100年前の女性たちの暮らしやファッションが蘇る、アール・デコ展が大阪で開催。
Culture 2025.09.30
いまから100年も前、アール・デコの時代はどんな世の中だったのだろう。そんな疑問に答えてくれるのが、大阪中之島美術館で開催される『新時代のヴィーナス!アール・デコ100年展』。この時代の女性たちにフォーカスして、当時の暮らしやファッションなどについて幅広く紹介する内容だ。なんといっても見逃せないのは、パリのアーカイブからやってくるブシュロンのヒストリカルピースの数々。1920年代から30年代にかけての貴重な名品が華やかに展示されるのだ。
日本で公演したこともあるダンサー、サカロフ夫妻のポスター。クラシックバレエとは一線を画したモダンなダンスを踊るふたり。ジョルジュ・バルビエ『クロチルド・サカロフとアレクサンドル・サカロフ』(1921年)/サントリーポスターコレクション(大阪中之島美術館寄託)
たとえば『彫刻の入ったエメラルドのブローチ』は、当時ブシュロンが流行を牽引したインド風のゴージャスなジュエリーのひとつ。エメラルドに植物模様を彫刻するのはインドの伝統的なスタイルで、マハラジャも顧客だったブシュロンならではのデザインだ。世界の果てからもたらされるエキゾティックな装飾が熱いブームだったことがわかる。
プラチナやダイヤモンドの白さとエメラルドの色鮮やかさのコントラストが目を引く。左右対称の幾何学的なデザインは、空にそびえる摩天楼のよう。ブシュロン『彫刻の入ったエメラルドのブローチ』(PT×ブラックエナメル×真珠×エメラルド×ダイヤモンド、1930年)/ブシュロン・ヘリテージ・ピーシーズ
アイスクリームのポスターに描かれているのは、アール・デコを象徴するような短髪のレディ。カール・モース『フィルンのアイスクリーム』(1922年)/サントリーポスターコレクション(大阪中之島美術館寄託)
ラピスラズリの両脇に配されているのはフロスト加工を施したロッククリスタル。ブシュロンならではのロッククリスタルのあしらいは、現代のメゾンのハイジュエリーにも通じている。ブシュロン『懐中時計』(PT×ラピスラズリ×ロッククリスタル×ダイヤモンド、1930年)/ブシュロン プライベート コレクション
また『懐中時計』はラピスラズリとロッククリスタル(水晶)をあしらった幾何学的なデザイン。仕事にレジャーにと忙しい毎日を送るようになった当時の人々にとって、精緻な時計は必需品。のんびりした馬車の時代からクルマの時代に移り変わり、生活全般がスピーディになっていったことを象徴している。
最先端の女性たちが楽しんだのは、ゴルフやテニスといったレジャー。ロジェ・ブローデル『温泉地ヴィシー、スポーツ、旅行、劇場(PLM鉄道)』(1928年)/サントリーポスターコレクション(大阪中之島美術館寄託)
ドレスメーカー、ウォルト社の香水のためにルネ・ラリックがデザインしたボトル。 ルネ・ラリック香水瓶『ヴェール・ル・ジュール(夜明け前に)』ウォルト社(1926年)/箱根ラリック美術館
会場にはドレスやクラシックカー、グラフィックデザインなどが展示され、ありし日を生き生きと浮かび上がらせる。古い因習に縛られることなく社会に出て働き、スポーツを楽しみ、最先端のモードで着飾って人生を謳歌した、自由な女性たちのライフスタイル。世界が劇的に変わり、前世紀には考えられなかったようなモダンな生活が広まったのだ。
本展は6章と特別章からなる展示構成で、さまざまな角度からアール・デコの豊かな魅力に迫る。激動の新世紀を懸命に生きた女性たちの姿には、きっと共感できるはずだ。
会期:10/4~2026/1/4
大阪中之島美術館 5階展示室
営)10:00~16:30最終入場
休)月、10/14、11/4、25、12/30~2026/1/1 ※10/13、11/3、24は開館
料)一般¥2,000
06-4301-7285
https://nakka-art.jp/
*「フィガロジャポン」2025年11月号より抜粋
text: Keiko Homma