年末、話題作が目白押し!映画館で見たい新作3選。
Culture 2024.11.28
近代国家へ向かう"幸せの国"、その将来を憂える高僧の秘策は?
『お坊さまと鉄砲』
みんなに敬愛された国王が2006年に退位。ブータンは民主制による近代国家の道へ。選挙を国民に周知すべく、模擬選挙が行われる。その挙行日、満月の日までに一丁の銃を入手せよ、とラマ僧が弟子に命じる。和やかに生きてきた村人たちがわけもわからず対立に巻き込まれる悲喜劇的な騒動を憂えた、反民主化ののろし? 不穏な空気すら漂う中、古式銃を求めて旅する富豪のアメリカ人収集家をコメディリリーフに、制度改革の混乱がそこここに巻き起こる。けれど、意表をつきながらもここしかない、という祝祭感に一切が収束。清冽な秘境の物語『ブータン 山の教室』(19年)で世界を歓喜させた俊英の、巧みな作劇と巧まざる風物詩の溶け合わせ方が絶妙というほかない。
監督・脚本/パオ・チョニン・ドルジ
2023年、ブータン・フランス・アメリカ・台湾映画 112分
配給/ザジフィルムズ、マクザム
12月13日より、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国にて順次公開
https://www.maxam.jp/obousama/
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新世紀の先駆者か危険人物か、意識高い食へカリスマが導く。
『クラブゼロ』
保護者の要望で栄養学の開講を決めた名門校に、断食茶の企画など最新の知見に詳しい、ミア・ワシコウスカ演じる教師ノヴァクが招かれる。そのコンシャスイーティング(意識的食事法)は、健康や自制心、食品需給の持続可能性や環境保護を視野に、世間の縛りや我欲から自己を解き放つという。過剰な消費社会の誘惑をきっぱり断つ彼女の信念は、肉食・糖質嗜好から摂食障害まで、悩みを異にする生徒たちの崇敬の的に。健康神話の洗脳の怪しさをブラックコメディに仕立てる一方で、俗世から遊離した集団が危険視される成り行きを、『ルルドの泉で』(2009年)の異才はキリスト伝のような清貧の一途さとも通底させる。イエローを基調にした、猛毒注意のおとぎ話の魅惑。
監督・共同脚本/ジェシカ・ハウスナー
2023年、オーストリア・イギリス・ドイツ・フランス・デンマーク・カタール映画 110分
配給/クロックワークス
12月6日より、新宿武蔵野館ほか全国にて順次公開
https://klockworx-v.com/clubzero/
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ヴィンテージバイクが唸る、アウトローの帰らざる日々。
『ザ・バイクライダーズ』
1960年代バイク黄金期の伝説的グループの烈しくも儚い興亡記。苦労人リーダー役のトム・ハーディを筆頭に、『テイク・シェルター』(2011年)の鬼才のもとに実力派俳優が集い、命知らずでアンニュイな男の色気を纏う。シカゴの片隅に暮らすキャシーに一目惚れした、オースティン・バトラー演じるべニーのヤバい求愛行動に、彼女のコワモテの同居人が決闘かと思いきや、愚痴りつつ家を出る初っ端から、張りつめた気配にすっとぼけて侘しい下町感が匂やかに渗む。脚を怪我した最愛のベニーを一味から離脱させんと図る、キャシーが語り部なのもいい。マリファナと長髪のライダーに時代が変わる終章は、破綻の中に幸を見いだす女性の眼がうたかたの時を照らす光となる。
監督・脚本/ジェフ・ニコルズ
2023年、アメリカ映画 116分
配給/パルコ、ユニバーサル映画
11月29日より、TOHOシネマズ シャンテほか全国にて順次公開
https://www.universalpictures.jp/
*「フィガロジャポン」2025年1月号より抜粋
text: Takashi Goto