映画監督・齊藤 工について、聞かせてください。 早坂 伸「もしかしたら最強の映画監督ではないだろうか」

Culture 2018.02.24

映画を愛する俳優・斎藤 工が、映画監督・齊藤 工として初長編作に挑戦、2018年2月3日よりシネマート新宿にて公開され、現在、劇場数を拡大して全国にて順次公開されている。この最新作『blank13』は国内外の映画祭に招聘され、6つの賞に輝いた。
齊藤 工とともに映画を創ったキャスト&スタッフに聞いた「映画監督・齊藤工ってどんな人ですか?」 現在書店に並んでいる最新号2018年4月号でのコメントに加えて、こちらではほぼ全コメント、紹介します!

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—どういうきっかけで『blank13』の撮影を手がけることになられたのですか?

知り合いのラインプロデューサーからオファーをもらいました。面識はなかったので少し意外でした。

—齊藤監督から、どのような準備を求められましたか?

準備を求められたということはないのですが、監督“齊藤 工”の個性をどう出していくか考えました。監督の“思考”と“嗜好”に自分の感覚をシンクロさせたいと思いました。

—齊藤監督に指示された映像はどのようなものだったのでしょう? 監督に言われたことにどんなことをオリジナルで加味しようと思われましたか? また、ほかの映画の引用、どんな映画のどんなシーンを連想してください、など、具体的な指示はありましたか?

「すべてわかりやすいものにはしたくない」と言われました。あえて直接的な表現をボカすことでイメージを膨らませたいのだと感じました。真っ先に例に挙げられたのがショーン・ペン監督『インディアン・ランナー』のイメージシーンです。白装束のインディアンが突然現れ、走っていく――そこにはなんの脈絡も説明もないのですが、主人公の心象表現と捉えたり、さまざまな解釈が成り立ちます。確かにこの映画で最も印象に残るシーンになっていて、厚みを与えています。齊藤監督は、いまの日本映画が“わかりやすさ”を第一義にしすぎていることへのアンチテーゼを表明したかったのだと思います。ほかには、グザヴィエ・ドラン、ロベール・ブレッソン、塩田明彦など、映画全般の意見交換をしました。

—『blank13』は、人間のありようへの一種の諦観と、諦観にもとづきながらも、その存在への愛を感じました。齊藤監督の「ひと」を観察する視点・視線に関し、早坂さんはどのような評価・感想をお持ちでしょうか? 映画人としての齊藤監督の姿勢に関して感じることがあれば教えてください。

この作品だけで決めつけることはできませんが、齊藤監督には「存在の肯定」を感じさせられます。作品そのもの、作中の登場人物のみならず、演者、スタッフのアイデンティティをも認め信頼している。監督にはさまざまなタイプがいますが(君臨する「皇帝タイプ」、和を尊ぶ「協調タイプ」等)、ちょっとどれとも違っていて、一定の距離を取りながらも信頼を寄せてくれます。言ってしまえば「自立している大人」タイプです。映画の知識に関しては誰も及びませんし、役者としての現場経験値も豊富。映画そのものに対するリスペクトもあるし、もしかしたら最強の映画監督ではないでしょうか。

—齊藤監督は、クリエイターから出てくるものを待つタイプですか? それとも細かく指示するタイプの監督でしょうか?

 完全に前者です。すべての意見に耳を傾ける柔軟さがあります。

—役者としての斎藤 工と、齊藤 工監督で、まったく印象が違う部分がありますか?

『blank13』の撮影後、出演もしていた榊英雄監督作で純粋に「俳優・斎藤 工」と向き合いました。撮影者が同じで演者と監督が入れ替わるという不思議な経験をしました。俳優としては作品のワンピースであるという立場を心得ているようでした。

—できあがった映画を最初に観た時、齊藤監督に対してどんな想いを感じましたか?

これは良い意味で観客の期待を裏切ると思いました。器用なタレント監督ではなく、本当の映画監督の誕生の瞬間に立ち会えたという感慨がありました。

—この映画をどのように評価しますか? どんな部分に、「齊藤 工監督にしかない創造性」を感じましたか?

バランスが悪いのに強固という稀有な現象が起きています。重くて暗い陰鬱な作品になりがちなテーマに「笑い」という重要な要素が絡みます。作風は異なりますが、ちょっとケン・ローチ監督作品を彷彿とさせます。海外の映画祭で一定の評価がされているのも、この笑いのペーソスにあると思います。

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—個人的にどのシーンが、最もお好きだったでしょう? その理由は?

13年ぶりにコウジ(高橋一生)と父親(リリー・フランキー)が病室で会うシーンです。コウジのあっけないほどの無表情さがリアルだと感じます。一方の父親の悪気のない笑顔とのコントラストが美しいと思います。

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—今度、齊藤監督とどんなクリエイションでタッグを組んでみたいか、希望があったら具体的に教えてください。

与えられたフィールドで結果を出すという意味で齊藤監督も職人気質だと思います。量が質を証明し、個性を獲得させるのでできるだけ多くの作品を手がけたいです。幸い齊藤監督も自分もオールジャンルに愛着があるのが強みかもしれません。地味な地方映画や恋愛ものからホラー、サスペンス、アクション、エロティック、何でも撮りたいです。

—齊藤監督と、本作のことだけでなく、何げない会話の中で、映画やクリエイションへの渇望や熱いものを感じられた瞬間があったと思うのですが、エピソードとともに教えていただけますか?

最初に顔合わせした時に鞄から覗いてた本がロベール・ブレッソン『シネマトグラフ覚書』でした。これは自分もバイブルとしている本なのですが、持ち歩く齊藤監督も相当にマニアックな人だなと思いました。この本は「映画」に対するブレッソンの峻烈な戒律が書かれたもので、彼にとって無駄なものは一切廃する(劇伴の禁止、職業俳優の不認可、等)というものです。彫刻のように削って削りまくることで内部の美を表現させていく、いわゆる引き算の考え方です。現代の映画は装飾が多くデコレートされたものが重宝されます。時代と逆行していると思われるかもしれませんが、その内包する強度は観る者に必ず伝わります。特にこのようなことを話したことはありませんが、「ヌーヴェルヴァーグ」や「ドグマ95」などのひとつの映画運動(=ムーブメント)を起こそうと思っているのかもしれません。齊藤監督ならではのステージでそのような運動を起こされるなら、ひとりのシネアストとして楽しみでなりません。

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SHIN HAYASAKA
1973年11月29日生まれ。日本映画撮影監督協会(J.S.C.)所属。(株)キアロスクーロ撮影事務所代表。撮影監督としての近作は、テレビドラマでは、2018年春放映予定の「ミッドナイト・ジャーナル」(テレビ東京)、「リピート~運命を変える10か月~」(日本テレビ)。映画は『生きる街』(18年3月公開)、『アリーキャット』(17年)など。撮影方法などに詳しく言及した個人ブログ「陰翳礼讃~chiaroscuro~」(http://shin1973.hatenablog.com/)はシネアストにはたまらない興味深い内容。齊藤監督は、その文章の力にも信頼を寄せている。



映画『blank13』は家族の物語である。妻と息子ふたりを残し忽然と消えてしまったひとりの男=父親と、残された家族が、13年後、父が余命3ケ月の状態で息子(次男)と再会し、逝き、葬儀へといたる。その過程を、登場人物たちの心の経緯をなぞるようなかたちで表現された映画である。実話を軸にしている。

『blank13』
出演/高橋一生、松岡茉優、斎藤 工、神野三鈴、佐藤二朗、リリー・フランキーほか
監督/齊藤 工
2017年、日本映画/70分 
配給/クロックワークス
シネマート新宿にて公開中、2月24日より全国順次公開
Ⓒ2017「blank13」製作委員会  photos : LESLIE KEE
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