立田敦子のヴェネツィア国際映画祭レポート2016 #05 金獅子賞はフィリピンの"怪物"監督の作品に!
Culture 2016.09.14
ヴェネツィア国際映画祭最終日の9月10日、19時からのクロージングセレモニーの中で、今年の受賞作の発表が行われました!
金獅子賞(最高作品賞)は、このレポートの第3回でも紹介した、フィリピンの“怪物”ラヴ・ディアス監督の『The Woman Who Left』(英題)に!
無実の罪を着せられた女性の苦難に満ちた人生をモノクロ、3時間46分で描き出した大作です。4時間近いというと長く感じられるかもしれませんが、そのゆったりとした時間の流れは、むしろ観ていると長さを感じさせません。
この監督は、2015年のベルリン国際映画祭でも約8時間の作品を発表しています。つまり、彼のリズムというか、長めの尺を得意とする監督なのですね。
上映時間の長い作品は、日本では劇場公開しにくいという現実がありますが、この受賞を機にぜひ日本公開して欲しいものです。
*次のページでは、銀獅子賞を紹介!
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銀獅子賞(審査員グランプリ)は、『Nocturnal Animals』(原題)!こちらも第3回でちらっと紹介しましたが、ファッションデザイナー、トム・フォードの監督第2弾です。
前作『シングルマン』も感情表現の繊細さなど非凡なものを感じさせる、とても好きな作品でしたが、今回は、演出力の高さを感じさせるパワフルな作品です。ラヴ・ディアスが登場するまでは、今年のコンペで最も好きな作品でした。
主人公の女性が、小説家の元夫から送られてきたミステリー小説を読み、その小説の進行と彼女の実人生(現在と過去)がパラレルに描かれるというもの。妻と娘を殺された大学教授の復讐を描いたミステリー小説が多くを占めるため、フィルムノワール的なトーン。構成といい、描写といい攻めの姿勢を感じさせる野心作です。
*次のページでは、賛否両論となった監督賞を紹介!
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監督賞は、メキシコの期待の若手アマ・エスカランテとロシアの大御所アンドレイ・コンチャロフスキーのふたりに。
ブーイングが起こったのは、おそらくふたりに賞を与えるという煮え切らない審査員団に対してなのか、それとも、賛否のあったアマ・エスカランテの受賞に対するものなのかは定かではありません。
安定感のあるコンチャロフスキーはさておき、アマ・エスカランテは、映画祭前、最も期待していた監督のひとり。作品は、会心の出来とは言わないまでも、やはり演出のパワフルさは並外れたものがあり、この受賞には個人的には賛成です。
*次のページでは、こちらも賛否が分かれた審査員特別賞、および第73回ヴェネツィア国際映画祭の主な受賞リストを掲載!
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同じことが言えるのが、審査員特別賞を受賞したアナ・リリー・アミールポアーの『The Bad Batch』(原題)。近未来の人喰いコミュニティをモチーフにしているためか、プレス用のスクリーニング後にも、ブーイングが一部から起こりましたが、受賞に対しても同様の反応が。しかしながら、この作品、一部グロテスクな表現の好き嫌いはあっても、監督の力量が素晴らしいことは明らかで、とても好感がもてました。
審査員から賞が発表になる度に、プレスルームや記者会見場ではジャーナリストたちが反応するのですが、今年は、金獅子賞、銀獅子賞以外はさまざま。賛否が分かれたようです。個人的には、かなり納得な結果なのですが。もしかすると私は、今年の審査員長であるサム・メンデスの感覚と近かったのかもしれません。
今回の受賞作のほとんどは、年明けから徐々に日本でも公開になっていくはず。自分の目でもこれらの受賞作をぜひチェックしてください!
第73回ヴェネツィア国際映画祭主な受賞リストは以下の通り。
●金獅子賞(最優秀作品賞)
『The Women Who Left』(英題)ラヴ・ディアス監督(フィリピン)
●審査員グランプリ
『Nocturnal Animals』(原題)トム・フォード監督(米国)
●監督賞
アマ・エスカランテ『The Untamed』(英題)(メキシコ)
アンドレイ・コンチャロフスキー『Paradise』(英題)(ロシア)
●最優秀男優賞
オスカル・マルティネス(アルゼンチン) 『The Distinguished Citizen』(英題)マリアノ・コーン&ガストン・ドゥプラット監督
●最優秀女優賞
エマ・ストーン(米国)『La La Land』デミアン・チャゼル監督
●脚本賞
ノア・オッペンハイム(英国)『Jackie』(原題)パブロ・ラライン監督
●審査員特別賞
『The Bad Batch』(原題) アナ・リリー・アミールポアー(米国)
●マルチェロ・マストロヤンニ賞
ポーラ・ビール (ドイツ)『Frantz』フランソワ・オゾン監督
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texte: ATSUKO TATSUTA