フィガロが選ぶ、今月の5冊 女子校を舞台に描き出される、ジェンダーレスな原風景。
Culture 2017.09.20
ジェンダーレスな聖家族は、私たちの原風景なのか。
『最愛の子ども』
松浦理英子著 文藝春秋刊 ¥1,836
この小説の主語は、しばしば「わたしたち」になる。横浜にある私立の女子校で日夏がパパ、真汐がママ、空穂が王子様という疑似家族のような関係が語られていくのだけれど、それが成り立つのは、まだ性によって「女」に分類される前のこの時期だけのことだ。冒頭の真汐の作文は、性愛の対象と見なされることに対する潔癖なまでの拒絶宣言であり、期間限定の聖なる楽園に、第3のセクシャリティの芽生えという、みずみずしい出口を用意してみせた。『ナチュラル・ウーマン』『親指Pの修業時代』の作家が繊細に描き出した、ジェンダーレスな原風景。
*「フィガロジャポン」2017年9月号より抜粋
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réalisation : HARUMI TAKI