お正月から、歌舞伎三昧!【尾上菊之助】

Culture 2017.12.28

2018年は、高麗屋三代襲名で幕を開ける、歌舞伎にとって輝かしい年。そんな記念すべき年明けには、見どころとなる公演が続々と。歌舞伎座、国立劇場、浅草公会堂と、晴れやかな舞台で新年事始め!

尾上菊之助

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菊之助がカメラの前に立つと、匂い立つような柔らかな風情が辺りを包み込んでいく。シャッター音だけが響く静謐な時間は心が浄化されるかのよう。心地よい緊張感が漂う。
photo:SAKIKO NOMURA

伝統の重みと先人の思い、
家の芸の〝継承〟に新たなる決意。

尾上菊之助の2018年は、国立劇場での『世界花小栗判官(せかいのはなおぐりはんがん)』で始まる。演じるのは古くから日本で語り継がれてきたヒーロー・小栗判官である。

「江戸の庶民が熱狂したという小栗判官は神がかり的な馬術の使い手で頭脳も明晰。きっと歩くごとに花が舞うようなきらびやかさで、当時の役者もまたそんな風情だったのでしょう」

そんな憧れのキャラを現代に甦らせ、観客を楽しませるのは歌舞伎俳優の使命でもある。そして判官のそれは“お家”のために巨悪に立ち向かうこと。

「曲馬乗りという見せ場があったり恋の執念が描かれたり、忠義のために壮絶な死を遂げる男がいたり……。名場面がたくさん盛り込まれた物語のなか、使命を全うすべく生きる人物です」

役そのものと俳優の個性が劇空間で融合し、得も言われぬ魅力に。

菊之助はこのところ、毎年のように初春を国立劇場で迎え、普段あまりお目にかかれない作品に取り組んできた。その役づくりは「新作をつくるのとほとんど同じ」なのだという。
「その際に問われるのは古典の蓄積なんです。古典の役や名場面に落とし込んでいくことで、芝居はどんどん歌舞伎らしくなってきます。それにはもととなっている古典が身についていないとどうにもなりません」

伝統を受け継ぐ重みは新たなモノづくりの現場でも息づいていたのである。

可憐な娘役からしだいに女方の大役といわれる役どころを勤めるようになり、それと時を同じくして立役での活躍も目立ち始め、近年では骨太な役も手がけるようになってきた菊之助。

日々の積み重ねのなかで養われた素養が新作歌舞伎において花開いたのは、
歌舞伎座で17年10 月に上演された『マハーバーラタ戦記』。菊之助はこの作品に脚本づくりから携わり、主人公の迦楼奈(かるな)とシヴァ神を演じている。
「インドの哲学・宗教の話のためスケールが大きく脚本にまとめ上げるのは一筋縄ではいきませんでした。ゼロからつくり上げる苦しさはありましたが、その分普段味わうことのできない達成感がありました。古典ではさらに決まり事としてすべき事も沢山ありますので、不器用な私としてはなかなか納得のいくようにできず毎日が勉強です」

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代表作となり得る、新作歌舞伎が誕生!
『マハーバーラタ戦記』は、世界三大叙事詩のひとつであるインドの『マハーバーラタ』を題材に創作された新作歌舞伎。「人間の争いをやめさせるという使命を背負って神と人間の間に生まれ、そして殉じていく迦楼奈には、『義経千本桜』で滅んでいく平知盛に通じるものを感じます」と菊之助は語っている。©松竹

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尾上菊之助のインド・マハーバーラタ紀行。

目標設定の高さゆえか、世間の評価とはかなりの食い違いがある。そしてそこに表れる真摯な姿勢と一途な思いが、役の人物にそのまま重なり得も言われぬ魅力を醸し出していたのも事実。小栗判官もまたその系譜にあることを思えば、期待は高まるばかりだ。
「お正月気分が味わえて、魅力的な人物がいろいろ登場する物語はわかりやすいですし、最後には爽快感が味わえる内容となっています。ですからどなたでも楽しめる作品です」

ここから始まる新たな年、その抱負を尋ねると返ってきたのは「伝統の継承」というストレートな言葉。
「歌舞伎が現在に至るまでの伝統を築いてくださった先人、その心意気があってこそ、私たちはいまこうして芝居ができます。ですからその重みを受け止め、代々伝えられてきた家の芸をひとつでも多く父(尾上菊五郎)から受け継ぎ、勤めさせていただけるようにと願っています」

そのまっすぐな眼差しに、思いの深さが表れていた。

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Kikunosuke Onoe
音羽屋。1977年生まれ。84年に六代目尾上丑之助を名のり初舞台。96年五代目尾上菊之助を襲名。清潔感ある風情とたおやかな美貌、情のある演技で観客を魅了している。立役、女方を“兼ねる役者”を輩出してきた尾上菊五郎家の後継者として近年特に芸域を広げ、岳父中村吉右衛門の薫陶を受けて新境地も開拓。

 

国立劇場初春公演の会見を終え、控室でのインタビュー。穏やかな口調で礼儀正しい受け答えが続いた。
photo:SAKIKO NOMURA

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初春歌舞伎公演 国立劇場
会期 : 2018/1/3~27
演目 : 『通し狂言世界花小栗判官』
出演:尾上菊五郎、尾上松緑、尾上菊之助、中村時蔵ほか

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*『フィガロジャポン』2018年2月号より抜粋

texte : MARI SHIMIZU, coiffure et maquillage : TADASHI KIKUCHI (LUCK HAIR)

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