「大好きだけれど大嫌いとしか言えない関係」『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』作者が語る、映画『来し方 行く末』の魅力。

Culture 2025.04.20

故人への想いと共鳴する、深い夜のような愛の音色。

『来し方 行く末』

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脚本家志望のウェンは不本意な弔事代筆業に専心する。採算度外視の篤実さで、心裏腹のまま死者を悼む依頼人の無理を聞き入れて。やわな現状に彼の分身的な居候がダメ出しするのも、イケイケの中国経済が失速する時代気分の反映もおもしろい。© Beijing Benchmark Pictures Co., Ltd

人生の惑う時期に観た作品はその人を変える。生きていく中で、得てしてある瞬間だと思われますが、本作はまさに人生の迷い子となっている大人に贈りたい物語です。

フー・ゴー演じるウェン・シャンは弔辞の代筆業を通してさまざまな人生を垣間見ます。ウェン・シャンの瞳を通して観客も多くの死に立ち会いますが、不思議と物語に陰惨さはなく、ただただずっと誰かの服の袖を引っ張りたくなるような寂しさと、春が来た時のような温かさを味わうことになります。これは共感の物語だからです。

大好きだけれど大嫌いとしか言えない関係。本当はもっと近づきたかったが、感情が邪魔をしてできなかった人々。現実では会ったこともないが、大切な友人だと感じている誰か。描かれる人間模様のどれかには心を寄せたくなる者がいます。依頼人たちは時に傍若無人で我儘ですが、なぜか憎めず愛嬌すら感じられるのは主人公のウェン・シャンが深い夜のように依頼人の悲しさを包みこんでくれるからこそ。ウェン・シャンと同じく、リウ・ジアイン監督による死の切り取り方も優しく、そして誠実です。この作品で涙を流すのは悲しさからの発露というより、作品全体に流れる愛情の音色を感じ取ってしまうからかもしれません。少なくとも私は、「明日からまた頑張ろう」という気持ちでエンドロールを迎えられました。

人生とは厳しく、甘くはない。時に立っていられないほどの衝撃が私たちの人生には発生し、うずくまりたくなる瞬間があります。けれども、結局のところ自分が勇気をふりしぼって歩くしかないのです。映画では観客の私たちですが、人生においては自分が主人公。その感覚を失いかけている迷い子は、ぜひ劇場へ足を運んでほしいです。

『来し方 行く末』
●監督・脚本/リウ・ジアイン
●出演/フー・ゴ―、ウー・レイ、チー・シー、ナー・レンホア、ガン・ユンチェンほか
●2023年、中国映画 ●119分
●配給/ミモザフィルムズ
●4月25日より、新宿武蔵野館ほか全国にて順次公開
https://mimosafilms.com/koshikata/
文:暁 佳奈/小説家
京都アニメーション大賞の小説部門で大賞受賞の『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』(KAエスマ文庫)で2015年、デビュー。21年より『春夏秋冬代行者』(電撃文庫)シリーズを刊行。

*「フィガロジャポン」2025年6月号より抜粋

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