夏景色にアートトリップ!「大地の芸術祭」の里 越後妻有2017夏。
Culture 2017.08.10
芸術祭の先駆けとして知られる『大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ』。舞台は、日本有数の豪雪地帯である越後妻有エリア(新潟県十日町市・津南町)。年々過疎化が深刻となっている地域でもあります。そんな地域の特性に焦点を当て、アートディレクター北川フラム氏ディレクションのもと、初めて芸術祭が開催されたのが2000年のこと。当初はなかなか地域の理解を得にくい部分もあったそうですが、17年の時を経て、すっかりこの土地の顔に。多くのアーティストやアート好きが訪れる、日本有数の芸術祭となりました。
雄大な自然に見事に調和した作品。内海昭子『たくさんの失われた窓のために』
古い空家や廃校を使用したり、山や田んぼの中に設置された恒久的なアート作品は、なんと200点近く! 越後の雄大な自然を美術館に見立てて、土地の特性を生かした作品ばかりです。作品が広域に点在しているということもあり、作品を鑑賞しながら美しい情景を目にすることができるのもこの芸術祭の魅力です。深い山の緑、湧き立つ信濃川、美しく整えられた棚田……すべてがアートに見えてくるから不思議。
管理の難しい棚田の農作業は、女子サッカーチームFC越後妻有が担っている。
本祭は3年に一度のペースで開催されていますが、毎年季節ごとにプログラムも実施され、約200点の作品やイベント、企画展を楽しめます。この夏は、子どもと大人が一緒になって楽しめる、水遊び&山遊び博覧会が開催中。清々しい夏景色の中で、アートを鑑賞するのもまた一興です。
>>涼しくアートを楽しむ、『水あそび博覧会」。
---page---
涼しくアートを楽しむ、『水あそび博覧会」。
大地の芸術祭の玄関ともいえる、越後妻有里山現代美術館[キナーレ]。原広司建築の美しい直線からなる建物が、清閑な佇まいで迎えてくれます。レアンドロ・エルリッヒの『トンネル』やカルロス・ガライコアの『浮遊』など、錚々たるアーティストがこの土地からインスピレーションを得た作品を展示。
越後妻有地域のトンネルから構想を得た『トンネル』。レアンドロ・エルリッヒらしい、遊び心あふれる作品。
建物の形をした銀紙がヒラヒラと中を舞う、カルロス・ガライコアの『浮遊』。自然災害に見舞われたこの地で、人間のつくる建造物の儚さを感じさせる。
ここでは、夏だけの期間限定で『水あそび博覧会』を実施中。建物にぐるりと囲まれた中央の広大な池が、水遊びを楽しめるアート会場に変身。谷尻誠、吉田愛率いる建築設計事務所による飛び石アートや、asoview!プロデュースのSUP体験など、子どもも大人も一緒になってじゃぶじゃぶ遊べる仕掛けが盛りだくさんです。
奥に見える作品は、開発好明の『水の回廊』。ぽたぽたと落ちる水がいろいろな廃材にぶつかり、涼しげな音を奏でている。
開催期間:開催中~9月3日(日)
入館料:一般¥800、小中学生¥400(未就学児無料)
※8月5日(土)~20日(日)は、共通チケット提示で1回無料
>>深緑が心地いい、山あそび博覧会。
---page---
深緑が心地いい、山あそび博覧会。
まつだい雪国農耕文化村センター農舞台は、城山に点在するアートの起点となる場所。イリヤ&エミリア・カバコフの作品『棚田』は、空中につるされた詩と棚田の農夫を型どった彫刻で、一対のアートとなる作品。時空を超えて、遥か昔の田んぼを耕す人たちの姿が蘇えるよう。
農家から話を聞いて構想を練ったという、イリヤ&エミリア・カバコフの作品『棚田』。
城山に佇むのは、イリヤ&エミリア・カバコフの2015年新作『人生のアーチ』。世界中が注目するロシア人アーティストですが、元々は絵本の挿絵作家のふたり。初めから二面性を持って生まれ、自分を強く見せようとする幼少期、大きな光の荷物を背負う青年期、壁を超えようとする中年期、荷物を下ろして横たわる老年期と、人の一生を描いています。
イリヤ&エミリア・カバコフの『人生のアーチ』は、見晴らしのよい山の上に。
この夏はボルダリングやハイバージャンパーが設置され、山あそび博覧会を開催中。深緑の心地よい空気に誘われて、童心に戻って遊び倒してしまいそう。
草間彌生『花咲ける妻有』を眺めながら優雅に飛ぼう、なんて思ったのも束の間。意外と難しいハイパージャンパーに振り回されっぱなし。
開催期間:開催中~9月24日(日)
入館料:一般¥600、小中学生¥300(未就学児無料)
※8月5日(土)~20日(日)は、共通チケット提示で1回無料
>>最後の生徒を描く、空間絵本。
---page---
最後の生徒を描く、空間絵本。
『ちからたろう』などの絵本で知られる作家の田島征三が、廃校を利用して手がけた絵本と木の実の美術館。体育館から教室、更衣室まであらゆる場所にオブジェが設置された学校全体が、まるで大きな空間絵本! 小学校が廃校になる時の最後の生徒だった3人の子どもをモチーフに、ストーリーが展開していきます。
教室に座っているのは、最後の生徒3人。
子どもたちの思い出を飲み込むおばけ、キラキラした思い出を残して学校を飛び出していく子どもたち……。(文字通り、学校の建物の外に飛んでいく子どもたちの姿も)楽しげな作風ですが、廃校になる子どもたちの気持ちを思って、なんだか胸が締め付けられるよう。自由に感じとってほしいと、あえて説明が添えられていません。
女子更衣室に潜んでいるおばけ。
夏の間は、山口ともとおおたか静流を迎えて、音あそびをテーマにした企画展を実施中。廃材の打楽器で遊べる教室や自分の声をお金に変えて遊べる商店街など、いつも以上に楽しめる企画展が開催されています。
開催期間:開催中~10月9日(月)
入館料:一般¥700、小中学生¥300(未就学児無料)
※8月5日(土)~20日(日)は、共通チケット提示で1回無料
>>背筋がちょっと冷たくなる、夏に見たい作品。
---page---
背筋がちょっと冷たくなる、夏に見たい作品。
作品に宿泊できるのも芸術祭の醍醐味。ちょっと怖いけれど絶対泊まってみたいと思ったのが、マリーナ・アヴラモヴィッチの『夢の家』。古民家を改装した、まさに夢を見るための施設。赤、緑、青、紫の部屋には、それぞれ中央にベッドが置かれています。同色の夢を見るためのスーツを着て、ここで就寝。翌朝、見た夢を「夢のノート」に記します。宿泊者が見た夢を記録したこのノートを本として出版するまでが、アート作品の一環。すでに夢の本1冊目は出版されています。
もっとも強烈な気配を帯びる、赤の部屋。部屋によって、見る夢の傾向も異なるのだとか。
この作品をつくったマリーナ・アヴラモヴィッチは、やや過激な作風で知られるアーティスト。1階の和室の壁には、全面に彼女のメッセージが綴られています。生と死をイメージさせる空間で、ここでしか見られない、神秘的な夢が見られそう。
気になったのは「earthquake」という綴り。震災前につくられた作品ということで、不思議な偶然……。
クリスチャン・ボルタンスキーとジャン・カルマンの『最後の教室』も、ひんやりと背筋が冷えるような作品。廃校となった小学校は、人々の記憶を重くどっしりと閉じ込めているかのよう。校舎に響き渡る心臓音と無機質な気配の相反する空間が、不気味な印象です。ユダヤ系の両親の血を引くフランス人のクリスチャン・ボルタンスキーは、ホロコーストの影におびえながら幼少期を過ごしており、その時の体験が彼のアート作品に深く影響を及ぼしているのだそう。
音楽室といえば、名立たる音楽家の肖像画が掛かっているイメージ。壁の向こうの棚には、子どもたちの忘れ物がそのままに。
開催期間:開催中〜8月20日(日)
開催場所:越後妻有里山現代美術館[キナーレ]、まつだい「農舞台」ほか越後妻有地域各所
料金:一般¥2,000(共通チケット)
●問い合わせ先:「大地の芸術祭」の里 総合案内所
tel:025-761-7767
http://www.echigo-tsumari.jp
【関連記事】
宮城県で開催のアート・音楽・食の祭典『Reborn-Art Festival 2017』へ!
100余点の作品で、奈良美智の歩みを辿る展覧会。
型破りなクリエイターを紹介する異色のアート展『「そこまでやるか」壮大なプロジェクト展』