伝説のイットガールから建築探訪まで。今読むべき視点が変わる4冊の本。
Culture 2025.04.16
光と影をまとったハリウッドのイットガール、イヴ・バビッツ。
"お騒がせセレブ"の仮面を脱ぎ捨てたパリス・ヒルトン。
何気ない日常の解像度を上げる柴崎友香、そして建築から世界を見直す坂口恭平。
どの本にも、私たちの"視点"をやさしく塗り替える力がある。記憶、身体、空間、自分自身を見つめ直すきっかけとなる4冊を紹介!
伝説のイットガールの輝きを封じ込めた短編集。
『ブラック・スワンズ』

まばゆい輝きは儚さゆえに人を惹きつける。たわいないおしゃべりのようなイヴ・バビッツの短編を読むと、胸の奥がぎゅっとせつなくなるのはそのせいだ。彼女はハリウッドの伝説のイットガール。バッファロー・スプリングフィールドのアルバムジャケットのデザインを手がけ、写真家としても活躍。彼女の小説はロマンスのリアルな目撃談。再発見された時「ロサンジェルスのキャリー・ブラッドショー」と呼ばれたのは伊達じゃない。
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ゼロ年代を生き延びた、パリスの衝撃の回顧録。
『PARIS The Memoir』

壮絶な半生だ。ヒルトン家の長女でお騒がせセレブの代名詞だったパリスが、本当の自分を赤裸々に語り尽くす。ADHDという言葉もまだなかった頃、奔放なパリスに手を焼いた両親は、彼女を矯正施設に送り込む。劣悪な環境に何度も脱走を試みるが失敗。この回顧録は、美しくて若い女性を消費しようとする社会と不屈の魂の闘いの記録。能天気なパーティガールというイメージを覆し、「いまが最高に幸せ」と言える彼女は本当に凄い。
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柴崎友香の小説を読むと、日常の解像度が上がる。
『遠くまで歩く』

小説家のヤマネは「思い出深い場所」をテーマに作品を作るオンライン講座の講師を引き受ける。外出を制限されたコロナ禍の日々で、私たちは思いがけない距離の人と繋がることを知ったのかもしれない。それぞれの作品を通して、人々の記憶と場所が幾重にも重なってはほどけていく。読者もいつしか自分の記憶を旅しているはずだ。柴崎友香の小説を読むと日常の解像度が上がる。不思議な装置のような、この読み心地はクセになる。
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作者自らの原点、建築を巡る旅を綴る。
『BAUをめぐる冒険』

書名にもなっている「BAU」は、ドイツ語で「家、建築、動物の巣穴」を意味する。画家、作家、音楽家と多彩な肩書を持つ坂口恭平が自らの原点だという建築を巡る旅をした。ドイツのバウハウスの歴史からは、ナチスに抵抗した軌跡が浮かび上がる。フンダートヴァッサーの奇抜な外観の集合住宅には「生き延びる技術」が込められていた。ル・コルビュジエはインドにどんな希望を見いだしたのか。7カ国14組の建築家と作品を辿る探訪記。
*「フィガロジャポン」2025年5月号より抜粋
text: Harumi Taki