ディオールが注力する、若手フォトグラファー支援のカタチ。

Culture 2025.10.23

写真の未来を見つめるディオールによるフォトアワードが、今年もアルルにて開催された。審査委員長に写真家の高木由利子を迎え、若き才能を導く。


ディオールが写真や映像分野で活躍する若き才能を発掘する『ディオール ヤング フォトグラフィー&ビジュアル アーツ アワード』。世界中の写真学校に在籍する学生たちから作品を募り、フランス・アルルにて、アルル国際写真フェスティバルの期間に合わせてファイナリストたちの作品展示と授賞式を開催している。8回目となった今年は写真家・高木由利子を審査委員長に迎え、最優秀賞にジョエル・クエイソンの映像作品が選出された。

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10人のファイナリストが召喚された表彰式。審査委員長の高木由利子や南アフリカ出身の写真家レボハン・クガニエなど、審査員たちも集合した。

アーティストとのコラボレーションやコレクションなど、ディオールは積極的なアートへの取り組みを進めてきた。ムッシュ ディオールがクチュリエとして脚光を浴びる前はギャラリストだったということからも、メゾンのDNAに深いアート愛が刻まれていることがうかがえる。芸術としての写真への造詣が深く、オートクチュールの撮影を手がけた高木由利子をはじめ、写真家たちとも密な関係を築いてきた。そして写真の未来を見つめ、若い世代に新たな機会を与え、彼らの歩みを導いていきたいとプロジェクトを始動。2018年、パルファン・クリスチャン・ディオールと文化複合施設リュマ・アルル、アルル国立写真高等専門学校のパートナーシップによって、このアワードが創設された。

今回、最優秀賞を受賞したジョエルはガーナにルーツを持つオランダ生まれの28歳。4分28秒の映像作品『How do you feel?』には、彼自身が登場している。胸元を開いた服に大ぶりのジュエリーを纏い、ビジューが煌めくメイクを施しながら、「How do you feel?」と、自らに問いかけていく。クィアである面を主張する一方、クリーンな白シャツに着替えて、家族や文化、宗教に適応しようとする姿も描き出している。「自分の中にあるふたつのアイデンティティの間で、常に葛藤しているんです」と、ジョエルは語る。

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ジョエル・クエイソン Joel Quayson
ビジュアルアーティスト・写真家。1997年、オランダ生まれ。ガーナ出身の家庭に育つ。2023年からハーグ王立芸術アカデミーに在学し、アイデンティティとセクシュアリティに重点を置いた作品を創作。リュブリャナのクィア人口に関するドキュメンタリー映画も発表予定。写真は自身を撮影した受賞映像『How do you feel?』より。

「友人からは社交的で開放的な人物だと思われているけれど、家族からはきちんとした息子として認めてもらわなければならない。この作品は、そんなふたつの世界で揺れ動きながら、自分を探る試みです。自身のアイデンティティを模索している人たちに共鳴してほしいという思いも込めています」

自分とは何者なのかという根源的な問いに向き合い、まっすぐシンプルに表現。みずみずしい感性と真摯な姿勢によって、強いメッセージ性を放つ作品に昇華している。今回の受賞については、「自分が本当にやりたいことに向かって進んでいい。そんな証明をしてくれるものになりました」と微笑む。「家族には、写真家になりたいと伝えることが難しいと感じていました。両親は、私が安定した仕事に就くことを望んでいます。でも、写真の世界こそ自分の居場所だと感じられました」

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本アワードが毎年掲げているのは「フェイス・トゥ・フェイス」というテーマだ。ジョエルのように、自分のアイデンティティについて掘り下げた作品が多かったと高木は言う。

「想像していたよりも、アイデンティティについて悩んでいる若い世代が多いことに気付きました。そして、その悩みをアートの道で探っていこうとする、彼らの生き方に感銘を受けました。アイデンティティとひと言でいっても、セクシュアル、家族、社会性、国籍など、すべてが含まれています。そういった問題を自分の中に秘めているだけではなく、アートという形として外に出そうとするのは素晴らしいことです。こういった若い世代の視点から刺激を受けました」

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スイスのアリーヌ・サヴィオの作品は、出会いからデートまで異星人たちのラブストーリーを作り出した6連のフィルム写真。

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ブラジルのダニーロ・ゾカテッリ・チェスコは、サッカー場や動物の屠殺所など、男性像のイメージが強い場所でトランスジェンダーに扮した父親の姿を切り取る。

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日本から選ばれた中川ももは、写真を細かく切り刻み、鮮やかな縞模様で描き出した抽象的な作品で、自己生成する存在として捉えられたイメージを描き出す。

ドラァグクイーン風メイクとウィッグを用いてトランスジェンダーとしての自分を父親に投影させたブラジルのダニーロ・ゾカテッリ・チェスコのように、自分のアイデンティティを他者に担わせることで自身を見つめ直すという試みも目を惹く。高木は、「情報過多であるいまの世の中、若い世代は、自分のことを主観的にも客観的にも見ることができるんです。だから、彼らのものづくりには主観と客観が共存しています。新しいし、おもしろいことだと感じましたね」と言う。

若い世代は、いまの思いを写真という媒体を通して消化しようとしている。しかし、そういった姿勢によって、作品がコンセプチュアルに寄ってきているという風潮もある。

「写真とは、ものをつくること。コンセプトやステイトメントではなく、シャッターを押すという行為が楽しいんです。フィジカルなものだと思うんですね。いまは情報が多いため考えすぎてコンセプチュアルになり、直感と肉体を使ってものを作るということが減ってきています。カメラはデジタル化しているけれど、本来プリミティブなもの。若い世代にはそんな原点にも立ち戻ってみてほしいと思っています」

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ファイナリストの作品はリュマ・アルルにて10月5日で展示終了。さらに2026年初頭にパリのヨーロッパ写真美術館にて展示予定だ。

審査員と若い世代が互いにインスピレーションを得ながら、写真というものを見つめ直す。このアワードが、写真の未来についてともに考える場を生み出しているとも言えるだろう。ディオールは若手写真家を支援するだけではなく、彼らの未来への旅路に並走している。

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高木由利子 Yuriko Takagi
写真家。東京都生まれ。武蔵美術大学にてグラフィックデザイン、イギリスのノッティンガム・トレント大学にてファッションデザインを学ぶ。デザイナーとしてヨーロッパで活躍した後、写真家へ転身。衣服や人体を通して、人の存在を撮り続ける。

『Dior Photography and Visual Arts Award for Young Talents 2025』
https://prix-dior.luma.org/

*「フィガロジャポン」2025年11月号より抜粋

●1ユーロ=約174円(2025年10月現在)

photography: Pierre Mouton for Christian Dior Parfums  editing: Momoko Suzuki

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