中年男の"ポジティブな覚悟"を描いた秀作2本。

Culture 2017.03.01

実在の“世界一スタイリッシュなホームレス”を追う記録映画『ホームレス ニューヨークと寝た男』、トム・ハンクスがエリートコースから転げ落ちた父親を演じる『王様のためのホログラム』。危機的な状況に陥った、両極端のアメリカ人中年男を描いた2作品に注目。

170301-CINEMA-01.jpg

『ホームレス』の実在の美男写真家は老朽ビルの屋上をねぐらにし、ニューヨークの華やぎをメランコリックに体現。52歳にして日陰者の身に半ば幻滅しつつ、社交家の伊達男を調子よく素敵に自己演出してみせる。

他方、『王様のためのホログラム』の父親アランは深刻な自信喪失に陥る。大手自転車メーカー執行役員として生産拠点の海外移転というコストカットに踏み切るも、技術模倣に長けた中国企業の台頭を招いてクビに。国内産業を空洞化させた責めも負う。どん底男が転職し、異文化に揉まれ、どうにか父として娘に面目を保つ。哀愁あふれる奮闘ぶり!

砂漠の狼狩りのシーンが印象深く、開拓精神を担う狩りが父性神話と結合するアメリカの父の物語、その血脈をトム・ハンクス演じる父の回復物語は汲む。対する『ホームレス』のお調子者は、家族からも父性神話からも決定的に切れている。宿無しという自由の刑を受けた、一代かぎりの自由人の光芒。アメリカの中年男が危機的な無力感にさいなまれて身を躍らせ、生を肯定する両極の歩み方だ。

文/後藤岳史(フリーライター)

170301-CINEMA-02.jpg

『ホームレス ニューヨークと寝た男』

マークは高い家賃を諦め、ニューヨークに露営するホームレス。ファッション写真と映画のエキストラ出演で日銭を稼ぎ、コインロッカーを衣装箱にして洒落男で鳴らす。ユーモアもある。アメリカの夢の淡い翳りを軽快に映す記録映画の好編。

監督/トーマス・ヴィルテンゾーン
出演/マーク・レイ
2014年、オーストリア・アメリカ映画 83分
配給/ミモザフィルムズ
ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国にて公開中

170301-CINEMA-03.jpg

170301-CINEMA-04.jpg

『王様のための ホログラム』

エリートコースから転げ落ちたアランは、妻と離婚。IT企業に拾われ、3Dホログラムの商談をアラブの王様に持ちかけるべく砂漠都市へ飛ぶ。異文化ギャップのコメディを絡めた逆転成功物語と見せかけ、ドラマは意外な方向へ。

監督・脚本/トム・ティクヴァ
出演/トム・ハンクス、アレクサンダー・ブラック、サリタ・チョウドリー
2016年、アメリカ映画 98分
配給/ポニーキャニオン
TOHOシネマズ シャンテほか全国にて公開中

*『フィガロジャポン』2017年3月号より抜粋

Share:
  • Twitter
  • Facebook
  • Pinterest

フィガロワインクラブ
Business with Attitude
キーワード別、2024年春夏ストリートスナップまとめ。
連載-パリジェンヌファイル

BRAND SPECIAL

Ranking

Find More Stories