青森へアート旅! 『AOMORI GOKAN アートフェス2024』とは?

Culture 2024.05.25

青森県内の5つの美術館・アートセンター(青森県立美術館、青森公立大学 国際芸術センター青森、弘前れんが倉庫美術館、八戸市美術館、十和田市現代美術館)が連携した『AOMORI GOKAN アートフェス2024』が、4月13日から9月1日まで開催されている。

訪れることで何かと出合い、何かが起きる「はらっぱ」。5つの美術館・アートセンターを「はらっぱ」に見立て、各館のキュレーターが協働し、合計約50名の作家が参加する展覧会やプロジェクトなど、オリジナルなプログラムを展開している。本アートフェスのための新作も少なくない。

フェス全体を統括するアートディレクターによらず、地域に根ざした館の活動をゆるやかに繋げる取り組みは、国内ではこれまでにない新たな形を提案するアートフェスとしてユニークだ。5館の見どころをピックアップ!


「はらっぱ」を散策するようにアートと巡り合う。
【青森県立美術館】

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青森県立美術館を設計した青木淳は、今回、りんご箱のオブジェを制作すると、館の内外に展示。オブジェは展示室への案内板として機能している。

展示室だけでなく、普段展示しないエリアやコミュニティホールなどを「はらっぱ」に見立て、美術館を巡り歩きながらアートを楽しめるのが、青森県立美術館の「かさなりとまじわり」。青木淳によるりんご箱のオブジェに誘われながら館内を進むと、エントランスでは井田大介の『Synoptes』が来場者を複数の動く瞳によってお出迎え。コミュニティギャラリーでは幼少期に青森に住んでいた原口典之をはじめ、三戸の現代版画研究所の立ち上げに尽力した吉田克朗らの作品が展示されている。

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「かさなりとまじわり」展示風景より、青秀祐『Ghost Lightning Kai』(2017/2024年)。航空自衛隊に導入された戦闘機「F35-A ライトニング」を1/1サイズで布地に絵具でペイントしている。

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西側の屋外スペースに立つ常設展示作品、奈良美智の『あおもり犬』(2005年)。2024年も4月23日から屋外連絡通路が開通(雪が降るまで)し、近くに寄って鑑賞できる。また南側トレンチに位置する「八角堂」の『Miss Forest/森の子』もお見逃しなく。

三沢基地に配備された戦闘機をモチーフにした青秀祐の『Ghost Lightning Kai』にもあっと驚くが、青森にゆかりのあるアーティストだけでなく、異なるコンセプトによる作品により建築とアートが交わるのもおもしろい。青森県立美術館は、同県出身の奈良美智や棟方志功の作品や、シャガールのバレエ「アレコ」舞台背景画といったコレクションも充実! 奈良美智の『あおもり犬』は青森の代表するシンボリックなアートと言える。青森でしか見られない作品を目に焼きつけよう。

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森の中で楽しむ大規模なインスタレーション!
【青森公立大学 国際芸術センター青森】

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「currents/undercurrents -いま、めくるめく流れは出会って」展示風景より、岩根愛『The Opening』(2024年) 舞台は八戸とほぼ同緯度に位置するカリフォルニア北部ペトロリアのマトール川。川と海がぶつかる様子をドローンで撮影している。

青森市中心部からバスで約40分。八甲田山麓の森の中に建つ青森公立大学 国際芸術センター青森(ACAC)では、創作棟や宿泊棟を備えたアートセンターとしての特性を活かし、滞在制作と展覧会プログラムが前後期に分けて行われている。メインヴィジュアルを飾る岩根愛の『The Opening』は、高校時代に住んでいたカルフォルニアの秘境を舞台にした写真と映像からなるインスタレーション。年に一度、川が海に決壊し、渦を巻くダイナミックな光景に圧倒される。

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「currents/undercurrents-いま、めくるめく流れは出会って」展示風景より、青野文昭『戦う英雄たち-SACRIFICE 2024』(2024年)今回の制作のために青森市内から箪笥を中心とした不用品を集めた青野。中から出てきた日記帳や古新聞、写真なども作品の素材として利用している。

捨てられた家具などを「なおす」手法で作品を制作する青野文昭は、輿入れ(嫁入り)する時に使われた古い長持(衣類や寝具の収納に使用された長方形の木箱)など、集まってきた不用品をもとに、中央(現代であれば東京など)から支配されてきたと考え得る東北の歴史を考察。行き場の失った古い箪笥を積み上げながら、核処理施設や基地の置かれたいまの状況などを、土地の人々の暮らしに目を向けつつ複合的に表現している。このほか3つの海に囲まれた青森の地誌を鯨類を通して紐解き、古くから漁業を営む人たちの信仰と近代捕鯨の関係などを問い直した、昰恒さくらのクジラを模したテキスタイルの神秘的な姿にも心を奪われる。

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「currents/undercurrents-いま、めくるめく流れは出会って」展示風景より、昰恒さくら『双子鯨の夢を見たら』(2024年)青森県内で集められた着物やハギレを解き、裂いて、重ね、また染め直して作られたテキスタイル。16メートルの鯨の胴体と頭部を象っている。

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「currents/undercurrents-いま、めくるめく流れは出会って」展示風景より、光岡幸一の作品。東京を拠点に活動する光岡は、最近、津軽民謡を習いはじめ、青森を立体的に感じられるようになったという。水の循環が時間の流れを表すかのようだ。

水のテラスでは光岡幸一の可動する巨大な彫刻が物凄い音を轟かせながら水飛沫をあげている。ACACでは野外彫刻が約20点も常時公開中! 森のきれいな空気を感じながら散策し、作品を見て歩くのもおすすめ。

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弘前と青森の地に向き合ったアーティストたちの競演。
【弘前れんが倉庫美術館】

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「蜷川実花展 with EiM:儚(はかな)くも煌(きら)めく境界 Where Humanity Meets Nature」展示風景より、「弘前の春」。弘前公園の桜の写真で構成された展示。蜷川は弘前を訪ねる年や天候の違いだけでなく、数日の短い間にも刻一刻と変化する桜の一瞬の姿を写真で掴み取っている。

約100年前の酒造工場をリノベーションした弘前れんが倉庫美術館では、写真家で映画監督の蜷川実花が、クリエイティブチーム・EiM(エイム)と協働した個展を開いている。手付かずの自然ではなく、花壇など人の手によって守られてきた四季の花々を写してきた蜷川。花の中でも桜はスペシャルな存在だと語り、全国有数の名所である弘前の桜に魅せられ、2022年より桜の開花に合わせて撮影を行っている。弘前公園のお堀に花筏ができる様子を、昼や夜など時間をかえて捉えた写真もはかなくて美しい。

高さ15mの展示室に展開した立体と映像の大型インスタレーション『Sanctuary of Blossoms』は全身で没入したい。咲き誇る花々や枯れてゆく花々がひとつの生命体のように融合した立体を中心に、四季や一日の光の変化などを表現した映像を投影。それがコールタールの塗られた黒い壁へ反映して空間全体をきらめかせている。

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「蜷川実花展 with EiM:儚(はかな)くも煌(きら)めく境界 Where Humanity Meets Nature」展示風景より『Sanctuary of Blossoms』。歴史ある煉瓦倉庫の空間と共鳴するようなインスタレーション。外から見るのと内側に入るのではかなり印象が異なるので、出入りしながら楽しもう。

白神山地をテーマにした「弘前エクスチェンジ#06『白神覗見考(しらかみのぞきみこう)』」も見ておきたいプロジェクトのひとつ。狩野は白神山地が世界自然遺産となったことで人や動物にどんな変化が生まれたのかをリサーチし、津軽のりんご畑で伐採した老木や改修前の美術館に残されていたパーツなどを用いて立体作品を制作している。屋外にも展開する狩野の作品は、レトロな中央弘前駅構内の「ギャラリーまんなか」でも公開中だ。ほか、カフェやゲストハウスを併設した複合施設「HIROSAKI ORANDO」でも展示。美術館のすぐ近くなので足を延ばしたい。

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「弘前エクスチェンジ#06『白神覗見考』」展示風景から、狩野哲郎『あいまいな地図、明確なテリトリー』(2024年) 2011年には狩猟免許も取得した狩野。作品制作に際して鳥獣保護区などの位置図を参照したり、動物と人間の共生を研究する関係者や、林野に携わる人々へインタビューを行っている。

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アートの家で見つめ直したい自然と人間の関係性。
【十和田市現代美術館】

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「野良になる」展示風景より、䑓原蓉子『大湊線』(2024年)。本展のための新作を描くにあたって、奥入瀬渓流や恐山、六ヶ所村などを訪ねた䑓原。目にした風景を鉛筆やiPadでドローイングにし、羊毛のテキスタイルへ変換して作品を生み出している。

大小の展示室がガラスの通路で繋がれ、アートの家を歩くような構造で知られる十和田市現代美術館では、主に人間と自然の関係性を捉え直す若手アーティストを紹介する「野良になる」を開催している。

10代の時に祖母から編み物を教えてもらい、独学でテキスタイルを制作する䑓原蓉子は、青森の景色を含めた日々の暮らしで感じたイメージについてウールを用いて表現。雨が降っていれば湿気を吸い込むなど、ウールは環境に合わせて変化する素材だという。また植物や音、香りなどで構成されたアナイス・カレニンのインスタレーションも五感で受けとめたい。秋田や青森の地に滞在し、アイヌの人々の歴史に関してリサーチを行ったアナイス・カレニンは、中庭にアイヌがともに生きていた東北の植物を植え、植物のアイヌ語名から作曲した音の響く作品を展開している。

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「野良になる」展示風景より、アナイス・カレニン『植物であったことはない』(2024年)。人間による植物の管理と植民地化の歴史との関係に関心を持つアナイス・カレニン。実際に東北の森を訪れると「神聖な気持ちになった」とし、「森が語るストーリーに耳を傾けないといけない」と語る。

レアンドロ・エルリッヒやロン・ミュエク、塩田千春らの世界的アーティストの作品が、1部屋1作品という贅沢な空間で楽しめる十和田市現代美術館。さらにアート広場に点在する草間彌生やエルヴィン・ヴルムの作品や、街中の建物を活かした目[mé]による作品も必見だ。

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十和田市現代美術館常設展示より、ロン・ミュエク『スタンディング・ウーマン』。高さ4メートル。血管や髪の毛1本1本まで人体が精巧に再現されている。

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「ジャイアントルーム」を舞台に展示内容が変化!
【八戸市美術館】

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可動式のカーテンや棚が備えられた吹き抜けの「ジャイアントルーム」。漆畑幸男の作品が展示されている。会期中、この体育館のように広いスペースにてさまざまなイベントが行われ、展示内容も変化していく。

巨大な空間「ジャイアントルーム」を会場とする八戸市美術館では、八戸に在住する5人のアーティストが、館のコンセプト「出会いと学びのアートファーム」を体現するプロジェクトを展開している。八戸の取り組みはアートフェスの中でも特にユニーク! なぜなら5名のアーティストが同じスペースで同一の作品を展示するのではなく、約5ヶ月の間、まさに「はらっぱ」を行き交う人のように入れ替わりながら制作を行っているから。

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「エンジョイ!アートファーム!!」展示風景より、東方悠平『自由な像、不自由なバナナ』。ベトナムで出合った野生のバナナを新たな文化へと繋がる「扉」、そしてかつての植民地時代のハノイに存在し、現在は八戸の隣町のおいらせ町にある「自由の女神像」(植民地時代のベトナムのハノイにもあったそう)を地域とベトナムを繋ぐ「鍵」として捉え、多様な世界のあり方を可視化するプロジェクトを展開している。なお野生のバナナは種が多く食べられないものの、現地の少数民族がお酒にして飲んでいるという。

東南アジアに長期滞在した経験のある東方悠平は、ベトナムで見つけた野生のバナナを手がかりに、来場者と「自由」についてコミュニケーションをとりながら、ジャイアントルームに現代版の「自由の女神」を建設するプロジェクトを展開している。また女子高生を主題とした木板画を創作するイラストレーターのしばやまいぬは、自らの絵の中の創作世界を現実に立ち上げようと「くにゅぎの森」を作り上げる。どんどん変化していく「ジャイアントルーム」。いまは種を撒いている段階というが、夏にかけて大きく森が育っていく光景を想像するだけでも楽しい。

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安藤忠雄の設計による青森公立大学 国際芸術センター青森(ACAC)。建物を森に埋没される「見えない建築」をテーマとしている。円形の屋外ステージを備えた馬蹄型の展示棟がユニーク。

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三内丸山遺跡に隣接する青森県立美術館。青木淳の設計によるトレンチとホワイトキューブからなる建築が特徴。

歴史・風土的に津軽、南部、下北と大きく3つに分けられる青森県は、各地域で文化圏や都市機能が異なるなど多様性に満ちあふれた県。青森市、弘前市、八戸市、十和田市に点在する5館も、現代美術を中心とした展示を行いながら、それぞれに独自の活動を行っている。また本アートフェスの後半の8月から最終日にかけては、原子炉の形状をした構造物に薬草の香りを帯びた蒸気を発生させ、中に入って熱気と植物のエネルギーを全身で感じられる栗林隆の『元気炉』が開催館を巡回する。(日程の詳細は公式WEBサイトを参照)

緑が深くなり、多くのお祭りも控え、青森が最も活気付く季節、いまこそ「はらっぱ」に出かけて、青森のアートと各地域の持つ魅力を感じたい。

『AOMORI GOKAN アートフェス 2024「つらなりのはらっぱ」』
会期:開催中~9/1(日)
会場:青森県立美術館、青森公立大学 国際芸術センター青森(ACAC)、弘前れんが倉庫美術館、八戸市美術館、十和田市現代美術館
https://aomori-artsfest.com

editing: Harold

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