王室ジュエリーのビジュアルブックほか、いま読みたい4冊。
Culture 2025.01.19
悲惨な現実を乗り越えるため、人はおとぎ話を編み出したのか。
『天国ではなく、どこかよそで』
レベッカ・ブラウンは、日本ではエイズ患者を介護した体験をもとにした連作『体の贈り物』や母親を看取るまでを記した『家庭の医学』で知られている作家だ。ところが、おとぎ話を語り直したこの短編集では、赤ずきんはオオカミに腕をかみ切られ、ピノキオは老人が作った人形のまま。「本当はこうあってほしかった」という絶望や哀しみが物語を生み出す。敢えて物語の源泉となった痛みに遡ってみせた、作家の眼差しの確かさに胸を衝かれる。
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人間関係のモヤモヤに効く、身につまされる短編集。
『うそコンシェルジュ』
みのりは、知り合いがSNSで「芸能人のロケに行きたいのに先約のせいで行けない」と嘆いているのを目にする。その先約の相手は自分だ。会いに行くのが負担に思えてきて「姪が病気だ」と嘘をつくことに。すると今度は大学のサークルをやめたい姪からうまい嘘を考えてほしいと頼まれる。表題作のほか、人間関係に振り回され傷ついた人がどう切り抜けるか。身につまされ「これでいいんだよ」と思えてくる処方箋のような11編の物語。
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アメリカの"いま"を描く作家が、過酷な歴史を紐解いた新境地。
『降りていこう』
40歳の若さで全米図書賞を2度受賞。史上初の快挙を成し遂げた作家の最新作は、黒人奴隷の少女アニスの物語。母親が白人領主にレイプされて生まれたアニスは奴隷市場に売り飛ばされる。ニューオーリンズに向かう旅路はダンテの『神曲』さながら。地獄へ降りていくしかない人生に抗うため、アニスは逃亡する。「あんたの武器はあんた自身」、亡き祖母や母の教えが彼女を導く。不屈の魂を鼓舞するような言葉の力強さに惹き込まれる。
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王室と美術を彩った、宝石の輝きに秘められた物語。
『世界の美しい王室ジュエリー』
上流貴族の出身ではないナポレオンが、妻ジョゼフィーヌのティアラに輝くダイヤモンドに託した意味とは。オランダの黄金期を代表する画家フェルメールは、なぜ『真珠の耳飾りの少女』を描いたのか。ロシアの革命家トロツキーと恋に落ちたメキシコの画家フリーダ・カーロが愛した翡翠。英国王室の至宝となった史上最大のダイヤモンド、カリナン。214個のジュエリーの逸話を豊富な写真とともに辿る、読みごたえ十分のビジュアルエッセイ。
*「フィガロジャポン」2025年2月号より抜粋
text: Harumi Taki