未来のスターデザイナーの萌芽? セント・マーチンズ・スクールの卒業ファッションショーが話題に。
Culture 2024.06.27
5月29日に、ロンドンの有名なアートデザイン学校の卒業生たちは、学位取得コースの修了式で作品を発表した。ファッションはもちろん、政治や感情もテーマに取り上げられている。有望な10のコレクションを振り返ろう。
セント・マーチンズ・スクールの学生が卒業コレクションを発表。(ロンドン、2024年5月29日)photography: Dave Benett / Getty Images
1989年、英国のふたつのアート・デザイン学校が合併し、セントラル・セント・マーチンズ・カレッジ・オブ・アーツ・アンド・デザインが設立された。それ以来、ジョン・ガリアーノ、アレキサンダー・マックイーン、ステラ・マッカートニー、フィービー・ファイロ、サラ・バートン、リカルド・ティッシ、キム・ジョーンズなど、今日のファッション界の大物たちがここで学んだ。セント・マーチンズ・スクールは才能の宝庫であり、次の偉大なデザイナーが隠れているかもしれないのだ。今年は、40人の学生が3年次のコレクションを発表し、それぞれが6つのシルエットから成り立っていた。5月29日に開催されたショーは、ファッションという永遠のテーマであると同時に、平和へのコミットメントに捧げられた。
今から40年前、ジョン・ガリアーノがセント・マーチンズ・スクールを卒業する最後の年に発表したコレクション。「Les Incroyables(レザンクロワイヤーブル)」と名付けられたこのコレクションは、フランス革命にインスパイアされたものだった。(ロンドン、1984年)@jadoregalliano sur Pinterestのスクリーンショット
ショーの開始前、ロンドンの中心部に位置する学校の中庭のバルコニーに学生たちが並び、パレスチナでの停戦とガザでの虐殺の終結を求めるメッセージが書かれた横断幕を広げた。
この支援はショーの間中続き、学生たちは一定の間隔で「フリー・パレスチナ」と叫んだ。2024年のファッションショーには、多くの熱心な若手デザイナーが参加し、その中の何人かは群を抜いていた。
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エフォートレスなファッション、ノディラ・スタジオ
ノディラ・スタジオのシルエットは、森の中から出てきたかのようで、柔らかく、淡く、玉虫色のトーンで自然の要素を呼び起こした。この学生は、ロレアル・プロフェッショナル・アワードで2位を獲得した、華やかでボリュームのあるルックで名を馳せた。
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記憶のファッション、メイシー・グリムショー
「Rue de Mauricette(モーリセット通り)」とは、メイシー・グリムショーがアルツハイマー病を患った祖母にインスパイアされたコレクションにつけた名前である。彼女は、シープスキンなどの他の素材と組み合わせることで、紙のもろさを通じて記憶の壊れやすさを伝えている。各ルックは祖母のコートやドレス、ビキニなどのアイテムをもとにしており、それらを再解釈している。その結果、曖昧で混乱した記憶が具現化されている。
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ポップなモード、ハミッシュ・オルリック=スモール
ハミッシュ・オルリック=スモールのコレクションには、デンマークのファッションの影響を感じずにはいられない。この学生は、子どもの頃にデンマークの田舎で夏を過ごした思い出から創作している。赤や青、黄色など、豊かな色彩や驚くほどのフリル、太いラインが若いデザイナーのシルエットに取り入れられている。また、プレッピーな影響や海軍風の要素も見られ、靴のリボンやカーディガンのストライプ柄の襟などがそれを示している。リスクにも見えた賭けは成功した。特筆すべきは、スパンコールのついたジーンズに見えないジーンズ。
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シックなニットファッション、アリーナ・イスパス
アリーナ・イスパスでは、肩はボリュームがあり、ウールには何千ものパールが刺繍されている。編み物コースを受講した彼女は、皮肉っぽくSNS上で自らを「かぎ針編みのおばあちゃん」と呼んでいる。このコレクションでは、学生は素材や形を通じて洋服の世代的遺産を探求している。その創作物の中で、胸元が膨らんだブルーターコイズのドレス、ウールのズボン姿の双子、そして20枚の財布で作られたレザージャケットが際立っていた。女性はポケットがいくつあっても足りないのだ。
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キャンディファッション、ドリュー・ケント
ドリュー・ケントの提案は、ネオンでクィアなバージョンのおとぎ話だ。彼のデザインは奇抜で大胆でまるで子どものよう。ピンク、紫、緑、フリル、帽子など、そのシルエットはクワイエットラグジュアリーのミニマリズムに対するアンチテーゼだ。卒業コレクションで、この若い学生は、第一に、リサイクル素材と未使用のショースパンコールを使用することで、地球へのコミットメントを表明している。第二に、彼はLGBTQIA+コミュニティにコミットしており、ドレスとヒールを身にまとった男性を登場させることで、男女の境界線を曖昧にしている。
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シンプルなファッション、ユゲット・チャイアピ
セント・マーチンズ・スクールのファッションショーは、ワイルドでエキセントリックな空想の舞台かもしれないが、シンプルさも負けてはいない。ユゲット・チャイアピは日常着のコレクションを発表した。流れるようなラインとルーズなアイテム。この若手デザイナーは、生まれ故郷カメルーンの神秘主義からインスピレーションを得ており、流行に左右されることなく長く着られるよう、素材の品質に特に気を配っている。
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円形のファッション、イ・ジョンヒョン
イ・ジョンヒョンは、タフタのボールやドットの雨の帽子、または円の間に閉じ込められたモデルなど、黒い円を使って独自のアイデアを生み出し、創造している。「私たちが知っていること、私たちが知っていると思うこと、私たちが知らないと思うこと、私たちが知らないこと、私たちが知らないことさえ知らないことがある」と、この若いデザイナーはキャプションに書いている。彼は、人類の果てしない知識への探求と私たちを取り巻く謎からインスピレーションを得て、無限で暗いブラックホールの彼自身のバージョンを提示した。
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ドールファッション、トーマス・スプーナー
トーマス・スプーナーの卒業コレクションは、家にまつわるオブジェや感情からインスピレーションを得ている。ジャカード織りは、彼の祖父のネクタイやジャケットの裏地を思い起こさせる。また、カットアウトは彼の幼少期の家のチューダー様式建築からアイディアを得た。彼のコレクション「カトラリー」は、家族の貴重な銀食器にちなんで名付けられ、すべてがニット製で、まるで小さなお人形のために作られたようだ。
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スリムフィットファッション、ツォフィア・トロ
トランシルヴァニア出身の若手デザイナーは、特にウエストラインに力を入れている。低めでボリュームのあるウエストラインは人目を引き、現在のトレンドにマッチしている。ツォフィア・トロはこのコレクションを作るために故郷に戻り、この地方の伝統と先祖伝来の技術を熱心に学んだ。伝統的な刺繍やレーザーカッティングなどを駆使し、ノスタルジーと現代性のコントラストを追求している。
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アヴァンギャルド・ファッション、キム・ユンジ
ダークな色彩、結び目、折り目、解体された作品など、若いキム・ユンジのコレクションは、アジアのアヴァンギャルドな雰囲気を漂わせていた。彼女のプロジェクトは、亡き祖父のニックネームである 「ガーリック・キング」と呼ばれている。自分を育ててくれた祖父母を亡くした悲しみは、デザイナーを根底から揺さぶり、一時は人生の幕引きも考えたという。結局、ファッションが彼女の救いであり、祖父母の存在が彼女のインスピレーションとなった。彼女はオーガンザ、ウール、サテンのシルエットに韓国の伝統的な喪服の要素を取り入れ、細部までこだわったコレクションを生み出している。
text: Sarah Renard (madame.lefigaro.fr) translation: Hanae Yamaguchi