現役を貫いた染色家、柚木沙弥郎の本の世界。

『柚木沙弥郎 美しい本の仕事』

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小林真理編著 パイ インターナショナル刊 ¥3,080

今年1月に亡くなった染色家の柚木沙弥郎は、戦後、柳宗悦が提唱した民芸運動に参加し、和紙に大胆な模様を型染めした染色を志す。100歳を超えても創作を続け、2020年にはエースホテル京都のロゴ、客室内の作品を手がけた。絵本の制作に励んだのも70歳を過ぎてから。豊かな色彩と自由な発想。装幀や挿画など本にまつわる仕事には、日常の中の美を追求した柚木の決して古びることのないプリミティブな魅力が詰まっている。

*「フィガロジャポン」2024年6月号より抜粋

text: Harumi Taki

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