Van Cleef & Arpels ジュエリーメゾンが芸術の新たな扉を開く、ダンスフェスティバルが今秋開催。
Culture 2024.07.29
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10月4日に開幕する「ダンス リフレクションズ」のプログラムのひとつ、マチルド・モニエの『ソープオペラ、インスタレーション』。 photography: Marc Coudrais
2022年のロンドンを皮切りに世界をまわってきたフェスティバル、「ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル」が今秋日本で開催される。なぜハイジュエラーがダンスと関わるのか? プログラムのディレクターを務めるキーパーソンに話を訊いた。
セルジュ・ローラン
ヴァン クリーフ&アーペル ダンス&カルチャー プログラム ディレクター。フランスの高等教育機関エコール・デュ・ルーブルで美術史や博物館学を学ぶ。1990〜99年までカルティエ現代美術財団でキュレーターを、2000〜19年までポンピドゥー・センターで舞台芸術企画部門の責任者を務める。19年より現職。
世紀を超えて紡がれる、ヴァン クリーフ&アーペルとダンスの物語
ヴァン クリーフ&アーペルとダンスの物語は1920年代に遡る。1906年にメゾンが最初のブティックを開いたヴァンドーム広場は、パリ・オペラ座ガルニエ宮から徒歩10分ほど。創業者のひとりルイ・アーペルはバレエを愛し、後にメゾンのアメリカ展開の核となる甥クロードを連れ、バレエ公演に通っていたという。メゾンは40年代にダンスの瞬間の美をジュエリーの永遠の輝きに昇華させた「バレリーナ クリップ」を発表し、卓越した技術と芸術性を証明しつつダンスにオマージュを捧げる。
同じ頃、ニューヨーク五番街にアメリカ初の店舗がオープンし、50年代からシティ・センターを本拠地とする振付家ジョージ・バランシンとクロードとの交流が始まった。このネオクラシック・バレエの巨匠は、67年にエメラルド、ダイヤモンド、ルビーにインスパイアされた珠玉のアブストラクト・バレエ『ジュエルズ』を世に送る。その後もバレエを中心とするメゾンのダンス支援は続いた。
1940年代に初めて制作され、メゾンのアイコンとして長く愛されてきた「バレリーナ クリップ」。発表年は左から1941年、43年、45年。
ニューヨークのブティックにて『ジュエルズ』の衣装につけるジュエリーを選定する、左から創業家2代目のピエール・アーペル、バレリーナのスザンヌ・ファレル、振付家のジョージ・バランシン(1976年頃)。
物語に新章を開いたのは2020年、コンテンポラリーダンス対象のメセナプログラム「ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル」の誕生だ。なぜバレエではなく、現代ダンスなのか? それはメゾンが舞踊芸術の歴史と進化に関心を抱いているからだという。「ハイジュエリーメゾンの歴史を、ダンスの出現とともに綴るアイデアがありました」と、プログラムを統括するセルジュ・ローランは語る。
パリの名だたる現代美術館の要職を歴任したローランは、ダンスを広い芸術の文脈で捉え、明確なヴィジョンをもって「ダンス リフレクションズ」を推進する。鍵となるのは、メゾンの哲学と響き合う「創造・継承・教育」という3つの価値だ。活動の第一レベルを成す「創造」については、世界各地のアーティストへの創作支援と、世界15カ国50組織のネットワークを通した上演支援を行っている。「一年中、世界のどこかでダンス リフレクションズがサポートするダンス公演が行われています」とローランは言う。
22年に始まったフェスティバルは、いわば「ダンス リフレクションズ」の第二レベルであり、「継承」「教育」とリンクする。毎回開催国が異なり、地域性よりいま見るべき振付家・作品が選ばれている理由について「さまざまな場所で観客にダンスを届け、私たちのヴィジョンを共有し、観客一人ひとりがダンスを通して新たな価値を発見することを望んでいます」とローランは語る。公演には振付家のトーク、初心者から経験者までのワークショップが伴い、多様な観客に向けた鑑賞にとどまらないダンス体験の機会が提供される。
「リフレクションズ」には、未知の美学との出会いを通した「反映」「内省」のふたつの意味が込められている。今秋のフェスティバルで多彩なダンスと出会い、響き合い、私たちはいかなる内省へと導かれるのだろう?
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メゾンが大切にしてきた、ダンスと日本とのつながり
「ダンス リフレクションズ」は、2020年に始動して以降、日本でもさまざまな公演をサポートしてきた。パートナーシップを結ぶ「彩の国さいたま芸術劇場」「ロームシアター京都」「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭」における近年の支援例を紹介する。
岡田利規
『わたしは幾つものナラティヴのバトルフィールド』
彩の国さいたま芸術劇場(2022年)
言葉と身体との関係を更新し続け、現代社会の課題に批評的な視点から切り込む演劇作家の岡田利規。岡田がテキストと演出を担い、ダンサーの湯浅永麻がそれらを身体に取り入れ、語り、踊る。言葉が誘発する、新たなダンスのかたちとは? photo: 大洞博靖
ルース・チャイルズ&ルシンダ・チャイルズ
『ルシンダ・チャイルズ1970年代初期作品集:Calico Mingling, Katema, Reclining Rondo, Particular Reel』
KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭(京都市京セラ美術館/2023年)
2022年より「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭」とも結び付きを強めてきた。本作は、3つの柱のうちのひとつ「継承」をテーマに、モダンダンスの巨匠の作品を現代に蘇らせた。 photography: 守屋友樹
ディミトリス・パパイオアヌー
『INK』
ロームシアター京都(2024年)
世界各地の劇場やダンスカンパニーとのネットワークを活かし、世界的に人気の振付家の招聘もサポート。本作は、2004年アテネ五輪の開閉会式の演出も手掛けたパパイオアヌーによる、シュルレアリスムの美学に満ちた幻想的な舞台で、会場を大きな熱狂の渦に巻き込んだ。 photography: Julian Mommert
ノエ・スーリエ
『The Waves』
彩の国さいたま芸術劇場 / ロームシアター京都(2024年)
「ダンス リフレクションズ」は創設以来、振付家やダンスカンパニーの支援だけでなく、世界各地の劇場とパートナーシップを結んでいる。日本では彩の国さいたま芸術劇場とロームシアター京都と提携し、フランスの新進気鋭の振付家、ノエ・スーリエの招聘をサポートした。 photography: 大洞博靖
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世界最先端の振付家が京都と埼玉に集結する、珠玉のプログラム
この秋、京都と埼玉で開催されるフェスティバルには、世界のダンスシーンをリードする振付家が多数来日。経歴や創作手法など、それぞれに異なる顔を見てみよう。
オリヴィア・ビー
『その部屋で私は星を感じた』
フェスティバルのオープニングを飾るのは、KYOTOGRAPHIEとのコラボレーションによる写真展。ロンドン、香港、ニューヨークでのフェスティバル開催時に振付家やダンサーを撮影したオリヴィア・ビーの写真展で、「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」との共同開催となる。
開催期間:10/4~11/16 アスフォデル ギャラリー 開催時間:12時~21時 休館日:月 入場無料 photography: Joseph Haeberle
アレッサンドロ・シャッローニ
Alessandro Sciarroni
1976年、イタリア出身。スキアローニとも表記。ヴィジュアルアートと演劇を学んだ後、パフォーマンス作品の発表を開始。『Your Girl』(2007)の国内主要劇場・フェスティバルでの上演を機に、活動が国際的に広がる。視覚障害者スポーツやチロル地方の民俗舞踊など劇場の慣習外の身体実践に関心を抱き、ムーヴメントの反復が新たな時間感覚を立ち上げ、観客とダンサーを新たな回路で結ぶ。19年にはヴェネチア・ビエンナーレのダンス部門金獅子賞を受賞。文化と社会の構造に対する批評性とダンスの快楽が融合する、いま見るべき刺激的なつくり手だ。
photography: Alessandro Cecchi
『ラストダンスは私に』 10/5、10/6 各16時開演 京都芸術センター 上演時間:30分 photography: MAK
(ラ)オルド
(LA)HORDE
2013年にマリーヌ・ブルッティ、ジョナタン・デュブルワー、アルチュール・アレルの3人が結成した、フランス新世代のコレクティブ。19年に国立マルセイユ・バレエ団芸術監督に就任し、「振付の創造を職務に、ダンスをプロジェクトの中核に置いて周縁に振付作品、映像、ビデオインスタレーション、パフォーマンスを展開する」と表明し、劇場作品からマドンナのツアー、ブランドの広告映像の振付まで幅広く活動する。「ポスト・インターネットダンス」を標榜し、オン/オフラインの多様なコミュニティで出会った身体から既存の芸術、社会のコードを問い直す。
photography:Benjamin Malapris
『ルーム・ウィズ・ア・ヴュー』 10/5、10/6 各18時開演 ロームシアター京都 上演時間:80分 photo: Cyril Moreau
オラ・マチェイェフスカ
Ola Maciejewska
1984年、ポーランド出身。バレエを学んだ後、オランダに渡ってダンスを続け、ユトレヒト大学でドラマトゥルギーの修士号取得。フランスに拠点を移し、2013年からは電気照明と特殊な衣裳の効果で19世紀末にヨーロッパを席巻したロイ・フラーのダンスをテーマに掲げ、独自の再解釈に基づくハイブリッドな振付作品を発表している。実践、習得のプロセス、継承からなる自身の仕事を「Thing Dances」と名付け、ムーヴメントの生成にテクノロジー、オブジェ、装置を関わらせた独自のアプローチ手法をとる。
photography: Ola Maciejewska Studio
『ボンビックス・モリ』 10/11 19時開演、10/12 16時30分開演 ロームシアター京都 上演時間:60分
『ロイ・フラー:リサーチ』 10/14 18時30分開演 京都芸術センター 上演時間:40分 photography: Eric Hong
クリスチャン・リゾー
Christian Rizzo
1965年、フランス出身。ファッションブランドを立ち上げ、ロックグループを結成し、ファインアートを学び、ダンス界に転じた、異色の振付家。彼にとってダンスは身体の存在する空間全体をデザインし、振り付けること。ダンスを広義の生活/人生の相において捉え、詩的な瞬間を繊細かつ大胆に紡ぐ作品は国際的に評価が高い。2015年からモンペリエ=オクシタニー国立振付センターのディレクターを務め、教育・普及にも力を入れる。日本では10年ぶり、トルコの旅から生まれた『Sakinan Göze Çöp Batar(抉られるのは守っている方の目だ)』以来の公演となる。
photography: ICI-CCN Denise Oliver Fierro
『D'après une histoire vraie―本当にあった話から』 10/12、10/13 各19時開演 京都芸術劇場 春秋座
10/19 19時開演、10/20 15時開演 彩の国さいたま芸術劇場 上演時間:60分 photography: Marc Domage
マチルド・モニエ
Mathilde Monnie
1959年、フランス出身。ニューヨークのマース・カニンガムのもとで研修を受け、帰国後の86年に若手振付家の登竜門・バニョレ振付コンクールで受賞。以来、ヌーヴェル・ダンスから現代に至るメインストリームに身を置き、1994〜2013年にモンペリエ国立振付センター、14〜19年にパリ郊外パンタンに新設された国立ダンスセンター(CN D)ディレクターを歴任した。哲学者ジャン=リュック・ナンシーと協働した『アリテラシオン』(2002)はじめ、作品は身体や共同性をめぐる異ジャンルとの対話によって進化を見せる。日本では2013年以来の公演となる。
photography:Marc Coudrais
『ソープオペラ、インスタレーション』 10/18 19時開演、10/19 19時開演、10/20 16時開演 ロームシアター京都 上演時間:45分 photography: Marc Coudrais
ラシッド・ウランダン
Rachid Ouramdane
1971年、フランス出身。国立コンテンポラリーダンス学校を卒業後、さまざまな振付家の作品への出演を経て振付作品の発表を始める。移民二世である自身のアイデンティティの探求(『万国博覧会』初演2011年)から、個の物語に焦点を当てつつ地中海移民、難民危機、気候難民、内戦などの現代社会の課題に迫るドキュメンタリー的作品を発表。現代サーカスやアスリートとの協働により、夢幻的な空間で身体の在り方を問う作品へと創造は進化し、独自の境地を開く。21年からフランス唯一の国立ダンス専用劇場、シャイヨー国立劇場のディレクターを務める。
photography:Julien Benhamou
『Corps extrêmes―身体の極限で』 10/26 19時開演、10/27 15時開演 彩の国さいたま芸術劇場 11/2 19時開演、11/3 15時開演 ロームシアター京都 上演時間:60分 photography: Pascale Cholette
マルコ・ダ・シウヴァ・フェレイラ
Marco da Silva Ferreira
1986年、ポルトガル出身。ストリートダンスを実践し、コンテスト番組での優勝をきっかけに2004年からコンテンポラリーダンスのキャリアに転向。12年に振付の第一作を発表、翌年の『Hu(r)mano』が高く評価され、国際的に展開する。コンテンポラリーダンスにハウス、ポッピング、ヴォーギング、ポルトガル旧植民地のダンスなどの多様なコードを組み合わせ、ライブミュージックと切り結ぶ力強いダンスは、ユーモアとともに意識的/無意識的に身体に行使される権力、集団の記憶、文化の結晶化の問題を顕在化させる。今回、日本では初の公演となる。
photography:Marco da Silva Ferreira
『カルカサ』 11/15 19時開演、11/16 15時開演 ロームシアター京都 上演時間:75分 photography: Guidance
写真:土屋崇治(TUCCI) 文:岡見さえ