【立田敦子のカンヌ映画祭2024 #09】国際批評家連盟賞受賞!『ナミビアの砂漠』山中監督×河合優実インタビュー。

Culture 2024.06.06

カンヌ国際映画祭の併設部門で、アーティスティックな作品にフォーカスを当てることで知られる「監督週間」に選出された『ナミビアの砂漠』。19歳で撮った『あみこ』が2018年の第68回ベルリン国際映画祭「フォーラム」部門に選出され、注目を浴びた山中瑶子監督の待望の商業長編デビュー作だ。

脱毛サロンに勤めるカナ(河合優実)は料理も上手く、何かと世話を焼いてくれる営業マンのホンダ(寛一郎)と同居しているが、クリエイターのハヤシ(金子大地)に惹かれ、関係を深めていく......。

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山中瑶子監督『ナミビアの砂漠』より。

ワールドプレミアされた『ナミビアの砂漠』は、国際批評家連盟賞を受賞。同賞はこれまで、小栗康平監督の『死の棘』(1990年)、諏訪彦監督の『M/OTHER』(99年)、青山真治監督の『EUREKA』(2000年)、黒沢清監督の『回路』(01年)、濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』(21年)が受賞してきた重要な賞だが、女性監督としては最年少での受賞という快挙である。

公式上映を終えたばかりのカンヌで、山中監督と主演の河合優実に話を聞いた。

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カンヌの青空の下にて、山中監督と河合優実。

――まず、ふたりの出会いについてお伺いしたいと思います。もともと河合さんが山中さんの作品のファンだったことが始まりだったそうですね。

河合 そうです。高校3年生の時、まだこの仕事をする前で、当時、唯一俳優の知り合いだった大下ヒロトさんにオーディションの受け方とかいろいろ相談していたのですが、そのヒロトさんが出演していることで、山中監督の映画『あみこ』を観て、感動してお手紙を渡したんです。それから実際に、俳優として山中監督にお会いするまでは6年くらいかかったのですけどね。

山中 『あみこ』を観に来ていただいた時に、お手紙をいただきました。「いつかキャスティングする際にリストに入れてください」と書かれていて、私もそれをずっと覚えていました。それから少し経って映画館に映画を観に行ったら、河合さんが出ているのに気づいて、「あっ」と驚きました。

――スクリーンで観た、河合さんの俳優としての印象はどんなものでしたか?

山中 その作品の中で、ひと際輝いていました。まだ俳優として1年目くらいだったこともあり、フレッシュさみたいなのはもちろんあるけど、のびのびやっているな、気負いがないなと思いました。

――『ナミビアの砂漠』はラブストーリーでもあり、カナの成長の物語でもありますが、そもそも脚本では何が起点となったのでしょうか?

山中 人間関係の間で生まれる権力闘争を描いてみたかったんです。河合さんとは3年前にあった原作ものの企画でご一緒することになっていたのですが、それが実現しなかったこともあり、今回は河合さんを想定した当て書きのようになっています。

河合 前の作品と、いまを生きる若い女の子が考えていることや、それを取り巻く空気みたいなものは共通していましたね。山中監督が苦しみながら脚本を書いている、その産みの苦しみを知っていたので、私が演じることを前提に脚本を書いていただけたことがうれしかったです。とはいえ、カナは私とは似ていませんが、山中さんが脚本を書いている時から、お互いの家族の話とか、映画とは関係のない個人的な話もしていたので、私から感じる何かを反映してはいるんだろうと思います。

山中 いままで河合さんが演じてきた役とは全然違うイメージのもの、そして"ベスト河合優実"が撮りたかったんです。カナはあまり褒められた人間ではないのですが、それこそが河合さんに演じてほしいキャラクターでした。

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初めて訪れたカンヌ映画祭はお祭りのようで楽しいと話す。

――本作は、ヌーベルヴァーグからの影響や90年代のフランス映画の雰囲気、またキャラクター構築においては『ゴーストワールド』も想起しました。大学(日本大学芸術学部)を中退して独学で映画を学んだということですが、どのような映画に影響を受けてきたのでしょうか?

山中 『あみこ』を撮った時は、『ゴーストワールド』を意識していました。とても好きな映画でしたから。今回は、あの時よりも自分でも大人になったという自覚もあり(笑)。男女の2対1との関係では、ジャン・ユスターシュの『ママと娼婦』、そして主人公のキャラクター像ではジャック・オディアールの『パリ13区』を思い浮かべましたね。主人公の自由さはそういった作品から影響を受けていると思います。フランス映画が好きなんです。確かに『あみこ』を撮った時にも、ヌーベルヴァーグみたいな感じがするねと言われていたけど、単純にフランス映画の摂取量が多いからだと思います。

ーー『ナミビアの砂漠』というタイトルはどこから来たのですか?

山中 カナは何にも特段の興味がなく、男性に執着すること以外、あまり能動的なことをしないキャラクター。そんな彼女が、暇な時間は何をしているのかなと考えた時に、Youtubeライブ映像を見ているのはどうだろうかと思って。

河合 劇中に出てきたナミビアの砂漠をライブ配信で見ることができるというYouTubeチャンネルも実際にあるんですよ。

山中 実は、タイトルはいろいろ変遷があり、"エメラルドゴキブリバチ"っていうひどいタイトルの時もあったんです。これはまあ絶対にあり得ないだろうっていう、前提でのタイトルですけど。基本的な脚本ができ上がった時に、"エメラルドゴキブリバチ"というタイトルではさすがに役者に見せられないから、とりあえず『ナミビアの砂漠(仮)』にしておこうって、変えたんです。

河合 『ナミビアの砂漠(仮)』という台本をもらいました(笑)

山中 でも、もっととっつきやすいタイトルがいいんじゃないかと撮影中も考えていて......。「いつもごめんね、大大大好き」という、これまたなんともいえないタイトルを出した時もあったんですが、最終的に出来上がったものを見たら、どう考えても『ナミビアの砂漠』でいいだろうって。カナは、友達とか彼氏とか親とか、身近な人をあまり大切にできない。でも、遠いナミビアの砂漠に対しては、安らかな気持ちで思いを馳せられる。そういうところって誰にでもあるな、と。実態よくわからないもののほうが無責任に人は関心を持てるところがあるんじゃないかとか思って。他にもいろいろあるんですが、ぜひ、お客さんがどう思うかも気になります。

――カンヌの「監督週間」という多くの名監督を排出している部門に選出されたことについてはどう思いますか?

山中 近年で言うと、大好きなアリーチェ・ロルヴァケルや、ショーン・ベイカー、クレール・ドゥニ、ギャスパー・ノエの映画が上映されているように、作家性の強い作品が選ばれるイメージがあったので、とてもうれしいです。「監督週間」はそもそも成り立ちがかっこいいのもいいですよね。

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フランス映画愛を語る山中監督。

――「監督週間」は、1968年に五月革命の余波で、ゴダールたち監督がカンヌ映画祭を中止に追い込んだ翌年に出来た部門ですね。やはり、この部門でカンヌデビューをするあたりは、フランス映画の熱心なファンとしては運命的ですね。ありがとうございました!

『ナミビアの砂漠』
●監督・脚本/山中瑶子 ●出演/河合優実、金子大地、寛一郎 ●2023年、日本映画 ●137分 ●2024年夏、公開予定

映画ジャーナリスト 立田敦子

大学在学中に編集・ライターとして活動し、『フィガロジャポン』の他、『GQ JAPAN』『すばる』『キネマ旬報』など、さまざまなジャンルの媒体で活躍。セレブリティへのインタビュー取材も多く、その数は年間200人以上とか。カンヌ映画祭には毎年出席し、独自の視点でレポートを発信している。

text: Atsuko Tatsuta editing: Momoko Suzuki

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