ネタバレギリギリ!? 二宮和也が「劇場で驚いてもらいたい」と語る映画『8番出口』。

Culture 2025.08.18

第78回カンヌ国際映画祭のミッドナイト・スクリーニング部門でワールドプレミアされた『8番出口』。話題のゲームを原作に、初長編監督作『百花』(2022年)がサン・セバスティアン国際映画祭で最優秀監督賞を受賞した川村元気監督が映画化した話題作である。地下通路で「異変」を見逃さず、正しく進むか戻るかを選びながら「8番出口」から脱出する、一人称視点のウォーキングシミュレーターゲームが原作だ。シンプルかつ深みのある作品としてカンヌでも評価を得た本作。無類のゲーマーとしても知られる主演の二宮和也が、カンヌ国際映画祭の上映終了直後、"ネタバレ"ギリギリでインタビューに応じてくれた。


――『8番出口』は話題となったインディーゲームの実写映画化ですが、もともとゲーム通として知られる二宮さんが主演ということで楽しみにしていました。この企画自体にも関わっているとのことですが、具体的にどの時点からこのプロジェクトに参加されたのですか?

初期の脚本作りから参加しています。ストーリーについてはネタバレになってしまうので書けないと思いますが、少年のシーンなど、ストレートに表現すべきなのか、もっとレイヤーをつけて表現したほうがいいのかなどをたくさん議論しました。

レッドカーペット②【(c)Kazuko Wakayama】.jpeg
ミッドナイト・スクリーニング部門のレッドーカーペットに登壇した『8番出口』出演者とスタッフ。左から脚本・監督補の平瀬謙太朗、小松菜奈、二宮和也、監督・脚本の川村元気。photography: Kazuko Wakayama

――俳優としては、現場では脚本は開かないそうですね?

僕の役柄は「歯医者、エッシャー、司法書士」のような、彼の目に見えていることしかほぼ言わないという設定なので、台本を開かなかったですね。脚本づくりに関わっているから、現場でストーリーを追う必要はない。確認事項のために脚本を開くことはありましたけど。たとえば、"今日は、1周目から3周目を撮ります"となると、どこでカメラが回り込むのかというタイミングを確認したり、"装置"をアジャストするために「じゃあこう変えてもいいですか」とか川村監督に提案したり。

---fadeinpager---

――ゲームに攻略動画はつきものですけれど、『8番出口』という映画の攻略法を挙げていただけますか?

そうですね......。この映画はいかようにも解釈できる話になっているんです。答えはひとつではないという大前提があるのですが、ご覧になった方たちでいろいろ話し合っていただきたいと思いますね。Aはクリアできたと思って見ているかもしれないけど、Bはクリアできていないと思っているかもしれない。でも、その理論がちゃんと通っていれば、どっちも正解なんだというような、不思議な構成になっています。で、失敗したと思ってもう一回観てみたら、"成功していたんじゃないのかな?"って思ったりする。正解がコロコロ変わるのが、この映画のおもしろいところというか、柔軟さだと思います。なので、攻略法とまではいわないですが、「しっかりちゃんと観てもらう」ことは大事だし、楽しんでもらいたいですね。なにせ95分なので、気づいたら終わっちゃう(笑)。

公式上映③【(c)Kazuko Wakayama】.jpeg
上映後にスタンディングオベーションを受けた瞬間。photography: Kazuko Wakayama

――ゲームを原作とする本作は、スリラーとしても新機軸を開拓したように感じました。

こうした作品は、まず最初に設定やルールを説明しないとなかなか物語に入っていけなかったりします。でもその説明自体は、観る側にとってもめんどくさいんですよね。この作品では、そうした説明的なものは冒頭で少し示すだけにして最小限に留めた。説明しないといっても、"勝手に解釈して下さい"って放り出すわけでもなく、割と品よく調節できたことが没入感に繋がっているのかなと思います。ネタバレになるから詳細は言えませんが、いろんな仕掛けがあるのでカンヌの上映でも"ええっ?"という反応がありました。劇場で驚いてもらいたいですよね。

――ちなみに、この作品はジャンルでいえばスリラー映画になると思いますが、ジャンプスケアなどの表現方法はほとんどありません。"怖さ"はどれくらい狙ったのでしょうか?

"怖さ"はあまり狙っていないですね。最初はホラー方面に行くのかなと僕も思っていたんですけど、まず、この原作で遊んでいるユーザーは怖がってないというのがいちばん大きい。怖がってないのを怖くして、怖くないなという感想で終わるのはもったいない。ホラー要素はありますが、全体としてはそれほど怖がらせることを意識していません。
ただ、原作に登場するものだけで映画も構成するとただの"再現VTR"のようなものになってしまうので、映画としては何を出して、何を出さないのかは慎重に考えつつ作っていました。

---fadeinpager---

――たとえば近年人気の韓国のジャンル映画は、怖さや激しさなどインパクトが強い作品が多いですが、本作を観てスリラーとしてのインパクトではなく、もっと感情に訴えてくる優しさや繊細さがあるように再認識しました。"日本らしさ"についてはどう思われますか?

確かに。僕はそれほどいろんな国の映画を観ているわけじゃないから、なんとも言えない部分もありますが。ただ、ゼロから1に行って、その1が2になって3になって5になって⋯⋯という表現は割とどこの国でも見られる表現だと思いますが、進んだものをゼロに戻すという表現はなかなか難しい。日本人は、勝ったから正義で負けたから悪という二元論や単純なサクセスストーリーではなく、ひとつクリアしたところからさらに問いかけをするといった、違った視点で物事を捉えたり、描いたりするのは得意じゃないかなと思います。

――『8番出口』のシノプシスを読んだ時は、1990年代に大ヒットした『キューブ』を思い浮かべたのですが、実際はまったく違うタイプの作品でした。過去作で参考にした作品はありますか?

製作の初期段階では、ストレス系やパニック系などのホラーのタイトルも上がっていたような気もしますが、途中からカテゴライズはしなくていいんじゃないかという話になってきました。どちらかというと、冴えない男がこの通路で学んだものをこれからの人生でどう活かせるのか、というくらいのほうがいいのじゃないか、と。いろんな案があり、不条理な展開も考えたりしたのですが、でも、いちばん血が通っている終わり方になった気がします。最後のシーンとかも「ちょっと、これはどっちなの?」みたいな意見は多分あると思います。

――カンヌの公式上映で本作を観て気になるところがあったと言っていましたが、再編集なども考えているのですか?

カンヌの上映に間に合うようにできる限りのことをやって持ってきたけれど、カンヌでの上映を観ながら、"あそこはこうだ、ここはこうだ"というところがいくつかありました。8月末の公開なのでちょっと時間があるので、ブラッシュアップできるといいなと思います。
でも、カンヌに合わせて全力で仕上げたものを、まず観客の方々と一緒に観る機会を持てたことはとてもよかったと思います。観客のリアクションを直に見られたことは、かけがえのないもの。でも、こうやったら、もうちょっと反応があったんじゃないかなという箇所もいくつかありました。

――そのような話は、川村監督とはされたのですか?

いえ、「(上映が)よかった」という話をしましたが、「川村さん、あそこなんだけどさ」と言うのは、ちょっと野暮だなと思ってまだ話してないです。でも、川村さんも何か思うところはあるんじゃないですかね。
ただ、上映後にあんなに長いスタンディングオベーションをいただいたり、川村さんが一所懸命に考えてきたコメントがウケたりしたことが本当にうれしかった。僕たちが作ったものを理解してくれていたんだなと、いう実感はあったので、スタッフもみんなうれしそうでした。

川村さんはコンペ部門の作品を観に行ったりして、上映の途中で観客が帰っていったりするシビアな状況も目撃したと聞いていました。途中で観客に帰られるって監督にとってすごい怖いじゃないですか。なので僕らもとても緊張していたんです。「少なくとも"歩く男"が登場するまではみんな席を立たないで、お願いします」という気持ちでした。

---fadeinpager---

――二宮さんはクリント・イーストウッド監督の『硫黄島からの手紙』で三大映画祭のベルリン国際映画祭には参加されていますが、カンヌ国際映画祭は初参加ですね。カンヌの印象はいかがですか?

まず、気候が全然違いますからね。ベルリンは2月なのでめちゃくちゃ寒かった。僕は当時ドラマを撮っていたので、ギリギリでベルリンに入ったんですが、飛行機を降りて車で会場に向かって、会場近くの雪が降っている道路脇で寒さに震えながら着替えて、歩いて会場入りした。三大映画祭なのにコレはないだろう?って思った記憶があります。

250605_0N6A3532.jpg
Kazunari Ninomiya/1983年、東京都生まれ。10代の頃から芸能活動を開始、2006年のハリウッド作品『硫黄島からの手紙』で世界的な注目を集める。映画、ドラマ、舞台、バラエティ番組、Youtube配信と幅広く活動している。photography: Kaoru Shimada

――「僕は日本ではアイドルをやっています」という記者会見での言葉が報道されましたが、今回は改めて国際映画祭に参加して感じたことがありますか?

あの発言は、そこだけピックアップされちゃいましたよね。でもなんて言うんだろう、ベルリンでは映画祭のような場は日本だと厳かな感じに捉えられがちですけど、「お祭りなんだ」「こんな風に楽しんでいいんだ」ということを初めて知ったし、このカンヌでもその感覚を思い出しましたね。『硫黄島からの手紙』は歴史に則した戦争がテーマの映画だったので、お祭り騒ぎという感じではなかったですけど、イーストウッド監督をはじめすごいキャリアの方々に混じって、その空気を味わえたことはとてもいい経験でした。今回は(事務所から)独立して、最初の主演作でもあったので、そのような作品でカンヌのような場に来られて、本当に幸運だったと思っています。川村さんを始め、スタッフやさまざまな方々に感謝しています。

(WEB)『8番出口』ポスタービジュアル.jpg

『8番出口』
●監督/川村元気
●出演/二宮和也、河内大和、浅沼成、花瀬琴音、小松菜奈
●2025年、日本映画 ●95分 ●配給/東宝
●8月29日より全国東宝系にて公開
https://exit8-movie.toho.co.jp/

 

text: Atsuko Tatsuta

Share:
  • Twitter
  • Facebook
  • Pinterest
秋メイク
35th特設サイト
パリシティガイド
フィガロワインクラブ
Business with Attitude
BRAND SPECIAL
Ranking
Find More Stories

Magazine

FIGARO Japon

About Us

  • Twitter
  • instagram
  • facebook
  • LINE
  • Youtube
  • Pinterest
  • madameFIGARO
  • Newsweek
  • Pen
  • CONTENT STUDIO
  • 書籍
  • 大人の名古屋
  • CE MEDIA HOUSE

掲載商品の価格は、標準税率10%もしくは軽減税率8%の消費税を含んだ総額です。

COPYRIGHT SOCIETE DU FIGARO COPYRIGHT CE Media House Inc., Ltd. NO REPRODUCTION OR REPUBLICATION WITHOUT WRITTEN PERMISSION.