ポップな快作、「大人のブラックなお伽話」、巨匠の自伝的ドキュメンタリーまで!映画館で観たい傑作3選
Culture 2025.04.19
旧邸から満ちあふれる、巨匠の"失われた時"。
『訪問、あるいは記憶、そして告白』

門番は棕櫚(シュロ)の木。重々しい木製の扉を潜り、カップルが閑寂な舘を訪れる。虚構めいた設定の「訪問」に始まる巨匠オリヴェイラの自伝的ドキュメントは、妻マリアと40年暮らし、負債返済のため手放したポルトの家の「記憶」----そのサウダージ(郷愁)の明暗を慈しむように食卓や書斎の隅々を捉えつつ、封印したくなるほど率直な、家族史や映画観・女性観の「告白」にいたる。映画作りの情熱と困難に対する妻の献身や、ポルトガル独裁体制の1963年に突然逮捕された実体験も手繰り寄せる。82年の作ながら彼の遺志を汲み、106歳の現役として逝った2015年に発表。日本では「オリヴェイラ2025」特集で、従来版より16分長い傑作『アブラハム渓谷 完全版』(1993年)と並んで劇場初公開となる。
●監督・脚本/マノエル・ド・オリヴェイラ
●1982年、ポルトガル映画
●68分 ●配給/プンクテ
●Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国にて公開中
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日傘男子、お団子ヘアの"運命の女"と出逢う。
『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』

バイト先の銭湯で軽音楽部のさっちゃんとふざけ合う以外、冴えない日々を送る小西が、他人を近づけないオーラで学食のざる蕎麦を啜る桜田花と知り合う。軽快な学園スケッチがベースのボケツッコミみたいな会話劇は、やがてボーイミーツガールの物語を焦点化。ぎこちない甘酸っぱさを帯びたセレンディピティ=偶然を幸運に変える活力にほろ酔い気分でいると、実はいびつで一方通行ぎみな恋愛関係が纏う、幸運と不運の急激な振り幅になぎ倒されるかも。凪を装った感情の嵐を掴む大九監督のお手柄だ。小西役の萩原利久、さっちゃん役の伊藤蒼、花役の河合優実に各々、寄り・引き長回しで長ゼリフの見せ場があり、三者三様に心を動かされる。原作小説はジャルジャルの福徳秀介。
●監督・脚本/大九明子
●2025年、日本映画
●127分 ●配給/日活
●4月25日より、テアトル新宿ほか全国にて順次公開
https://kyosora-movie.jp/
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女性の生きづらさを照射する大人のおとぎ話。
『ガール・ウィズ・ニードル』

第一次大戦後、人心の荒れた首都コペンハーゲン。戦場で夫を失い、家賃も払えぬお針子カロリーネは工場主と恋に落ちる。が、マザコンの"白馬の王子様"に妊娠を告げて捨てられた末、菓子屋を隠れ蓑にして、もぐりの養子縁組斡旋業を営むダウマに助けられる。望まれず生まれた赤子の里親探しに飛び回るダウマの情に打たれ、カロリーネは助手として一時預かりの乳母役に。デンマーク裏面史を彩る、連続殺人事件に着想を得た地獄巡りのゾクゾク感。男性中心社会のモラルがもたらす偽善の根深さを、モノクロームの陰影美を駆使して引き寄せ、ゴシックスリラーの隙間から振り切った女性映画の鋭さがギラッと光る。某少女とカロリーネの繋がりが生むひと筋の救いもお見逃しなく。
●監督・共同脚本/マグヌス・フォン・ホーン
●2024年、デンマーク・ポーランド・スウェーデン映画
●123分 ●配給/トランスフォーマー
●5月16日より、新宿ピカデリーほか全国にて順次公開
https://www.transformer.co.jp/m/needlemovie/
*「フィガロジャポン」2025年6月号より抜粋
text: Takashi Goto