フィガロが選ぶ、今月の5冊 喪失の痛みを生きている、すべての人のための小説。
Culture 2017.10.14
『茄子の輝き』
滝口悠生著 新潮社刊 ¥1,728
主人公は離婚して3年経ついまも、どうして妻が出ていったのかわからずにいる。同僚の千絵ちゃんになぜだか救われてしまうのも、やたらと植物を買い集めてしまうのも、心にぽっかり空いた空白のせいなのか。時間軸を前後しながら語られる6編は、一見飄々と日常を綴っているようで、忘れることと思い出すこと、喪失の痛みと生きる希望を行きつ戻りつしている。いまだ行方のわからぬ誰かに、どうしてと思いを馳せずにはいられない。それは震災後の私たちの現在地でもある。新しい出会い、茄子の天ぷらのおいしさ、ささやかな輝きに明日の希望を託して、途上の祈りが満ちてくる。
*「フィガロジャポン」2017年10月号より抜粋
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