柴咲コウ×満島ひかり、「ともに生活するように撮影した」映画『兄を持ち運べるサイズに』を語る。

Culture 2025.11.06

『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016年)や『浅田家!』(20年)など、"家族"の姿を描き続けてきた中野量太監督の5年ぶりとなる新作は、作家・村井理子が自らの体験を綴ったエッセイ『兄の終い』(CEメディアハウス 刊)の映画化。ある日突然、警察から兄の死を知らされた主人公の理子は、宮城県多賀城市に向かう。7年ぶりに再会した兄の元嫁・加奈子と娘の満里奈とともに兄を荼毘に付し、兄が息子の良一と暮らしていたアパートを片付けながら、もう一度、家族を想いなおす4日間が始まる----。

オダギリジョー演じる兄の妹で作家の理子を演じる柴咲コウと、兄の元嫁・加奈子役の満島ひかりが、東北の空の下、まるで生活するように撮影した映画『兄を持ち運べるサイズに』について語り合った。

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Ko Shibasaki/東京都生まれ。2025年は映画『でっちあげ〜殺人教師と呼ばれた男』(三池崇史監督)にも出演。「旅するように暮らす」をコンセプトにしたサステナビューティーファッションブランド『MES VACANCES』のディレクションも務める。 Hikari Mitsushima/鹿児島県生まれ、沖縄県出身。2025年は映画『夏の砂の上』(玉田真也監督)、アニメーション映画『ホウセンカ』(声の出演、木下麦監督)など出演作が続いた。2026年公開予定『時には懺悔を』(中島哲也監督)で、再び柴咲と共演予定。70役以上の声を担当するアニメ「アイラブみー」(毎週土曜 Eテレ)が放送中。

柴咲コウ(以下、柴咲) 脚本を読んだ時、クスッと笑えて胸にぐっときて、すぐにこれおもしろいって思いました。中野監督とは初めてのお仕事ですが、この脚本が中野監督によってどう料理されるのかと単純にすごく好奇心を掻き立てられました。

満島ひかり(以下、満島) 私はもうこの世にいないひとりの人を思う時に、人によって思い出す姿が色々で、知らなかった姿をいなくなって初めて知ってゆく脚本にぼろぼろ泣いてしまったんです。みんなで同じ時を過ごしていても、それぞれ違うゴールに向かっている過程が優しく描かれていることにも惹かれて。読み終わって思わず「あ〜いい脚本」って言ったのを覚えています。

柴咲 お兄ちゃん役のオダギリさんとは『メゾン・ド・ヒミコ』(2005年、犬童一心監督)以来で、私もともと普段からシャイだから、繋ぎのシーンとかも顔を見て話したりできないんです。でも撮影が終わってお酒が入ったりした時は、いろいろ話してくれてすごく楽しかったです。

満島 夏に公開した『夏の砂の上』ではオダギリさんの妹役で初共演でした。今作は元妻の役。現場でのオダギリさんは日常と地続きに過ごしている感じでユーモアもあって、オダギリさんがいるならどうにかなるだろうと安心しきっちゃいます。柔らかい、不思議な人ですよね(笑)。

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たまにメールで連絡が来る時は常に金の無心......。そんな一見どうしようもない兄(オダギリジョー)が、ある日突然死んでしまったら。

柴咲 お芝居で目を合わせたときの包容力が凄くて、自然と妹の理子になってしまう。もしくは理子に近い経験が私の中から引っ張り出されるというか。憎たらしいけれど、やっぱり心の奥では愛したい、愛されたいというような家族に対する思いがぶわっと出てきて、オダギリさんの受けの芝居の力なんだろうなぁ。だからスーパーのシーンも、アパートで対峙するシーンも、気持ちが止められないぐらいがあふれちゃいました。

満島 オダギリさん、呼吸するようにお芝居してますよね。映画が好きなんだなぁって見ていて幸せになります。理子ちゃんとお兄ちゃんとの場面、本当の兄妹のようで苦しくも愛おしかった。

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翻訳家・作家として活動する理子(柴咲)は、突如逝去した兄の遺体を引き取りに宮城県多賀城市に向かう。兄とは母の葬儀以来、わだかまりが解けない関係性だった。

柴咲 理子と加奈子ちゃんの関係は義理の姉妹だけど、離婚しているから他人なんだよね。遺品整理をしたり、家の中を片付け終わったら、それではさようなら、もう会うこともないでしょうとなってもおかしくない。だけど兄の死が繋いだ縁というか、お互い兄に対する愛情、愛着が根っこにある。兄の死によって久しぶりに再会して、東北の町で4日間一緒の時間を持って近づいたからこそ、それまで一定の距離があって聞かずにいたことをぶつけてみる。もう見逃せないっていう理子の真面目さもあり、喧嘩もできて、さらに近づいちゃったねって。

満島 うん。冷たい顔もし合うし、まさに他人なんですよね。でも理子の兄、加奈子の元旦那という同一人物が「人生の爆弾」という共通点がありながら、その爆弾によってどんなものを抱えているかはお互いはわからなくて。元夫と暮らしていた良一のことにしても、言われたくないことだけど言ってほしかった部分、叱られたかったけど叱ってもらえなかった部分があって。一緒に旅をしながら一生懸命理解しようとする。その変な関係がおもしろかったですね。

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シャツ ¥47,300/ニアーニッポン(ニアー)、カーディガン ¥69,300、パンツ¥55,000/チノ(モールド)、ピアス ¥95,700、リング(左手人差し指)¥117,700/シャルロット シェネ(エドストローム オフィス)
 

柴咲 この作品においては、リアルに風を感じる、体感する、普段の自分を感じるということが重要だった気がしています。お弁当を作って現場行く、ちゃんと寝る、明日の支度して。理子という性格や作品に寄り添う意味でも、そういった日常が大切だった気がします。

満島 その日の天気や風を感じながら、現場に柴咲さんが佇んでいる。目の前に理子ちゃんがいて、理子ちゃんが海を見ながら陽一と話してる姿が「綺麗だね、愛って感じだね」って言いながら娘の満里奈(青山姫乃)と見てました。満里奈のたくさんのことを感じている気持ちも伝わってきて、そういういい時間が撮影中にいくつもあった。

柴咲 そんなことあったんだ(笑)。

満島 過去も未来もいまも人も自然も、みんなが繊細に繋がってる感じがとても好きでした。

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柴咲 今回、いつも以上に感じたのがロケーションの力。多賀城市ではない別の場所を舞台とすることもできるけれど、学校がここにあって、ドローンを飛ばして実景を見せて、中野監督は実際に"兄"が暮らしていた現地でやりたいとこだわって。おかげで何か、その土地の奥深さみたいなものが映し出されるような気がしています。私も宮城に行って呼吸してお芝居をすることによって、お会いしたことのない「リアル兄ちゃん」がそこで生活していたということを感じることができました。私は役を演じる使命があって宮城に行ったのですが、リアルな生活をしながら撮影している自分自身と理子ちゃんが混ざり合って役を作れたかなと思います。

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シャツ¥134,200/マリーアダム リーナルト(アデライデ) ユーズドデニムショーツ¥16,500/ステップアヘッド原宿2号店 チョーカー¥214,500、ブレスレット¥85,800、リング¥52,800、ピアス¥37,400/以上サピアババール(フィルグショールーム)

満島 私はみんなより時間があったので町を散歩したり、電車で仙台の方に行っておすすめの牛タンを食べに行ったりしました。震災から10年が経って、復興していないところもまだあるけど町全体が優しく大きく立ち上がっているようなエネルギーを感じて、それが想像以上でびっくりしたのを覚えています。何というか、活力にあふれていて。津波の水位がここまで来たんだよって教えてもらったり、未来に繋がる話もたくさん聞くことができて、宮城県かっこいいなぁって。

柴咲 お兄ちゃんも街の復興と一緒に復活したかったよねって、理子的には切ない気持ちにもなったりもして。

満島 撮影しながら作品の家族も、自分の家族のことも考えて。現場でもスタッフがそれぞれに家族のことを話していたり、思っていたり。直接話さなくても伝わってくるものもいくつもあって。映画を観た方の感想も、とても楽しみです。

柴咲 完成した映画を見たら、芝居であって芝居でないみたいな全体像がすごく好きで。自分の演技など気にしないで、ここ最近でいちばん客観的に観られた映画で不思議でした。観客の方々にも日常の延長のような気分でこの家族を味わってもらいたいなと思います。

『兄を持ち運べるサイズに』
●監督・脚本/中野量太
●原作/『兄の終い』(村井理子 CEメディアハウス 刊)
●出演/柴咲コウ、オダギリジョー、満島ひかりほか
●2025年、日本映画 ●127分
●配給/カルチュア・パブリッシャーズ
11月28日(金)より全国にて公開
https://www.culture-pub.jp/ani-movie/
問い合わせ先:
柴咲コウ
ニアー 0422-72-2279
モールド 03-6805-1449
エドストローム オフィス 03-6427-5901

満島ひかり
アデライデ 03-5474-0157
ステップアヘッド原宿2号店 03-6427-5150
フィルグショールーム 03-5357-8771

 

text: Reiko Kubo,photographer: Yayoi Arimoto, Styling: Kei Shibata(Shibasaki),KAZURO SANBON(Shirayama Office,Mitsushima) hair&make: SHIGE(AVGVST,Shibasaki) make: michiru(Mitsushima),hair: Toshihiko Shingu(VRAI Inc,Mitsushima)

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