立田敦子のヴェネツィア国際映画祭レポート2016 #03 女優で観る、今年の注目映画。
Culture 2016.09.12
男優に比べると女優の主演作が断然少ないという映画界の状況は、ドラスティックに変わったワケではないのだけれど、女性が主人公の映画を積極的にピックアップしようという意図は、カンヌに続き、このヴェネツィア映画祭でもあるように思います。
ということで、女優が光っている作品をピックアップ。
まずは、エイミー・アダムス。
キュートな顔立ちですが、アカデミー賞にノミネートされた『ザ・マスター』(12年)や『アメリカン・ハッスル』(13年)あたりの作品を見てもわかるように、女優魂のあるタフな演技派です。今年のヴェネツィアのコンペでは、ドゥニ・ヴィルヌーヴのSF『メッセージ』(原題:Arrival)とトム・フォードのミステリー『Nocturnal Animals』(原題)の2本に主演するという活躍ぶり。
新世代の“未知との遭遇”ともいえる『メッセージ』では、謎の知的生命体とコミュニケーションのできる言語学者、『Nocturnal Animals』では、20年前に別れた作家の夫から送られてきたミステリー小説の原稿を読んで、人生観を揺るがされるギャラリーオーナーを演じています。キャラクターもルックスもまったく違う2役を演じていますが、どちらも作品、演技とも評価が高く、このヴェネツィアを起点に始まる映画界の賞レースに絡んでくる可能性が大です。
*次のページでは、2作品の主演作でヴェネツィア入りしたナタリー・ポートマンと、そのうちの1作で競演したリリー=ローズ・デップにフォーカス!
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同様に、2作品の主演作でヴェネツィア入りしたのが、ナタリー・ポートマン。第2子妊娠のニュースが流れるなか、ふっくらした身体をゆったりめのドレスに身を包んでレッドカーペットを歩く姿が印象的でした。
コンペにエントリーされていた『Jackie』(原題)は、1963年に当時の米国大統領ジョン・F・ケネディが暗殺された当時の妻ジャクリーン・ケネディの数日間を追ったもの。ファーストレディとプライベートの顔の対比にフォーカスしていて、それを見事に演じ分けたナタリーの演技が絶賛されています。こちらも早くもアカデミー賞候補の呼び声高し。
もう1本は、特別スクリーニングとして上映された『Planetarium』(原題)。1930年代のフランスを舞台にした、霊感があるアメリカ人姉妹を主人公とした話で、妹役をジョニー・デップとヴァネッサ・パラディの娘、リリー=ローズ・デップが演じています。インタビュー時もふたりはとても仲よく、気が合う感じでした。映画界でも飛び抜けて美形のふたりが姉妹を演じるなんて、その組み合わせだけでも観たいと思う人は多いんじゃないでしょうか。
監督は、レア・セドゥ主演の『美しい棘』(10年)のレベッカ・ズロトヴスキ。レベッカに言わせると、リリー=ローズは、「10年前のレア・セドゥのような輝き!」とのこと。
リリー=ローズといえば、シャネルの新フレグランス「シャネル N°5 ロー」のミューズに抜擢され、先日、ティーザーフィルムが公開されたばかり。17歳にしてファッショニスタとしてもすでに大物ぶりを発揮しています。ちなみに、母ヴァネッサも、90年代にシャネルのフレグランス「COCO」のミューズに選ばれ、現在もシャネルのアンバサダーを務めています。母娘揃っての登場なんてことも、近い将来あるかもしれませんね。
*次のページでは、主演女優賞を受賞したエマ・ストーンと、今年のアカデミー賞助演女優賞にノミネートされたアリシア・ヴィキャンデルを紹介!
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映画賞レースに食い込んできそうといえば、オープニング作品として上映された『La La Land』(原題)。このレポートの第1回でも書いたように、『セッション』のヒットでハリウッドで最も期待される監督のひとりとなったデミアン・チャゼルのこのラブストーリーで、ヒロインを演じたエマ・ストーンも、今回は歌って踊って、素晴らしいパフォーマンスを披露しています。受賞結果が発表となり、エマは主演女優賞を受賞しました!
『リリーのすべて』で今年のアカデミー賞助演女優賞にノミネートされたアリシア・ヴィキャンデルは、現在のパートナーであるマイケル・ファスベンダーと夫婦役を演じた『The Light Between Oceans』(原題)でマイケルとともに記者会見&レッドカーペットに登場しました。
アリシア・ヴィキャンデルとマイケル・ファスベンダー。 photo: ASAC
流産、死産が続き、子どもに恵まれなかった夫婦が、漂流ボートの中に男の遺体と赤ちゃんを発見。自分たちの子どもとして育てるが、実の家族が見つかる……というかなり物議をかもしそうな物語。精神的にハードな演技を要求される役だけに、アリシアの演技が評価されています。
*次のページでは、鬼才女性監督の作品に主演したスキ・ウォーターハウスを紹介!
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新進スターの中で注目なのは、鬼才女性監督として期待されるアナ・リリー・アミールポアーの『The Bad Batch』(原題)に主演したスキ・ウォーターハウス。英国出身のトップモデル24歳。2012年ごろより女優業を開始し、今回が初主演です。余談ですが、ブラッドリー・クーパーの元カノでもあります。
アミールポアーは、『ザ・ヴァンパイア~残酷な牙を持つ少女~』(2013年)で注目された新進監督で、これが2作目。ワイルドな描写が得意な監督で、この『The Bad Batch』も近未来、テキサスの砂漠にいる人喰いコミュニティに囚われた女の子(スキ)が主人公です。最初の設定こそグロテスクですが、基本はファンタジックなラブストーリーです。キアヌ・リーヴス、ジム・キャリー、ディエゴ・ルナなどスターも脇役で登場しますが、そんな中、堂々とヒロインを演じきったスキ。今後の成長が楽しみです。
*次のページでは、ベテランのモニカ・ベルッチと、注目を集めるフィリピンの監督ラヴ・ディアスの作品に主演したチャロ・サントス=コンシオをフィーチャー!
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ベテランとしては、モニカ・ベルッチ。『007 スペクター』(2015年)で初の50歳代のボンドガールとして注目されましたが、コンペで上映された『On the Milky Road』(英題)は、監督兼主演のエミール・クストリッツァとのラブストーリー。滝に落ちたり、井戸に潜ったり、木に登ったりと、ヒロインながら肉体的にもハードな役を見事こなしています。インタビュー時には、「大変な方が退屈しなくていい」とのお言葉。
最後は、フィリピンの鬼才ラヴ・ディアス『The Woman Who Left』(英題)に主演したチャロ・サントス=コンシオ。
トルストイの『コーカサスの虜』にインスパイアされた、1997年の“誘拐都市”といわれたフィリピンを舞台にした物語。3時間46分の大作を引っぱるサントス=コンシオは、女優業を引退し、大手メディア会社の役員をしていたところ、ディアス監督の依頼によって、スクリーンに復帰したとのこと。
いずれも最優秀女優賞に匹敵する熱演です。
>>#02 満島ひかりがヴェネツィア映画祭デビュー!
>>#04 ヴェネツィア映画祭はコンペ以外も話題作がたくさん!
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texte: ATSUKO TATSUTA