異国の港町で出会った、繊細で不安定な男と女の物語。

Culture 2017.11.18

『ポルト』

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ポルトガルの古都、異邦人の男女が刹那の恋に落ちる。潮の匂いに海鳥の声が交わる夜明けへの推移。ジャームッシュに見いだされたブラジルの新鋭の作。

 26才と聞いて、え?っと疑いたくなる頭頂部の薄くなった冴えない青年の上目遣いの視線が印象的だ。魅力的なのか嫌みったらしいのかわからないような絶妙さ。
 彼はアメリカ人で、アメリカ人にも暗い人がいるんだなぁ、なぜかポルトガルの北部の港町、坂道のあるわりと大きな街に見えるポルトに犬と住み着いている、冴えない孤独な青年だ。
 彼はカフェで恋に落ちる。ように見えたけど、発掘現場で一緒に仕事していたということは後ほどセリフによりわかる。
 彼女は褐色の髪の年上の女で、ポルト美女なのかと思っていると、訳ありのフランス女なのだ。
 ロケ地が限定されている。まるでセットを組んだような、港町で出会う男女の素敵な一晩と破局、そこで思い出したのはルキノ・ヴィスコンティの『白夜』(1957年)。
 ドストエフスキー原作をイタリアのリヴォルノに変え全編セットで撮影が行われた、港町で出会う訳ありの女の子マリア・シェルとイケメンだけど孤独な男マルチェロ・マストロヤンニの恋と別れ。『白夜』のマストロヤンニは情けなさを引き受けた非常に漢(おとこ)らしい最後を見せるのだが、しかし『ポルト』はラストが違うのだ。どちらも犬がそばにいるけれど。
 繊細で不安定な男女のすれ違いという現実。夢のような、夢なんだけど、美しいけど閉じたループ。彼は現実に戻って来れるのだろうか?
 こんな残酷なラストでは彼は生き残れないのではないか?と胸が痛くなる。

文/井口奈己 映画監督

2004年、『犬猫』で劇場映画デビュー、トリノ国際映画祭で審査員特別賞などを受賞する。その後、『人のセックスを笑うな』 (08年)、『ニシノユキヒコの恋と冒険』(14年)を監督。
『ポルト』
監督・脚本/ゲイブ・クリンガー
出演/アントン・イェルチン、ルシー・ルーカス
2016年、ポルトガル・フランス・アメリカ・ポーランド映画 76分
配給/コピアポア・フィルム
新宿武蔵野館ほか全国にて公開中
http://mermaidfilms.co.jp/porto

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*「フィガロジャポン」2017年11月号より抜粋

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