映画監督・齊藤 工について、聞かせてください。 小林有衣子「『いまやるべき』と機を捉える、その感覚がとても鋭い」

Culture 2018.02.28

映画を愛する俳優・斎藤 工が、映画監督・齊藤 工として初長編作に挑戦、2018年2月3日よりシネマート新宿にて公開中され、2月24日以降、劇場数を拡大して全国にて順次公開中。この最新作『blank13』は国内外の映画祭に招聘され、6つの賞に輝いた。
齊藤 工とともに映画を創ったキャスト&スタッフに聞いた「映画監督・齊藤工ってどんな人ですか?」 現在書店に並んでいる最新号2018年4月号でのコメントに加えて、こちらではほぼ全コメント、紹介します!

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齊藤さんを監督として評価している部分は?

工さんはさまざまな現場を体験していて、よくわかっている人物です。そして、チャレンジを恐れない。他者のものを受け止める器があり、「俺俺!」というような人間でもない。どんな忙しい時でも、「いまやるべきだ」と機を見て捉える、その感覚がとても鋭い人でもある。いまだから生まれるものを切り取れる人だな、と思っています。いまは忙しいから、いっぱいいっぱいだからと、先延ばししたりしない。他者のこともそうだし、いま自身が置かれている状況を考えて、いまこそこの流れに乗るべきだ、と感じたらすぐに動く能力が高い人です。

—プロデューサーとしての小林さんへのリクエストは何かありましたか?

リクエストは常に細々とありました。思ったことやアイデアはすぐ共有してくれます。こう作ったほうが万人受けしそう、利益が得られそうということよりも、まずは1本の作品として大事にしていきたい、という気持ちを強く感じ取りました。監督と私は同じ年齢で、同じ時代を生きていて、工さんの歩みに合わせる、つまり、焦らず待つことが大事だな、と感じました。工さんは、必ずよい決断をしてくれる人なので。いま思い返せばですが「待つこと」が私への無言のリクエストだったかのかもしれません。

—齊藤監督の映画づくりへの姿勢や考えで心に残っていることは?

言葉じゃないものを大事にしていると思います。その部分は高橋一生さんとも通じます。言葉にできないものを大事にしているので、『blank13』も過去の短編作『バランサー』も、言葉にできないものはしなくていい、と。「間」を大事にしていると思う。映画づくりだけでなく、普段も「間」を大事にしていると思います。

—『blank13』の中で特に、その「間」を感じるシーンは?

最初のほうのシーンで家族3人が再会するところ、そして一生さん(コウジ)とリリーさん(父)とが再会するところ。いくらでも足す演出ができたと思うのに、しなかった。「そぎ落とす」というよりも、「言葉にしなくて良い」という感覚です。

—齊藤監督の妥協しないと感じる部分は?

すべてのことに関して妥協しない人ですね、一見ソフトに見えますが、決して妥協しません。
話はずれるかもしれませんが、最初からまったく変わらなかったのは、エンディングの曲「家族の風景」に関して、この曲は絶対に使う、と決めていたこと。また、金子ノブアキさんが作ってくれた音楽に工さんは感動していたし、それが、この作品のピッチを決めてくれたと思います。第1のトーンは高橋一生さん。そして第2のトーンが「家族の風景」という曲、そして第3が金子さんの音楽。そして、それらをうまく切り取れるのが工さんだと思います。工さんは、バランス感覚がある。映画の知識がたくさんあるし、ロジカルなことはいくらでも考えられると思うけれど、その場の「空気感」を考えて指示することができる。たくさんの映画を観ていて、たくさん知識があるのに、バランスよく、それらを(あえて)出してこないこともある。工さんが、ぎりぎりまで自分自身を主張し、出してきているのに、周りの人は工さんに対して少しも押し付けがましいという印象を感じないんです。

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—参考として引用されたものは『インディアン・ランナー』のほかにもありましたか?

たくさんありました。北野武映画のことはよく出てきました。お蕎麦を食べるシーンなどは、昔の映画の『浮雲』を観て取り入れました。辛いことがあっても食べる。日常の生命力を表してるなと。『セッション』の演出もすごく好きなので一緒に観たりしました。

—『blank13』には諦観のある愛、という印象を持ちましたが、いかがですか?

私にとっては普遍的な家族の愛という印象です。初期段階から台本もどんどん変わっていっていますし、この映画のもうひとりの主役は神野さんの演じる母だと思うのです。環境は人それぞれ違うけれど、観る人が自分の家族を思い浮かべるような映画になっていると思います。

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—齊藤監督は表現型、傍観型、どちらの要素が強いですか?

傍観者に見せている表現者だと思います。実は表現者なのだけれど、傍観の位置にも行ける稀な人だと思います。表現者としての自分自身も傍観できるような人です。クリエイションの中にどっぷりいます。でも傍観の側に行って、ぐるりと見渡せるところがある。本当は中心にいる人です。

—ポストプロダクションで特にこだわっていたのは?

先ほどとダブりますが、「間」ですね。ポスプロでは、実は後半のパートにすごく苦労しました……一生さんもおっしゃっていたけれど、笑いと悲しみがごった煮になっている、それが人生です。それをそのままストレートに表現したら、映画としては成り立たなくなってしまう。それをまとめるのがたいへんでした。あの完成形にしたのは、それも工さんが取ったバランスです。せっかく一生さんが出ていたシーンなのに、編集で切ってしまったところもあります。それが(いい意味で)言葉足らずになってしまった部分でもあると思いますが。もっともっとわかりやすい家族の物語にすることもできたけれど、この作品はそうしなかったのです。

—「間」を生かした作品を作って発表するのは、観客への信頼を要しますよね。

観客への信頼というのもあるかもしれないですが、今回は演者を信頼しているというのが大きいとも思います。どんなことになっても、「一生さんが必ず戻してくれる」という信頼はあった。役者のみんなが申し分のない人たちばかりだったので、突拍子のないことを言ったりやったりしても、その時の(登場人物の)感情を確かに表現してくれていると思っています。この映画はストーリーラインよりも、出演者の演じる役の感情が表現してくれている映画だと思うので。

—先日のインタビューで小林さんが同席してくださった際に、高橋一生さんにも伺った質問ですが、齊藤監督は人によって対応の仕方が異なりますか?

一生さんがおっしゃったように、いい意味で違うと思います。一生さんはすごく人をみている人だな、と思いましたね、先日のインタビューで。一生さんも、言葉じゃないものを大事にしている人なので、工さんとお互いがリスペクトし合っているように見えました。あえて言葉にしないようにしている印象でした。この現場を経て、私自身も言葉数が少なくなってしまったと思います。『blank13』では決定的なことは言葉にされない。でも推測できる、というふうに作られています。なので、現場でも要らない会話はしない、というふうに意識していた気がします、自分でも。

—役者としての斎藤工と、監督としての齊藤工との違いはあると思いますか?

身を任せるのと、任されるのとで違うのではないか?と思います。工さんは他者を大事にする人なので。つかず離れずの関係がこの現場ではありましたね。
工さんはプロデューサーも選び放題だっただろうに、一緒に悩んで作っていくような私を選んだのは、なぜだろうと考えました。「苦楽をともにする」、という言葉がありますが、工さんの「苦」の部分の担当は私だな、と思います(笑)。苦を共有できる、というのもある意味大事な仲間なのでは?と最近勝手に感じています。
『blank13』は、ある意味、着飾らずにできる作品を目指しているようなところがあったから、同世代のスタッフ、キャストが多いです。金子さんも、工さんも、編集の小川さん、音効の桐山さんも私も同い年。一生さんもひとつ年上なだけですし。このバランスもちゃんと工さんは考えがあったうえだと思います。
また、普通に常識的に考えればこうしたほうがいい、ということが見えていても、2択になった時、私は工さんの選択を信じます。何かを決める際、私が自分の我を通したのは、お兄さん役を齊藤監督本人にやってほしい、ということだけでした。この家族のことを表現するなら斎藤工だな、と思いました。

—完成した作品を観た時に齊藤監督にかけた言葉は?

おつかれさま、です。 ほかにはあんまり言ってないというか……そこにがんばったね、とか諦めなくてよかったですね、とか全部あったし……多分伝わってます(笑)。

—小林さんは個人的にどのシーンが好きですか?

一生さんとリリーさんが再会するシーンですね。リリーさんの目……ふたりの目ですね。それがすべてを物語っている。そして神野さんのラストシーン、煙草のシーンです。

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YUIKO KOBAYASHI
1981年生まれ。アパレル業界から、テレビ、CM、映画など映像制作を手がけるイースト・エンタテインメント(現:イースト・ファクトリー)へ転職し、プロデューサーの道へ。過去に『日10!演芸パレード』(MBS)、『ワンダフルライフ』(CX)などの製作に関わる。齊藤監督とは短編『バランサー』もともに製作。『blank13』の製作をきっかけに、各国の映画祭へも同行。



映画『blank13』は家族の物語である。妻と息子ふたりを残し忽然と消えてしまったひとりの男=父親と、残された家族が、13年後、父が余命3ケ月の状態で息子(次男)と再会し、逝き、葬儀へといたる。その過程を、登場人物たちの心の経緯をなぞるようなかたちで表現された映画である。実話を軸にしている。

『blank13』
出演/高橋一生、松岡茉優、斎藤 工、神野三鈴、佐藤二朗、リリー・フランキーほか
監督/齊藤 工
2017年、日本映画/70分 
配給/クロックワークス
シネマート新宿にて公開中、2月24日より全国順次公開
Ⓒ2017「blank13」製作委員会  photos : LESLIE KEE
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