映画監督・齊藤 工について、聞かせてください。 神野三鈴「圧倒的な肯定、愛情で野放し」

Culture 2018.02.27

映画を愛する俳優・斎藤 工が、映画監督・齊藤 工として初長編作に挑戦、2018年2月3日よりシネマート新宿にて公開中され、2月24日以降、劇場数を拡大して全国にて順次公開中。この最新作『blank13』は国内外の映画祭に招聘され、6つの賞に輝いた。
齊藤 工とともに映画を創ったキャスト&スタッフに聞いた「映画監督・齊藤 工ってどんな人ですか?」 現在書店に並んでいる「フィガロジャポン」の最新号2018年4月号でのコメントに加えて、こちらではほぼ全コメント、紹介します!

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—齊藤監督から、どのような準備をしてほしいなど、リクエストはありましたか?

何もなかったです。

—齊藤監督から人物像の指示はありましたか? 監督に言われたことに対し、どんなことをオリジナルで加味しようと思われましたか? ほかの映画の引用、どんな映画のどんなシーンを連想してほしいなど指示はありましたでしょうか?

「(家族が暮らす)アパートの部屋の雰囲気は映画『浮雲』のイメージがあります」と言われました。あとは本当に不思議なのですが、イメージや大切なことはすべてテレパシーで会話していました。これ、本当なんです。衣装合わせが初対面だったので、お互いいろいろ自己紹介含めお話をした覚えがあります。私たちの言葉はBGMのようでしたが、ハッキリと監督の撮りたい世界が伝わってきました。あの方はテレパスなんです。

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—神野さんが演じた松田洋子という役どころは「母」。齊藤監督の「母」という存在への解釈、男たちを支える女、という役どころに対しての解釈はどういったものと、演じた神野さんはお感じになられましたか?

最初にいただいた台本は、泣いている母の姿ばかりが息子の目で描かれていました。次に来た台本は、子どもたちの前で涙を決して見せない母になっていました。でも、このふたりは同じ女性です。それがとても大きな柱になっていたような気がします。そして何よりも私の中にあったのは、私の母の姿です。これもテレパシーで監督と理解し合っていると思います(勘違いだったらどうしよう……)

—齊藤監督は、役者から出てくるものを待つタイプですか? それとも撮影現場で振る舞いまで細かく指示するタイプの監督でしょうか?

圧倒的な肯定をしてくださり、愛情で野放しというか自由にしてくれました。ただ、その絶対的な信頼が、彼の揺るぎない自信と、他者に対する彼の基本姿勢のように感じられ、私にとってはそれこそが彼の演出でした。

—撮影現場にいて、役者への演技指導以外に、特に「こういう部分にこだわるのだなあ」と感心なさったポイントがあれば教えてください。その時に神野さんがどう思われたか、というお気持ちも交えて教えていただけますか?

印象に残っているのは「待ち時間の椅子関係」、そして「日傘などのUV関係」をかなり細やかに気を使ってくださり恐縮しました(笑)。最も印象に残っているのは、事故のシーンで顔にも特殊メイクをして怪我している状態を作ったのですが、監督が私に「女優さんにこんなことをさせてしまって申し訳ありません」と謝られたんです。私が「女優よりも役者ですから」と答えると、深々と「ありがとうございます」と……。なぜかこの会話が後から私の中でジワジワ来ました。

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—いままで組まれてきた映画やドラマの監督の方々と、齊藤監督が異なると思われる部分があったら教えてください。

現場に対する絶対的な信頼感とあまりに幸せそうな監督の表情。

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—役者としての斎藤 工さんと、齊藤 工監督で、まったく印象が違う部分がありますか?

いまはありません。

—『blank13』を最初に観た時、齊藤監督に対して、どんな想いを感じましたか?

ありがとう×1000万回以上。

—『blank13』をどのように評価しますか? どんな部分に、「齊藤 工監督にしかない創造性」を感じましたか?

「全体」であり「何よりも一つひとつ」であることに対する眼差し、人生の運命の暴力、無力や無情を、「愛おしい」に変える力。

—ラストに近いシーン(作品内の亡くなった父親の葬儀と同時進行のシーン)で、神野さん演じる母が喪服姿で吸う「タバコの煙が部屋の中に(まるで夫の魂のように)戻ってきた」エピソードを、浅草で行われた「したまちコメディ映画祭」の上映舞台挨拶の時にお話なさっていました。齊藤監督は、そういう小さな奇跡のような「映画的なコト」を、大切にする人物だと思われますか? 煙の件以外にもそのようなエピソードはありますか?

監督が「カット」をなかなかおかけにならないので、その役で相手役の方と紡ぐ時間が贅沢にありました。その中で最初から小さな奇跡のような瞬間が撮影中にはたくさん生まれていたので、その集大成が、夫を弔うタバコの煙が無風のスタジオの中で何度も家の中に戻ってくる、彼の帰還、というところまで行ったのだと思います。だから答えはずーっと撮影中ありました、かな。

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—今度、齊藤監督の指揮の下、こういう映画でこういう役を演じてみたい、という希望はありますか?

それもテレパシーで……多分。言葉でうまく伝えることができません。

—齊藤監督との何げない会話の中で、映画やクリエイションへの渇望や熱いものを感じられた瞬間はありましたか? 覚えているエピソードを教えてください。

撮影のラストカットを終えられた時(それは監督のシーンだったのですが)、花束を受け取った監督が若いスタッフの方たちに、「夢を実現させてください。とにかく行動してください。それが本気なら必ず誰かが集まってくれます」とおっしゃったのです。それを陰で聞いていた私は、若い方々の目が変わったのを見ました。それは批評や憧れという外に向けられていた眼差しから、それぞれがベクトルを自分に向けた瞬間に見えました……私も含めて。「コイツ、スゲーな」と思いました。

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『blank13』が出品されたシンガポールの映画祭のパーティで踊る、神野三鈴さんと齊藤工監督。

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MISUZU KANNO
1966年2月25日生まれ。名だたる人気演出家の作品から、テネシー・ウィリアムズなどの英米演劇、また井上ひさし作品まで活躍する名舞台女優。昨今は映画やテレビにも出演し、『駆込み女と駆出し男』『日本のいちばん長い日』(ともに2015年)、『武曲MUKOKU』(17年)など映画出演も続く。19年公開予定のアメリカ映画『I am not a bird』では全編英語で演じる。今回の取材をお願いする関係者のなかで、齊藤監督から「特に私のことを理解してくれている出演者のひとり」とコメントをいただいた。



映画『blank13』は家族の物語である。妻と息子ふたりを残し忽然と消えてしまったひとりの男=父親と、残された家族が、13年後、父が余命3ケ月の状態で息子(次男)と再会し、逝き、葬儀へといたる。その過程を、登場人物たちの心の経緯をなぞるようなかたちで表現された映画である。実話を軸にしている。

『blank13』
出演/高橋一生、松岡茉優、斎藤 工、神野三鈴、佐藤二朗、リリー・フランキーほか
監督/齊藤 工
2017年、日本映画/70分 
配給/クロックワークス
シネマート新宿にて公開中、2月24日より全国順次公開
Ⓒ2017「blank13」製作委員会  photos : LESLIE KEE
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