舞台は東京。ヴィム・ヴェンダースの劇場未公開作品を世界へ届けるクラウドファンディングを実施中。
Culture 2025.03.25
ヴィム・ヴェンダースが出演・ナレーションを担当しながら劇場未公開作品となっていた幻のアートフィルム『ドリーム・アイランド ーヴィム・ヴェンダースの失われた夢』(以下『ドリーム・アイランド』略)をデジタルリマスターし、世界へ届けるプロジェクトがこの度発足。現在、公開に向けクラウドファンディングを実施中。

『ドリーム・アイランド』は、ヴィム・ヴェンダース本人が「一番好きな作品」(*高松宮世界文化賞ホームページより)と語った映画『夢の涯てまでも』(1991年)のために制作された "夢のシークエンス"がきっかけとなり、1991年頃の東京を舞台に実写ドラマとして作られた幻の未公開アートフィルム。『夢の涯てまでも』で使用されなかった約100分間の "夢のシークエンス"の中から、厳選したシーンをヴェンダース自らが編集し、自身が12歳の時に撮った8mmフィルムも使用。ヴェンダースを語る上では外せない表現手法を使っているだけでなく、彼自身が出演・ナレーションを務めているという点でも貴重な作品だ。
この幻の傑作は、『夢の涯てまでも』のレーザーディスク版(1993年発売)の特典映像として収録されたのみで、現在では観る術がなく、長い間、関係者やヴェンダースファンの間で幻の作品とされていた。

そんな折の2020年1月7日、ヴェンダースから『夢の涯てまでも』のアソシエイト・プロデューサー、御影雅良氏に1通のメールが届く。そこにはこう書いてあった。
「30年が過ぎ去った。以来、私は再び『ドリーム・アイランド』を観ることができなかった。私は何ひとつコピーを持っていない......ところで、『夢の涯てまでも』のディレクターズカット版ブルーレイを送ってあげましょうか? ついに30年後にやっと私が意図したかたちの映画をリリースできました。 ーヴィム・ヴェンダース」
そこで御影氏は『ドリーム・アイランド』のコピー(VHS)を彼に送った。ヴェンダースが笑顔で朗らかに東京を歩いているシーンが随所に映し出されている本作。きっと彼にとって、この作品を撮影した東京での日々はかけがえのない時間だったのではないだろうかーー。
時が経ち、ヴェンダースは東京を舞台にした『PERFECT DAYS』の撮影に着手。作品が公開されると世界中で高い評価を得た。そして『ドリーム・アイランド』の公開を目指すストーリーが始まる。
『ドリーム・アイランド』の撮影監督を務めた故・仲田能也氏の娘、仲田早織氏は、『PERFECT DAYS』に映し出される東京の下町を観ていて、幼い頃に何度も父と観ていた『ドリーム・アイランド』を思い出した。もう一度本作が観られないか相談をするため、急遽、東京都写真美術館で実施された『夢の涯てまでも』ディレクターズ・カット 4Kレストア版の上映イベントに登壇する御影氏を訪問。そこから紆余曲折を経て、失われたと思われていた本作のオリジナルテープや16mmフィルムが発見される。そして本プロジェクトが発足したのだ。

クラウドファンディングの目的は、フィルムのデジタルリマスター化。発見されたフィルムの保存状態は良好だったが、ハイビジョンのアナログ1インチテープは劣化しやすく、レーザーディスク同様、デジタイズしなければ観ることも編集することもできないことが判明したからだ。デジタイズには費用がかかるが、「デジタル映像黎明期の実験的な表現が隠されたこの作品を、過去のものとして葬り去ってしまうわけにはいかない」と仲田氏は想いを綴る。

『ドリーム・アイランド』のDVDコピーを御影氏から手に入れて久しぶりに作品を観た仲田氏はこう語る。「30年ぶりに観た『ドリーム・アイランド』は衝撃的にアーティスティックで、ヴェンダースを知る上でとても貴重な作品であるとともに、ヴェンダースが思い入れのある東京で生まれた私たちが後世に残し、世界に発信しなければならない作品であると確信しました。そして、父が切り取った映像を観て、久しぶりに父を近くに感じ、やはり当時の父の気持ちに触れたくなりました。そのためにもヴェンダースに会って、撮影当時の父や、家族のこと、そしてどのようにしてこの作品に向き合っていたのかを聞くことが私の夢です」
『夢の涯てまでも』と『PERFECT DAYS』をつなぐ幻の作品と言われる本作の公開という夢の実現を、ぜひ応援したい。

恋人を失った女性(ふみ)が見ている東京は、彼女だけの空間。彼女にとっては、いま一番大切なのは想い。新宿公園に毎日のように出かけ、街中の音をDATで拾い集めいてる男(ダットマン)にとっては、音の方がよく見える。子どもの目には、大人たちが見る見方とはつねに異なっている。夢だって違う。純粋な気持ちを忘れるように大人たちは、いつからか「モノ」にこだわっていく。「モノ」は、いつかはクズになる。しかし、イメージはどうだろうと、観察者(ウォッチャー)と名乗る男(ヴィム・ヴェンダース)は問いかける。少年(大ちゃん)は、そんな大人たちの思考経路に関係なく、どこかで全員と巡り合って、その人生の中のいっときに関与している。夢の島を、一緒になって歩いているのだーー。
●監督/ショーン・ノートン ●撮影/仲田能也 ●出演・ナレーション・「夢」の制作/ヴィム・ヴェンダース ●1991年制作 ●60分
https://motion-gallery.net/projects/DreamIsland
text: Natsuko Kadokura