コンテンポラリーダンスの最前線、リヨンビエンナーレでわかること。

Culture 2026.01.03

フランス第二の都市、リヨンがコンテンポラリーダンスの街であることをご存じだろうか? 1980年にフランスで初のダンス専門劇場「メゾン・ドゥ・ラ・ダンス」がリヨン市のサポートで設立され、84年にはメゾン・ドゥ・ラ・ダンスとほかの劇場が連携した国際フェスティバル「リヨン・ダンスビエンナーレ」が始まった。第21回を迎える2025年も国内外からダンスのアーティスト、関係者、ファンを集め、会期中に約24万人を動員した。そこで見たダンスの最前線を紹介する。


ダンスのいまと未来がわかる2作。

9月6日から28日までの約3週間に14カ国のアーティストが40作品を発表し、うち15作品が世界初演。若手を特集した関係者向けのショーケースもあり、ビエンナーレはダンスの現在と未来を一望する機会になっている。

話題を呼んだのは、日本でも『不確かなロマンス』(2017)や舞踏の麿赤兒と共演した『ゴールド・シャワー』(2020)を上演したフランソワ・シェニョーの『Último Helecho』。スペイン語圏の芸術を研究するニナ・レネと協働したダンス・歌・器楽・美術を統合する全体芸術の試みであり、アルゼンチンの歌手ナディア・ラルチェルを迎えて、驚くべきビジュアルと美しい声、ムーヴメントの融合が、地底に眠る神秘的な鉱物界の旅に観客を誘った。

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© Nina Laisné HD

ポルトガルの新鋭、マルコ・ダ・シウヴァ・フェレイラ振付『F * cking Future』も観客の熱い支持を集めた。2024年、25年に日本でも上演された『カルカサ』がヒット中のフェレイラだが、この新作は国家による個人の身体への抑圧と解放の戦いがテーマ。兵士を思わせる鍛え抜かれたダンサーたちの静かな動きから始まり、やがて彼らはダンスを通して関係を紡ぎ、歌い、ステージを出て権力に対する戦いをダンスフロアの外へ広げていく。プロジェクトありきでダンサーを集める作品が多いなか、フェレイラは『カルカサ』にも出演した多様なルーツのダンサーを起用し、時間をかけて個の連帯と社会の不公正に抗う意思を共有し、ダンスで綴る。彼らのシンプルで人間的なメッセージが、観客の胸を打つのだ。

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©BlandineSoulage

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トレンドは身体の強度と儚さを見る作品。

ベルギーのヤン・マルテンスの新作『DOGS DAYS ARE OVER 2.0』では、何もない舞台でスポーツウエアの8人の男女が正面を向き、小さなジャンプを延々と続ける。あるタイミングでフォーメーションやポーズが変わるが、約70分間ひたすら運動は続く。この恐るべき振付の発想源は、各界著名人のジャンプの瞬間を収めたフィリップ・ハウスマンの写真集『JUMP BOOK』(1959)だという。ジャンプする人の無防備さに注目したマルテンスは、この単純な行為の連続でダンサーの人間性をあらわにする振付を構想した。自己を曝け出し、体力の限界まで進むダンサーたちが人間の強さも脆さも体現する、究極にリアルなダンスだ。

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©Stefanie Nash 90

また別のミニマリズムを採用し、日々の生活に束の間現れる美を振り付けたのが、クリスチャン・リゾーの新作『膨大なディティールの陰に、嵐の外に』。モノトーンの衣裳と舞台は装飾を極限まで排除してダンサーの動きを際立て、ふとしたきっかけから湧き上がる感情が動きに変わり、ひとりが他者と共鳴し、次々現れるかたちが純粋な景色となって空間を満たす。研ぎ澄まされた動きと音、背景に投影される短いフレーズが響き合う、円熟した振付家による詩のようなダンスだ。

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®MarcDomage

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注目は、ブラジル産のダンス。

ビエンナーレはフランスにおけるブラジル年事業と提携し、同国を代表するリナ・ロドリゲスから若手まで複数の振付家の作品を上演した。そのなかでもダヴィ・ポンテス&ワランス・フェレイラの『Repertorio N.2』は、現在ヨーロッパで話題の作品。施設内に客席を設置したオープンスペースに、彫刻のように鍛え上げられた身体を持つふたりの男性が全裸で登場する。ふたりは観客の目前に並び、前方の足を前のめりに踏み出す四拍子の力強いステップをしばらく繰り返すと、動きを止めて観客を凝視。このシークエンスが、場所を変えて続く。普段は客席という安全圏からパフォーマンスを「見る・消費する」観客は、一矢纏わぬダンサーの挑発的な視線と出会い、自らの視線の意味を問い直す。

ビエンナーレのディレクター、ティアゴ・ゲデスとは?

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©BlandineSoulage

ビエンナーレのディレクションを担ったのは、2022年からメゾン・ドゥ・ラ・ダンスの芸術監督でもあるティアゴ・ゲデス。今回初めて全企画に携わり、ブラジル、オーストラリア、台湾、アメリカのキュレーターと協働して、ダンスをポストコロニアル的文脈において再考する新企画「フォーラム」を導入した。各地の先住民族の舞踊のデモンストレーション、トーク、キュレーターとの対話を通した立体的なプログラムを5日間にわたって展開し、一括りに語ることの困難なテーマを複合的に検討する誠実さが印象的だった。ボルトガル出身で振付家だったゲデスは意欲的な新機軸の一方、上演ブログラムにはフィリップ・ドゥクフレ、ウィリアム・フォーサイスといったコンテンポラリーダンスのレジェンド振付家の世界初演を入れ、巧みにバランスをとった。この過去と未来の対話が、40年以上続くビエンナーレのダイナミズムを増していた。

text: Sae Okami

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