新国立劇場バレエ団ロンドン公演『ジゼル』が開幕間近! 高田茜×イラストレーター渡邉香織が語り合う、英国ロイヤル・バレエでの特別な時間。
Culture 2025.07.15
2025年7月下旬、新国立劇場バレエ団がロイヤル・オペラハウスで初のロンドン公演を行う。それに際し、英国ロイヤル・バレエでプリンシパルとして活躍する高田茜と、イラストレーター foxcoとして活動する渡邉香織、ともにロンドンを拠点に活動するアーティストが来日し、新国立劇場で対談が実現! 互いの活動をリスペクトするふたりが初めて顔を合わせた場での話題は、バレエへの深い愛。ロイヤル・オペラハウスでの特別な時間、特別な体験について語り合った。
(左から)Akane Takada/1990年、東京生まれ。2008年にローザンヌ国際バレエコンクールで入賞後、研修生として英国ロイヤル・バレエに加入。16年よりプリンシパル。『ジゼル』『白鳥の湖』『ロミオとジュリエット』をはじめ数々の舞台に主演。
Kaori Watanabe(foxco)/1990年、東京生まれ。企業に勤めながらイラストレーターの活動を開始し、2017年独立。24年6月ロンドン芸術大学大学院修了。現在はロンドンを拠点に個展の開催、ファッションブランドなどとのコラボレーションを行う。
──まずはおふたりのロンドンとの関わりについてお聞かせください。
渡邉 私はイラストレーターとして活動しているのですが、2022年からアニメーションを学ぶためにロンドンの大学院へ。子どもの頃から住んでみたかった場所でもありました。とてもインターナショナルな街で、イスラム教の方々がラマダンが終わるとお祝いすることを知ったり、5、6時間でマラケシュまで行けるとわかって旅をしたり。自分が見ている世界が、少しずつ、じんわりと、広がってきた感があります。
高田 渡邉さんのイラスト、可愛いなと思っていました! 私はロンドンでの生活はもう17年になります。バレエダンサーという職業が成立する場所であるということが大きいのですが、もともと物語性の強いバレエが大好きで、特に英国ロイヤル・バレエを代表するフレデリック・アシュトン、ケネス・マクミランといった振付家の作品を踊りたかったんです。演劇的なバレエがすごく好きなんですね。
渡邉 ロンドンでロイヤル・バレエの舞台を観たら、登場人物の声が聞こえてくるような感じがして、どんどん「入っていく」感覚になる。それで大好きになりました。
高田 イギリス人ってお喋り好きという印象がありますよね。だから言葉のないバレエを演じても、セリフが聞こえてくる感じがするのかも。実は私も、舞台上では結構喋っています。つい、時代劇のような日本語が頭の中に浮かんでくることも。たとえば、古代インドが舞台の『ラ・バヤデール』。ヒロインのニキヤは蛇に噛まれて死んでしまうのですが、恋敵のガムザッティに向かって、「お前がやったのね!?」「おのれー!」と(笑)
渡邉 バレエの楽しみ方が広がりそう(笑)! 実は最初に高田さんをお見かけした時、「天使みたいない人がいる!」って感激したのですが、その後バレエを拝見したらまた全然表情が違っていて、それが高田さんだとわからなかったほど。「これだけの表現ができるんだ」と感動しました。それでロイヤル・オペラハウスで高田さんの舞台をいっぱい観るように。今日は夢のようです(笑)。
高田 ありがとうございます。
渡邉 同じ演目を何度も観るようになったのは、『くるみ割り人形』がきっかけです。踊りはもちろん素敵ですが、ロイヤルの『くるみ』の第2幕の装置は、ケーキのデザインなんですよね。1幕に登場していたケーキが拡大されてこんな装置になっているのかと思うと、さらにじっくり観たくなって。装置が好きすぎて、ロンドン近郊まで行って、ロイヤルのオペラ、バレエの装置の工房を見学するツアーにも参加したほど! イラストを描くこともあって、舞台装置は視覚的に強く印象に残ります。
バレエ『くるみ割り人形』の魅力がぎゅっと凝縮された渡邉のイラスト。Instagram/@foxco_kaori
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──ダンサーの皆さんにとっても、劇場は特別な場所なのでしょうか。
高田 日常を忘れさせてくれる場所ですね。舞台が始まるとその世界に没入しますし、マジックのある空間だなと思います。
渡邉 ロイヤル・オペラハウスは、入った瞬間から物語が始まるような感覚に。メインステージがある建物は、まさにヨーロッパの歴史ある劇場の雰囲気ですが、隣接するガラス張りの建物はとてもモダンで、その両方を行き来するのも楽しくて。
高田 ポール・ハムリン・ホールですね。テラスでコーヒーやシャンパンを飲むこともできます。
渡邉 そこからコヴェントガーデンの広場が見えたり遠くにロンドン・アイという大観覧車が見えたりも。風を感じられる場所で、開演前や幕間、公演のない時もふと行ってみたくなります。
ロンドン中心部、コヴェント・ガーデンの英国ロイヤル・オペラハウス。ロイヤル・オペラ、ロイヤル・バレエの本拠地としてオペラファン、バレエファンに親しまれている。photography: Luke Hayes
渡邉のロイヤル・バレエへの思いが詰まったイラスト。Instagram/@foxco_kaori
──客席の雰囲気はいかがですか。
渡邉 ひとりで観に行くと隣の席の方とお喋りすることがあるのですが、世界各国からお客さんがいらしてますね。少し後ろや端の席では、日常的に通っていらっしゃる地元の方が多いように感じます。高田さんの公演で印象的だったのは、昨年秋の『不思議の国のアリス』。怪我からの復帰公演でしたから、客席の皆が「戻ってきたー!」とすごく盛り上がって、私もうれしくなりました。
高田 実は私自身、あの怪我が治るとは思っていませんでした。いまも舞台で踊る度に、ウルッとしてしまうんです。
衣装協力:オンワード樫山
──『不思議の国のアリス』はロイヤル・バレエの人気作ですが、東京の新国立劇場でも2018年にレパートリー入りして、今回(2025年6月)の上演では高田さんがアリス役で客演されました。
高田 都さん(吉田都・新国立劇場舞踊芸術監督)のおかげで、シーズンの最後の最後に、新国立劇場バレエ団の皆さんとご一緒できました。バレエ団の皆さんが、本当に優しくて! 声をかけてくださったり、本番前にはお菓子をくださったり(笑)
2025年6月、高田は新国立劇場バレエ団によるクリストファー・ウィールドン振付『不思議の国のアリス』に客演、アリスを演じた。ハートのジャック役は井澤駿。Alice's Adventures in Wonderland© by Christopher WHEELDON Set and Costume Designer: Bob CROWLEY Lighting Designer: Natasha KATZ photography: Takashi Shikama
渡邉 7月下旬にはロイヤル・オペラハウスで新国立劇場バレエ団の初のロンドン公演が行われますが、これはバレエ団の皆さんがまるごといらっしゃるわけですよね。高田さんの活躍だけでも「日本の宝物......!」って思いますが、ロイヤル・オペラハウスのあの舞台全体で日本のダンサーたちが演じられるなんて、偉業ですし、すごく楽しみです。
高田 上演されるのは都さんの演出による『ジゼル』ですが、これも物語を伝えるバレエですね。新国立劇場バレエ団の皆さんはテクニックも強く、本当に素晴らしいダンサーが集まっています。気持ちが同じほうへと向いていて、ユニティみたいなものがすごく感じられるので、踊りが綺麗に揃うんですよね。特に『ジゼル』は第2幕の女性のコール・ド・バレエが大きな見せ場に。ロンドンの皆さんもすごく楽しみにされているでしょう。
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──『ジゼル』は高田さんにとっても、特別な作品のひとつなのでは?
高田 ローザンヌ国際バレエコンクールで『ジゼル』のバリエーションを踊って賞をいただいて、ロイヤルに行くことが決まりました。2016年にプリンシパルに昇進するきっかけとなったのも『ジゼル』。思い出深い作品です。1幕は人間の女の子、第2幕では精霊、ゴーストとして登場するので、表現も身体の使い方も全然違いますから、演じがいがあります。ドラマのある作品は、そこでしか経験できない気持ちになれる。それを考え、役柄を掘り下げていく過程が本当に好きなんです。
ロイヤル・オペラハウスで『ジゼル』を踊る高田。photography: Andre Uspenski
ロイヤル・オペラハウスのスタジオにて。高田がいくつもの役柄、作品に向き合ってきた場所だ。photography: Andre Uspenski
──これからもいろいろな挑戦に臨まれますね。
高田 このシーズンを怪我なく終えられたことが何よりうれしくて──。来シーズンからもひとつずつ、しっかりと向き合っていきたいと思います。
渡邉 私はロンドンでの4年目が始まります。これまで蒔いてきた種が次第に芽を出し、実ってきました。9月始動のプロジェクトもいくつかあり、ロイヤル・オペラハウスで私のイラストを使ったグッズが販売される予定も! いまがいちばん楽しい時期ですが、これからもたくさんバレエを観に行けると思うと、本当に楽しみです。
ロイヤル・オペラハウス、ポール・ハムリン・ホールで乾杯! 満面の笑顔の渡邉。Instagram/@foxco_kaori

新国立劇場バレエ団ロンドン公演『ジゼル』
振付:ジャン・コラリ/ジュール・ペロー/マリウス・プティパ
演出:吉田都
ステージング・改訂振付:アラスター・マリオット
音楽:アドルフ・アダン
美術・衣裳:ディック・バード
照明:リック・フィッシャー
2025年7月24日(木)〜27日(日)
会場:ロンドン・英国ロイヤル・オペラハウス
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/giselle_london25/
新国立劇場バレエ団『ジゼル』
photography: Kiyonori Hasegawa
photography: Aya Kawauchi text: Tomoko Kato