映画監督・齊藤 工について、聞かせてください。

はしもとこうじ 「人を見極める目がある」

特集

映画を愛する俳優・斎藤工が、映画監督・齊藤工として初長編作に挑戦、2018年2月初旬よりシネマート新宿にて公開中だ。2月24日からは劇場数を拡大して全国にて順次公開される。この最新作『blank13』は国内外の映画祭に招聘され、6つの賞に輝いた。
齊藤 工とともに映画を創ったキャスト&スタッフに聞いた「映画監督・齊藤 工ってどんな人ですか?」 現在書店に並んでいる「フィガロジャポン」の最新号2018年4月号でのコメントに加えて、こちらではほぼ全コメント、紹介します!

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—齊藤監督との出会いは?

「日10☆演芸パレード」というネタ番組で、工さんもコントに挑戦したいということで、芸人のバイきんぐさんと共演することになったんです。そのネタを僕が担当することになったのが工さんとの出会いです。2012年くらいでしたかね。いきなりテレビでやるよりも場数を踏みたいということで、まずライブからトライすることになり、ソニー所属の芸人が出る小劇場(千川)に工さんがサプライズで出て、コントをやったんです……。その時に、工さんがすごくネタの練習をするからびっくりしたんですよ。バイきんぐさんもすごく練習する人だったから、何度も何度も打ち合わせして。当日も工さん、ドラマの現場から眠らずに来て、劇場の近くのカラオケボックスで3時間くらい練習して、本番に向かったんで「どこまでやるのかな、この人」って思いました。やるからには中途半端にはしないという性格なのだと思います。2、30人も入らない劇場で、いちばん最後にネタを披露しました。結果は……工さん、観客から笑いも取れていました。

工さんはニッチェやあばれる君ともこの番組で出会ったんです、工さんは。その時の繋がりで、阿佐ヶ谷会という飲み会が残りました(笑)。

僕としては、ハードスケジュールなうえに、直前にカラオケボックスでここまでお笑いの練習までするって、この人、マジだ!……と、そこで信頼しちゃいました。

—はしもとさんの失踪したお父さまのことは監督にいつ話されていたのですか?

エンタメ工作部というのを工さんが中心になって発足して、野菜がエロ話するアニメ作ったり、おもしろいTシャツを作ったりしていたんです。その流れで、あばれる君主演、工さん共演・監督の短編映画『バランサー』の脚本を書かせていただきました。その集まりの飲み会で、僕自身の父親の話をしたんです。その時、興味を持ってくれたのではないかと思います。どんな家族にも当てはまるストーリー、と思ってくれた様子でした。

どんなことを詳しく聞かれましたか?

再会した時にどんな風に感じたか?と。会うまでわからなかった、と答えました。死ぬと決まった人に会う、という感覚がわからなかった。離れていたからこそ、父が死ぬのかもしれないという事実に妙に僕自身客観的だった。映画には描かれていませんが、本人は自分の病気の進行状態を知らなかったんです。だから、僕も父親に気付かせないようにしなきゃいけなかったので。居場所を知っても3週間くらいは行けなかった。劇中のバッティングセンターのシーンのように、葛藤する気持ちはありました。悩んだ末に、嫌な気持ちになってもいいから、と決断して会いました。工さんも再会シーンをいちばん悩んで作ったのではないでしょうか。

出来上がった『blank13』を観ていかがでしたか?

お渡しした時点で自分の話ではないとわかっていたけれど、そのシーンを観て、すごいな……と思いました。監督はあのシーンのために、一生さんとリリーさんを事前に会わせないようにしたんです。リリーさんが起き上がって一生さんを見て、誰が来たかわかった時の顔の描写が、詳しく僕自身の経験を説明したわけでもないのに、僕自身はあの時の状況そのままだったと感じました、それを受けた一生さんの表情も。

実際、僕が訪れてオヤジと何をしゃべろうかと思ったけれど、「久しぶり」と僕は言い、「コウジか」とオヤジは言いました。屋上ではなく、病室と同じ階の喫煙コーナーに行ったんです。タバコは助けになったのかも……、小学校の時の僕しか知らないから、タバコを吸ったのを見てオヤジは驚いていました。「そんな仕事しているんだ」というオヤジの言葉にムカっとしたことなども工さんには話しています。そのあたりは映画も同じ状況になっていますが、あの行間が……本当に素晴らしかったです。

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原作には残していたのですが、これがきっかけで放送作家に転職しました。小さい頃は野球選手になりたかったのですが、野球部がない場所で育ったので、野球ができませんでした。オヤジは、甲子園の予選の放送を毎年見て僕を探していたそうですが……。僕はもともとお笑いが好きだったので、オヤジとの会話を経て、本当にやりたいこと、として放送作家にシフトしたんです。

—映画としてアレンジされて、自分の人生とは違うな、というところは?

付き合っていた女性、松岡さん演じる役の女性が子どもを宿すエピソードは事実とは違います。でも、親子のことを咀嚼できていないのに、親になっていいのかな、という描写はすごいなと思いました。最後は、迎える準備ができたという描写となり、命を繋ぐという物語になった。自分だけの話ではなく、そこから先に繋がっていくものを感じました。

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—高橋一生さんが演じられたご自身の役はいかがでしたか?

一生さんの印象は、ちょっとカッコよすぎるというか……。でも、いざ、やっていただいたら、僕ではないけれど、「僕の話」に受け取れました。
撮影現場に行って遠巻きに見ていたら、一生さんに声を掛けていただいて。「山登りに行った時に神社で写真を撮ったら鹿の精霊が映ったんですよ!」とスマホを見せていただきました。そんな周りを和ませてくれるような方でした。

実は制作陣には「現場に行ったらダメですよ」と言われていまして。特に初日はぴりぴりしているということで、3日目か4日目くらいに足利のお寺のシーンに訪れたんです。工さんが気付いてくれて、どうぞ間近で見てくださいと言われて。そうしてたら、音効さんに「近すぎ!」と、叱られちゃいました(笑)。そしたら工さんが、そんなふうに僕が叱られる様子を楽しんだ後、「その人原作者ですよ」と言ってくれたんです。工さんは半呼吸ゆっくりしてるんですよね(笑)

葬儀のシーンで突然出演させられた時も、助監督さんに、「その後ろの人、少しも悲しそうじゃないよ」と言われて、工さんはずいぶん経ってから、「その人原作者です」、と。人間観察のクセがあると思います。でも、だからこそこういう作品が撮れるのでしょうね。

傍観型の人だと思いますが、流されない人なので、あばれる君とか永野くんとか、お笑い芸人たちでも売れない時から光るものを見つけていて、人を見極める目があると思います。バイきんぐさんを指名したのも、工さんの見る目あってのことだと思います。

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—出演者の方々にコメント取材したら、俳優たちにはあまり指示はしないとみなさんおっしゃいますが、どうでしたか?

僕が現場で見たかぎりでは、全部お任せしているようでいて、ちゃんと下準備しているように感じました。ちょっとお母さんみたいなんですよ。下準備したことを感じさせず、俳優の方々が自由にできるようにしている。安心できる雰囲気が現場に漂っていました。
一生さんと工さんの間には暗黙の了解みたいなことを感じました。工さんがやってほしい演技を一生さんはやっていたように見えました。偉そうにこんなこと僕が言えないけれど、現場でそう感じました。一生さんが、工さんが望んだとおりの演技をしているような。

—役者としての斎藤 工と監督としての齊藤 工に違いはありますか?

(相当悩んで)わからないです。役者のほうは熱さを感じる。監督としては冷静さを感じる。役者は赤い炎、監督は青い炎、でしょうか……。

—完成した『blank13』を観て、どう感じられましたか?

もう僕だけの話ではなく、本当にいい話になった、と。自分の人生の話が映画になってどうですか、とよく聞かれますが、もう自分は作り手の側になってしまったので。書いたのは3年前、撮影は2年前。長い道のりです。やっとできた、という気持ちです。夕張でようやく一般の方に初めて観ていただいた時に、大事な人に会いたいと思ってくれる人がひとりでもふたりでもいてくれるといいな、と思いました。
僕、最後の(入院している)4カ月で、オヤジに2回しか会えていないんです。2回目に会った時、実際にかなり痩せていて、怖くなってしまって、その後は行けなくなっちゃった。いつ死んでしまうのだろう、と。もしかしてこのまま死なないでいてくれるんじゃないのか? なんて思ったりもしました。でも、死んじゃって――病院に手続きに行った時に、看護士さんに「ずっと来るの待ってましたよ」と言われて……。でも「向こうは13年も不在にしていたから!」と心では思ったりもしたんです……でも、映画になってこうしていろんな人にも観てもらえるなら、会えていない人に会う、という人が増えればいい。この映画ができたことで、僕にとっても、父との関係があいこになれば、と思いました。

—普段、齊藤監督との会話の中で、お笑い関連でもいいですが、クリエイションに関しての考え方などで感心する部分はどんなことでしょう?

直接的にはそういう話はあまりしないですが、ラジオのbayfm「TAKUMIZM」で、ゲストに呼ぶ芸人さんの選びのセンスが秀逸だな、と思います。
人間の心情をきちんと切り取った笑いのネタが好きなのかな、と思います。自分の中にない発想を持つ芸人さんと仲良くなって、工さん自身のエネルギーにも変えているようなところがある、と思います。
バッドナイス常田もいち早く発見していましたよ。

—齊藤監督は、何がなんでも長編の基準である70分を突破して、海外の映画祭を狙っていたという印象ですが。

すごく狙っていたと思います。最初からそう言っていました。僕の本当の状況では、街中の斎場だったんです。実はその時代の葬儀にはレーザービームとスモークの中にお棺が消えていく、みたいな変な演出があったんですよ。親父の隣で行われていたお葬式もその演出でした。その部分はおもしろおかしく僕は当初書いていましたが、海外の映画祭に出品するなら、日本文化としてわかりやすくお寺の設定にするなどの変更をしたのではないか、と思います。

—監督の撮影現場でのこだわりをどういうところに感じましたか?

ボツになってしまったシャボン玉が飛んでいくシーン、セミが燃えるのを女の子が眺めているシーンに関しては、めちゃくちゃこだわって、何回も撮り直していました。みんなが「これでいいかも」と思った場面でも「もうちょっとやりましょう」と続けて何回もやって。するとその後、みんなが納得する「これだ!」というのが撮れて、工さんのOKが出ました。
今回タバコは重要な役割を担っていて、リリーさんの魂が天に昇っていくということと絡んでいると思うので、そのイメージでシャボン玉がその飛び方だと成仏できない、ということなのか? それにこだわっていたのかな、と思いました。
セミも火葬に関してですよね。死と送ることへのメタファーかもしれません。信頼する俳優の方にはあまり指示を出さないけれど、こういう描写にはこだわる人だと思います、工さんは。

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あと、金子(ノブアキ)さんの音楽、最高でした。とても心に響きました。金子さんみたいに才能のある人が身近にいるって、そういうところも工さんってすごいですね。

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KOJI HASHIMOTO
1971年9月25日生まれ。現金輸送車勤務を経て、2001年、ルミネtheよしもと開館と同時に劇場付き作家となる。現在は放送作家として活躍。「めちゃ×2イケてるッ!」(フジテレビ)、「世界ナゼそこに?日本人」(テレビ東京)などを担当。齊藤 工が監督した14年の短編『バランサー』の脚本を執筆。『blank13』の原作者であり、はしもと自身の経験を軸として描かれたのが本作である。居酒屋で齊藤監督にその話をしたのが映画誕生のきっかけのひとつとなった。



映画『blank13』は家族の物語である。妻と息子ふたりを残し忽然と消えてしまったひとりの男=父親と、残された家族が、13年後、父が余命3ケ月の状態で息子(次男)と再会し、逝き、葬儀へといたる。その過程を、登場人物たちの心の経緯をなぞるようなかたちで表現された映画である。実話を軸にしている。

『blank13』
出演/高橋一生、松岡茉優、斎藤 工、神野三鈴、佐藤二朗、リリー・フランキーほか
監督/齊藤 工
2017年、日本映画/70分 
配給/クロックワークス
シネマート新宿にて公開中、2月24日より全国順次公開
Ⓒ2017「blank13」製作委員会  photos : LESLIE KEE

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