【追悼】クラウディア・カルディナーレが見せた「女優の強さ」......華麗なる美しさを振り返る。
Celebrity 2025.09.26
クラウディア・カルディナーレはヴィスコンティ作品への出演などで知られ、アラン・ドロン、マルチェロ・マストロヤンニといった大スターたちと共演した偉大な女優だ。彼女の実体験は、演じた役柄に負けないほど壮絶なものだった。
ヴィスコンティとフェリーニを魅了し、アラン・ドロン、ジャン=ポール・ベルモンド、マルチェロ・マストロヤンニを虜にしたイタリア映画界の美しき女優、クラウディア・カルディナーレは、87歳で死去した。名作『山猫』、『8 1/2』をはじめとする150本以上の映画で、太陽のような存在感を放った。photography: Getty Images
クラウディア・カルディナーレは偉大な女優であると同時に、当時の各国の女優のなかでも群を抜く美しさで知られた。同じ時期に活躍した女優にソフィア・ローレンがおり、イタリア、フランス、アメリカの映画界で活躍したことも共通している。だがソフィア・ローレンが同じ相手とずっと結婚生活を送り、プラトニックな関係の男友だちしかいなかったのに対し、クラウディア・カルディナーレの恋愛は不幸とすら言えるような形で始まった。ある男性から暴力というより性的暴行を受け、20歳で子どもを出産する羽目に陥ったのだ。彼女のプロデューサーは、産んだ子どもを弟だと偽るように彼女に指示した。1950年代当時、若い女優に子どもがいることはデメリットでしかなかったのである。このプロデューサー、フランコ・クリスタルディは子どもの父親が連絡を取りたがってもそれをかたくなに拒み、クラウディアとつきあい始めるとなかば強引に結婚した。
その後、クラウディアはアメリカの大スター、ロック・ハドソンと恋愛の噂が立ったこともあるが、それは彼が同性愛者であることを隠すためのふりであったことを彼女は後日語っている。唯一愛したと言われる男性との結婚は1974年のこと。イタリアの映画監督のパスクァーレ・スキティエリと結婚して彼女の生活はようやく落ち着いた。パスクァーレ・スキティエリはふたりの間に生まれた娘を「クラウディア」と名付けたぐらい妻を熱愛していた。クラウディアは「アナイス」と名付けたかったそうだが......。
数々の名優と共演
映画の現場での彼女はどうだったのだろうか。クラウディア・カルディナーレは多くのスターと共演する機会に恵まれた。イタリア映画界に次いでフランス映画界へ進出、1962年に『大盗賊』でジャン=ポール・ベルモンドと共演する。『勝手にしやがれ』のスター、ベルモンドとは短い恋をしたと言われているが、真相はどうなのだろう。俳優が仲良くしていた共演女優のひとりに過ぎなかったのではなかろうか。イタリアで彼女の人気が高まってスター女優となったのは、マウロ・ボロニーニ監督の映画に次々と出演してからだ。役どころは決まって強くて自立した女性だった。現場のひとつで彼女が出会ったのが、マルチェロ・マストロヤンニだった。彼はクラウディアに夢中になり、ふたりが恋に落ちてもおかしくない状況だったが、彼女は冷淡だった。俳優の元婚約者の数の多さにへきえきしたのだろうか。いずれにせよ魅力たっぷり迫ってくる俳優をクラウディアは用心し、どんな言葉をささやかれても動じなかった。後年、マストロヤンニは当時真剣だったと告白するがもう遅い。やがてマストロヤンニはカトリーヌ・ドヌーヴと結婚する。マストロヤンニとクラウディアがフランスのテレビ番組に出演した折のことだ。マストロヤンニはクラウディアに当時、どれだけ愛していたかをとうとうと語り、クラウディアとカトリーヌ・ドヌーヴを唖然とさせた。彼女たちがどんな心境だったかは想像に難くない。
クラウディアの当たり役は、男性顔負けの強さを持つ女性の役だ。とりわけルキノ・ヴィスコンティの作品で秀逸な演技を見せた。ちなみにヴィスコンティの映画はいま見ても新鮮で半ば哲学的な世界観を感じさせる。そうした意味で20世紀最高の映画監督のひとりと言えよう。名作『若者のすべて』や『山猫』もだが、クラウディアの演技、美しさ、存在感が際立ち、彼女の最高傑作の名に相応しい作品に『熊座の淡き星影』がある。あまり知られていないこの作品でクラウディアは悩める女性のサンドラ役を演じている。少女の頃に暮らしていた場所を訪れたサンドラは、アウシュヴィッツで亡くなった父の思い出に囚われ、妻に執着するアメリカ人の夫や、姉に許されない想いを抱く弟に悩まされる。悲劇的なこのストーリーには、その後20世紀を通じて映画や文学で取り上げられることになる重い主題が含まれている。クラウディアが演じた役に、女優自らが歩んできた不幸な人生が重なる。悲劇すれすれの人生を歩んできたクラウディアは、自分が味わった不幸な境遇に人生そのものが深く影響されてきたのだ。
それでもクラウディアは隠しきれない魅力と優雅さを失わず、実力派女優として150本もの映画に出演し、ヴェネツィア国際映画祭をはじめ数々の賞を得た。再婚生活が安定していたおかげもあり、堅実な女優のイメージが強いかもしれないが、映画ファンはアラン・ドロンとの仲を噂することを好む。クラウディア・カルディナーレは美しさの点でもキャリアの点でも、アラン・ドロンに引けを取らなかった。彼女が演じたのは逆境に毅然と立ち向かい、苦悩しながらも機敏に前進し、嫌な男性のことなど頭から追い払い、堂々と胸を張るヨーロッパの女性だ。その女性像はヴィスコンティ作品をはじめとする彼女の出演作に共通しており、とりわけ彼女の代表作、『鞄を持った女』では、怒りや絶望を激しくも叶わぬ愛に変える女性を演じた。
女優クラウディア・カルディナーレの映像記録
1960年代のフランスやイタリアの映画界を代表する女優、クラウディア・カルディナーレは、9月23日火曜日、パリ近郊ネムールの自宅で「子どもたちに囲まれながら」87歳で死去した。
































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text: Joseph Ghosn (madame.lefigaro.fr)