【話題の新作】偶然と友情が生んだ、心を震わす3つのアルバム。
Culture 2025.05.09
「カントリーを作ろう」と交わした約束から始まった友情、グラミー受賞アーティストが綴る愛のかたち、デモ音源から始まった奇跡の再結成。
耳に残り、心に触れる、話題の3つの新作アルバムをご紹介。
ふたつの才能が重なり、紡ぎ出す内なる声。
『センド・ア・プレイヤー・マイ・ウェイ』
ジュリアン・ベイカー&トーレス

ソロだけでなくボーイジーニアスの一員としても活躍するアコースティックなスタイルのシンガーソングライターと、マルチミュージシャンとしての才能を持ち合わせたボーカリスト。このふたりが出会ってから長い年月が経つが、何年も前の初共演後に「カントリーアルバムを作るべきだ」と語ったことが発端になって生まれたプロジェクト。バンジョーやフィドルなども入った驚くほど正統派のカントリーサウンドに乗って、不正な権力、依存症、クィアといった社会の事象について優しい視点で歌い綴る。
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脱インディフォークのラブソングアルバム。
『セイブル、フェイブル』
ボン・イヴェール

ジャスティン・ヴァーノンのソロプロジェクトとして始動したボン・イヴェールは、2008年にデビューしてから早くも17年。大ヒットを記録したうえにグラミー賞受賞などを経験し、6年ぶり5作目の新作を生み出した。さまざまな形の恋愛、他者との関わりを描いた楽曲で構成され、陰影のある歌声がエモーショナルな感情を表現する。ディジョンやフロック・オブ・ダイムズ、ハイムのダニエル・ハイムといった必然性のあるゲストを交えながら、高揚感に満ちたサウンドに乗せてドラマティックな世界を構築する。
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偶然の発見が生んだ、儚くも美しいロック。
『ギンコ』
パンチコ

なんとも数奇な運命のバンドである。2000年にひっそりと作られたデモCDを16年にインターネットユーザーが投稿したことで話題を呼び、熱心なリスナーたちが4年かけてバンドメンバーを発見。これをきっかけに再結成し、ワールドツアーまで行ったというから驚きだ。ベースはシンプルなバンドサウンドだが、オーケストレーションや音響的な演出によってドリーミーな空間を生み出し、憂いを感じさせる歌世界を展開。夢幻的でアーティスティックながら、どこか人懐っこい印象を感じさせるのがユニーク。
*「フィガロジャポン」2025年6月号より抜粋
text: Hitoshi Kurimoto