進化する創造性、ロエベ財団 クラフトプライズ2024が発表に。

Culture 2024.06.20

現代のクラフトマンシップを称えるロエベ財団 クラフトプライズ。パリのパレ・ド・トーキョーでファイナリストの作品展が開催され、メキシコ人作家 アンドレス・アンサに2024年の大賞が授与された。

WINNER

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Andrés Anza/アンドレス・アンサ「I only know what I have seen」

1991年生まれの若きメキシコ人アーティスト、アンドレス・アンサの作品が初めての応募で大賞を獲得した。メキシコ土着の陶芸へのオマージュとして素材に向き合い、素材との対話の中でフォルムを作り上げ、ひとつひとつの突起を手作業で形作る。人間サイズのトーテム作品は見る者の好奇心を呼び起こし、それぞれの関係性を喚起する。

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左から、ジョナサン・アンダーソン、アンドレス・アンサ。

シャボン玉を集めたようなガラス作品から、ワイヤーを溶接したウニのようなオブジェ、革や植物を編み上げた籠、アンティーク布の小さなクッションを積み上げたトーテムまで。大きさも素材もテクニックもさまざまなアートワークが、パレ・ド・トーキョーの展示室を彩った。世界124の国と地域、3900点以上の応募を得たロエベ財団 クラフトプライズ2024。そのファイナリスト30人の作品の展覧会が、5月15日から6月9日まで開催された。

オープニングを飾ったクラフトプライズの授賞式では、メキシコ人作家アンドレス・アンサに大賞が授与された。「時間や文化的背景を超越し、古代の考古学的な形態に基づくと同時に、陶芸が決定的な影響を反映する芸術だとみなす、ポストデジタル時代の美学の流れをくんでいる」と審査団の評価を得た作品は、等身大のセラミック製トーテム。全体をたくさんのスパイク状の突起に覆われ、まるで人のような有機的な存在感を湛えている。「見る人と作品の間にそれぞれの関係が生まれれば」とアンサは語る。「クレイは僕にとってパートナー。素材との対話の中で次第に形が生まれます。メキシコ古来のクラフトの世界を現代のコンテクストに置き、自分のアートワークにクラフトを用いています」

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SPECIAL MENTION

日本の浅井美樹、フランスのエマニュエル・ブース、韓国のヒチャン・キムの3名には特別賞が授与された。

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浅井美樹「Still Life」

まるで展示台の上に壺が置かれたように見える作品は、指にはめられるサイズのリング。「形がなくても美しいものを形にしたい」と語るパーソナルなセンスが審査員の心に響いた。

浅井美樹の作品は、ミニチュアのうつわを模った彫刻のようなリング。うずら卵の殻や貝殻のモザイクなど、一度壊した素材を再構成し、手のひらに収まってしまう小さな世界を作り上げた。エマニュエル・ブースによる磁器レンガを組み合わせたローテーブルは、「レゴのように」というタイトルのとおり、個別に動かせるレンガのそれぞれ微妙に違う表情が手仕事を感じさせる。キムの作品は、トネリコ材を銅線で繋ぎ合わせた彫刻。なめらかな表面、棘のある内側、その表情の違いが見るものを惹きつける。

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Emmanuel Boos/エマニュエル・ブース「Coffee table' Comme un Lego'」

フランスを代表するセラミストのひとり。天目釉薬で焼き上げた98個の中空磁器レンガからなるコーヒーテーブルは、各レンガを自由に組み替えられる遊び心のある作品。

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Heechan Kim/ヒチャン・キム「#16」

アメリカ在住の韓国人作家。小さな子どもなら中に入ってしまえそうなサイズの作品は、新しい形を創造したいという思いから。なめらかで丸みの連続するフォルムが印象的だ。

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現代における芸術的なクラフトを支援。

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(右)Raven Halfmoon/レイヴン・ハーフムーン「Weeping Willow Women」 (左)Weon Rhee/ウォン・リー「Primitive Structures(Botanical)」
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(右)Ange Dakouo/アンジュ・ダクーオ「Harmony of Grigris」 (左)Saar Scheerlings/ザール・シェアリングス「Talisman Sculpture: The Column」

ロエベ財団 クラフトプライズは、皮革製品の協働的な工房として誕生したロエベのルーツに想いを寄せて、2016年に誕生した。現代のクラフトマンシップの卓越性や芸術的先見性、革新性を称え、毎年大賞を発表している。ロエベのクリエイティブ ディレクターに就任してほどなくこの賞を立ち上げたジョナサン・アンダーソンはこう語る。「ロエベというブランドはクラフトなしにはありえません。このプライズによって、我々は作り手に光を当てることができる。僕にとってクラフトを保護するという考えは非常に大切、そしてロエベのDNAにとっても重要だと思っています。またクラフトは、セラミックやテキスタイルを蒐集し、アートと交流する僕自身とロエベを結ぶ架け橋。ロエベというメゾンに僕なりの新しいチャプターをもたらし、未来に向けて豊かにしていくための方法なのです」

8年の歴史の中で、クラフトプライズの存在は進化してきた。発足当初から6回にわたって審査員を務めてきた深澤直人は言う。「当初に比べて世界中の現代クラフトのクオリティが高くなった。ものづくりを行う人にとって、この賞はいまやステイタスだといえるでしょう」。審査員として4回目の参加となるルーヴル美術館美術部門ディレクターのオリヴィエ・ガベも同意見だ。「応募数が非常に多くなり、賞の重要性が増してきた。初期に目を引いたアジア勢だけでなく、近年はアフリカやアメリカ大陸、欧州へと地理的にも広がっています」

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(右)金保 洋「Unformed Outline」 (左)Yuefeng He/ユエフェン・ホー「Bamboo Rock」
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Luis Santos Montes/ルイス・サントス・モンテス 「Cristalización Orgánica Esmeralda」

ジョナサン・アンダーソンを含む12名の審査員は、アートキュレーター、デザイナー、ジャーナリストや建築家などさまざまなバックグラウンドを持つ。伝統と革新、有用性の有無。ロエベ財団 クラフトプライズが選出する作品に共通するものは何なのか。それはいまの時代において、クラフトとアートの境目や融合点、クラフトとは何か?といった問いかけにも繋がってゆく。

「伝統工芸はもともと用途のあるものでした。でもクラフトプライズはそれだけではない。モダンアートともまた違い、素材が重要です」と言うのはルーヴル美術館のガベ。一方、デザイナーであり、日本民藝館館長の顔も持つ深澤直人はこう述べる。「僕は伝統に立脚しつつ新しさを持った作品を大事にしたい。一方で、既視感のあるものはつまらない、コンテンポラリー性を重視するという人もいます。いまクラフトは、自然から生まれた素材に自分の手で変化を加えて違う形にすることへの科学的なトライアルになってきているのではないか」

「僕の作品を見て『どうやって3Dプリントしたのか』と言う人もいます。いや、この指でひとつひとつ造形している。自分の手を使い、時間をかけて作りたいのです」という大賞受賞者の言葉が、現代のクラフトとアートの関係を物語っているようだ。

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授賞セレモニーに駆けつけたセレブリティ。

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展覧会のオープニングと授賞式にはロエベの世界観を愛する仲間たちが訪れ、(画像左から)大賞のプレゼンターを務めた女優のオーブリー・プラザ、リック・オウエンスとミシェル・ラミーのカップル、ナタリア・ヴォディアノヴァ、ファレル・ウィリアムスらが、熱い祝福を贈った。

問い合わせ先/ロエベ ジャパン クライアントサービス 
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photography: ©LOEWE text: Masae Takata(Paris Office)

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