【立田敦子のカンヌ映画祭2024 #01】グレタ・ガーウィグが審査員長!カンヌ映画祭が開幕。
Culture 2024.05.15
フランスの現地時間5月14日(火)、第77回カンヌ国際映画祭が開幕した。
今年の最大の注目は、なんといっても『バービー』の監督、グレタ・ガーウィグの審査員長の起用だろう。「ワールドシネマの刷新を大胆に体現している」が起用の理由だ。女性監督としては2014年のジェーン・カンピオンに次いで2人目、アメリカ人女性としては1965年にカンヌ初の女性審査員長を務めた俳優のオリヴィア・デ・ハヴィランドに次いで2人目となる。
審査員長のグレタ・ガーウィグは、メゾン マルジェラ2024年「アーティザナル」オートクチュールコレクションを着用。photography:Maison Margiela
グレタは、俳優・脚本家として活躍した後、自伝的作品『レディ・バード』(17年)で長編監督デビュー、シアーシャ・ローナンを起用し、『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(19年)など女性をエンパワーメントする作品で存在感を示してきた。昨年、ファッションドールの世界を舞台にジェンダー問題、ダイバーシティといった今日的なトピックスを盛り込んだミュージカル映画『バービー』が世界的に大ヒットして、まさに現代を代表する映画監督となった。
オープニングセレモニーは、そんなグレタの映画人としての軌跡を追う映像に続き、フランスのシンガーソングライター、ザホ・ドゥ・サガザンが客席から登場し、デヴィッド・ボウイの「モダン・ラブ」を披露。この曲は、グレタのパートナーで『バービー』の共同脚本家でもあるノア・バームバッグ監督が監督した、グレタの俳優としての出世作『フランシス・ハ』でグレタがニューヨークの街を疾走するシーンで使用され、映画ファンにとっても意味深い曲である。カメラに何度も抜かれていたグレタが目を潤ませながら、一緒に口ずさむ様はちょっと感動的だった。
サンローランのカスタムドレスを着用してレッドカーペットに登場したグレタ・ガーウィグ。photography: Saint Laurent
そんなグレタが率いる審査員団は、2018年に『万引き家族』でパルムドール(最高賞)を受賞している是枝裕和監督をはじめ、『雪山の絆』がアカデミー賞国際長編作品賞にノミネートされたスペインの監督J・A・パヨナ、フランス人俳優のエヴァ・グリーン、トルコの俳優エブル・ジェイラン(名監督ヌリ・ビルゲ・ジェイランのパートナーでもある)、昨年『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』でカンヌに来ていた俳優リリー・グラッドストーン、フランスのスター俳優オマール・シー、レバノンの監督ナディーン・ラバキ、イタリアの人気俳優ピエルフランチェスコ・ファビーノの計9名。最終日には、コンペティション部門に選出された22作品の中からパルムドールなど各賞が授与されるが、この審査員の顔ぶれからすると、斬新な実験映画よりヒューマンなドラマ性の高い作品が有利かもしれない。
ショパールのジュエリーを纏って登場したフランス人俳優のエヴァ・グリーン。photography: Chopard
ちなみに審査員の紹介の際、是枝監督への拍手は一際大きかった。パルムドール受賞監督への敬意だろう。映画といえばスター俳優に注目が集まるものと思われがちだが、カンヌ映画祭は違う。主役はあくまでもフィルムメーカー、監督なのだ。
オープニングセレモニーでは、今年の名誉パルムドール賞の受賞者のひとりメリル・ストリープも登場。フランスを代表する俳優ジュリエット・ビノシュによるドラマティックな長い長い称賛のスピーチを、傍らで時におどけながら聞くストリープ。こんなツーショットが観られるのもカンヌならでは光景かも。
ディオールのドレスでオープニングセレモニーに登場したメリル・ストリープ。photography: Dior
セレモニーに続く、オープニング上映はフランスのカンタン・デュピュー監督によるコメディ『Le Deuxième Acte』。デュピューは、フランスでは絶大な人気があるが、笑いのツボが違うのか、日本ではほとんど知られていない。本作も、レア・セドゥ、ヴァンサン・ランドン、ルイ・ガレルらスター俳優がこぞって共演しているコメディで会場は30秒ごとに笑いが起こっていたが、この作品が日本でウケるかどうかと言われればなかなか難しそうだが、"秘密兵器"を世界に売りたいフランス映画界の意欲は伝わってきた。
オープニング上映のプレミアに登場したレア·セドゥは、ルイ·ヴィトンのカスタムメイドドレスとハイジュエリー、ファインジュエリーを着用。photography: Louis Vuitton
映画ジャーナリスト 立田敦子
大学在学中に編集・ライターとして活動し、『フィガロジャポン』の他、『GQ JAPAN』『すばる』『キネマ旬報』など、さまざまなジャンルの媒体で活躍。セレブリティへのインタビュー取材も多く、その数は年間200人以上とか。カンヌ映画祭には毎年出席し、独自の視点でレポートを発信している。
text: Atsuko Tatsuta editing: Momoko Suzuki