北欧のアーティストなど、いま注目の4つの展覧会をご案内。
Culture 2025.03.21
深く優しい闇を暗示する夕暮れの光。
『Dusk』
スウェーデン生まれのシグリッド・サンドストロームは、大自然で育った子ども時代から「夕暮れ」という光が折り重なる瞬間の現象に魅了されてきた。電気も水道もない休日の隠れ家で家族と過ごす中、蝋燭とランプの灯りがゆらめく穏やかな時の流れを体験した作家は、やがて現代社会の工業的な「光害」により明るさが陰影を消し去ることを知り、谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』の美学に想いを馳せた。彼女の描く風景は霞がかった微妙な色調のグラデーションがオーロラを連想させ、哀愁を帯びたブルーとグレーの先に訪れる深く優しい闇を予感させる。ガラスファサードにはキャンバスの表裏に絵の具が染み込む両面絵画が展示され、緞帳の両側の世界のような光と影の質感を表現している。
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北欧絵画史を通して、神秘的な世界に浸る。
『北欧の神秘―ノルウェー・スウェーデン・フィンランドの絵画』
19世紀以降、北欧ではそれまでフランスやドイツの美術に範を取っていた画家たちが自国の風土や文化、歴史に関心を寄せ、氷河と森が織りなす風景、神話や民間伝承を絵画主題とする独自の芸術が開花した。ムーミンのモデルになったといわれる森の怪物トロルなどの妖精や怪物は今日でも北欧の映画や小説の着想源になっている。
日本では目にすることの少ないノルウェー、スウェーデン、フィンランドの絵画が一堂に会する本展では、「自然」「神話・お伽話」「都市」というテーマを軸に、19世紀後半から20世紀前半に描かれた北欧絵画の魅力を解き明かす。近代美術の巨匠、エドヴァルド・ムンクの『フィヨルドの冬』『ベランダにて』の2点が本展独自の文脈で展示されることにも注目したい。
会期:開催中~3/26
会場:静岡市美術館
054-273-1515
開)10:00~18:30最終入場
休)月 ※2/24、3/24は開館
料)一般¥1,400
https://shizubi.jp/
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生命の祝福と再起への希望を昇華する絵画。
『近藤亜樹:我が身をさいて、みた世界は』
躍動する筆遣いと力強い色彩が感受性を呼び覚ます絵画で高く評価される近藤亜樹の過去最大の個展。東日本大震災の余波が残る2012年にデビューした近藤は、彼女自身を含む世界の変化に向き合い、他者の存在と繋がりを感じ取りながら、描くことで現実に向き合う創作を探求してきた。
なかでも幅9m超の新作絵画『ザ・オーケストラ』は、人間とほかの動植物、擬人化された音の粒が混然となって画面を埋め尽くし、喜びや悲しみ、困難の受容と再起への希望とが芸術として昇華されて、個々の表現が一体となる瞬間が描かれる。また近藤の描く豊潤な母子像には、我が子だけでなく世界中の愛されるべき子どもたちに届けようとする切実な愛情と祈念が燦々と輝きを放っている。
会期:開催中~5/6
会場:水戸芸術館
029-227-8111
開)10:00~17:30最終入場
休)月、2/25 ※2/24、5/5は開館
料)一般¥900
https://www.arttowermito.or.jp/
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京友禅の着物が命を吹き込んだ「人型(ひとがた)」
『加藤泉×千總:絵と着物』
1555年に京都で創業した千總は、明治時代に友禅染の下絵を日本画家に依頼するなど、新しいデザインや技術を取り入れた美術染織品のパイオニアだ。創業470周年の今年、人型のモチーフで世界的に知られる現代美術家・加藤泉と共同制作した作品を発表する。数年前より彼は何度も工房を訪れて自ら筆をとり、職人たちとともに伝統的な友禅の技法に従って制作してきた。
千總の歴史の中で、友禅職人以外の手によって着物生地に染色が加えられるのは極めて珍しいことだという。スケッチをもとに糸目友禅や描き友禅、絞り染め、刺繍、仕立てまで膨大な工程を経て完成した唯一無二の作品は、加藤の描く人間の無垢な原型が着物の形によって新たな命を吹き込まれ息づいている。
会期:開催中~9/2
会場:千總ギャラリー
075-253-1555
開)10:00~17:00最終入場
休)水
入場無料
https://www.chiso.co.jp/lp/izumikato/
*「フィガロジャポン」2025年4月号より抜粋
text: Chie Sumiyoshi