世界が注目するインドの小さな出版社、タラブックス。

特集

本づくりを通して人々を幸せにするインドの出版社、タラブックスをご存知ですか?

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夜になると本来の姿を現すという、インドにおいて神が宿る聖なる木を巡る神秘的な物語を描いた『夜の木』。Photo : Fuminari Yoshitsugu

南インドの街、チェンナイにある出版社「タラブックス」は手すきの紙にシルクスクリーンで印刷したハンドメイドの絵本で知られている。本を手に取ったときの紙の質感や匂い立つインクの香りにハッとさせられ、本でありながら様々な感覚を呼び覚ます。
日本でも訳本『夜の木』『水の生きもの』等が出版されていてファンが多い。その活動を紹介する展覧会「世界を変える美しい本 インド・タラブックスの挑戦」が板橋区立美術館で開催されている。

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2006年に出版されて以来、8つの言語で出版されている『夜の木』の原画。重刷のたびに表紙絵を変えている。Photo : Kanae Hasegawa

タラブックスが誕生したのは1994年。インドの子ども向けの本を充実させたいという思いから、文学者のギータ・ウォルフさんが立ち上げ、その後、歴史家で女性活動家のV・ギータさんが共同発行人として加わった。地域、民族ごとに260以上の母語が存在するインドにおいて、一言語の本では読者が限られてしまう。むしろ口承文学が多く、子ども向けの良質な本が充実しないという背景がある。しかし、「絵」と「文」の組み合わせで生まれる絵本という本の形式には多くの可能性がある。こう信じたギータさんは言葉を伝えるだけでなく、思わず手にとって手元に置いておきたくなる視覚的な美しさにもこだわった本づくりに取り組むことにした。

タラブックスのハンドメイド本はすべてタラブックスのある南インド・チェンナイ近郊で作られている。

本づくりと異なるノウハウが必要だから、と紙は南インドの製紙工場に古い綿布を利用した手すきのものを特注している。それ以外はすべてタラブックス内で手づくり。
印刷は普段目にする本に採用されているオフセット印刷とは異なり、版で刷るシルクスクリーン印刷の手法を取っている。シルクスクリーン印刷の場合、一色ごとに版が必要。そのため、まず絵の原画をスキャンしてデータ化し、コンピュータ上で色ごとに分ける。インクの色の調合も手作業、版に色を塗って紙に写していく作業もすべて手仕事。そして一色刷るごとに自然乾燥させて次の色を載せていく。高級スカーフづくりを思わせる工程だ。

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『夜の木』用など、本ごとにインクの色を調合する。Photo : Kodai MATSUOKA

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担当は分かれているものの、みんなが互いの作業に目配りをしながら仕事をする。雨季で刷った紙がなかなか乾かない時は、みんな総出で手持ちのヘアドライヤーを持ち出してインクの乾燥にあたるといった具合に。Photos : Kodai MATSUOKA

印刷工房では職人25人がともに食事をし、住まいも提供される。さらに一冊の本づくりが始まると、中央インドの森の民族画家、ブックデザイナーも仕事部屋と住まいを印刷工房のそばに移す。体調が優れない様子の人には声をかけたり、出版社は小さなコミュニティさながら。総勢50人に満たない規模の出版社だから、目が行き届き、本づくりの中でそれぞれの立ち回りを理解し、一丸となってひとつの本を作っているという誇りが生まれるのだろう。
ハンドメイドの絵本はこうして誕生する。

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絵巻物師「ポトゥア」による伝統的な絵巻物。Photo : Fuminari Yoshitsugu

絵本のかたちにもこだわりがある。
「絵と物語の内容に最適な絵本のかたちを与えたい」とウォルフさんは言う。

たとえば、タラブックスでは西ベンガル州固有の「ポトゥア」という絵巻物師と本をつくることがある。「ポトゥア」は民話や風習を長い一枚の紙に描いて紙芝居のように読み聞かせるストーリーテラーだ。通常、絵巻物に文字は添えず、いくつものシーンに合わせて絵巻物師が語り部を担うため、絵巻物師がその場にいないと話は伝わらない。「ポトゥア」のもつ貴重な民話の知識や絵の才能をより多くの読者に届けるために、タラブックスでは絵巻物のかたちに倣いつつも、言葉を添えた絵本をつくったのだ。

タラブックスの本づくりでウォルフさんとギータさんが大切にしていること。それは画家が喜んで仕事をできる状況をつくること。本をつくる職人たちが誇りをもてること。こうしてできた本は誠実で美しく、読み手の心にも響くだろう。

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左がギータ・ウォルフさん。右がV・ギータさん。板橋区立美術館の展覧会会場で。Photo : Fuminari Yoshitsugu

「世界を変える美しい本 インド・タラブックスの挑戦」展
期間:2017年11月25日~2018年1月8日
場所:板橋区立美術館
http://www.itabashiartmuseum.jp/

réalisation : Kanae Hasegawa

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