映画『犬ヶ島』の裏話を監督&キャストにインタビュー。

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ウェス・アンダーソン監督の待望の新作『犬ヶ島』は、追放された愛犬を救うために“犬ヶ島”にやってきた少年と、島に暮らす犬たちの絆を描くストップモーション・アニメ映画だ。日本が大好きという監督は、舞台を近未来の日本に設定。撮影日数445日、スタッフは総勢670人、最も長い1シーンの撮影は107日間、100分の映画のために144,000の静止画像を撮影といった、そのスケールを聞くだけでワクワク感が加速する。

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ウェス・アンダーソン監督と登場するパペットたち。

アンダーソン監督がこのストーリーを思い付いたのは、イギリスで、友人である俳優のジェイソン・シュワルツマンとロンドン東部にあるウォーターフロント再開発地域を歩いている時に、ドッグ島(Isle of Dog)の標識を見つけたことからだった。犬好きな監督にはそこが非常にミステリアスな場所に思え、そして“ゴミ捨て場に犬がいる”という設定から話を膨らませ、友人のロマン・コッポラも加わって3人で一緒にストーリーを考えていったという。そして行き詰まっていた時に、以前から日本を題材にした映画も作りたいと考えていたことから、その2つを合体させてみたところ、次々とアイデアが浮かんで「これで行こう!」ということになったそうだ。

1960年頃の日本を舞台にしつつ、描くのは今から20年後というファンタジー感溢れる設定。パペットの犬たちがチャーミングで目が離せない一方で、昭和の懐かしい風景にユーモアと安堵感を覚え、思わぬ展開に、自分もその場にいるように引き込まれていく。また、画面に現れる文字にも意味が多く、見逃せない。監督は日本映画を字幕で観ることが多かったため、スクリーンに文字がたくさんある雰囲気も出したかったそうだ。今回、ウェス・アンダーソン監督と主人公の小林アタリの声を担当したコーユー・ランキン、アタリを助けるヒーロー犬の中の1匹デュークの声を担当したジェフ・ゴールドブラムに話を聞いた。

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主人公のアタリを助けるヒーロー犬たち。左から2匹目がデューク。

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日本のさまざまな文化をオマージュ。

日本映画の大ファンというアンダーソン監督は、次のように話す。

「『犬ヶ島』に関していえば、黒澤明監督作品のスケールの大きさやダイナミックさ、ハードな面、宮崎駿監督作品の静寂や沈黙といった動いてないシーンでの感覚からインスパイアされているよ」(アンダーソン)

しかも、一緒に仕事をしているロマン・コッポラの父親のフランシス・フォード・コッポラが黒澤監督と仕事をし、自宅に遊びに来たほど親しかったことから、『犬ヶ島』の製作中は、アンダーソン監督やロマンの意識の中には常に黒澤監督や彼の作品が在り続けていたそうだ。今回一番影響を受けたのは『悪い奴ほどよく眠る』(1960年)と『天国と地獄』(1963年)という。

「ただ、影響を受けたといっても宮崎監督や黒澤監督の手法であって、誰かを真似することはしたくない。僕は映画を作るにあたって自分がインスパイアされたもののリストを作るけど、それを全部自分の頭の中に入れて吸収し、リスト完成後は、それを忘れるようにしている。だから僕の中を通して、自然とそういったものが自分の映画に反映される形が一番多いと思う。それに今回は映画以外にも、本や写真、音楽などからもずいぶんインスパイアされた。日本のさまざまな文化を全部オマージュとして入れたといっても過言ではないと思う。予想外だったのは、絵画、浮世絵といった描かれたものがかなり入ってきたこと。テレビの画面もそうだし、手描きで描いた絵があちこち入っているよね」(アンダーソン)

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日本人が海外の映画に登場する“日本”に関して違和感を覚えることは少なくない。しかし『犬ヶ島』では、アンダーソン監督の友人である野村訓市が日本語を含めた、日本を正しく描くためのコンサルタントを担当し、嘘のない、より日本らしいと感じられる内容にするように努めたという。そのため、スクリーンを通して、日本の良さを再発見する面白さがあるほどだ。

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声優たちも、完成するまでストーリーは知らされず⁉

監督にとってストップモーション・アニメ映画は『ファンタスティックMr.FOX』(2009年)に続く2作目。その製作手順についても教えてもらった。

「日本では、おそらく映像が出来上がった後に声優が声を録音すると思うけれど、アメリカではほとんど逆で、先に声を録る。最初に絵コンテを描き、それを写真に撮って繋げてひとつの映画にするんだよね。そのため絵コンテを描く人といろいろ相談しながらやって、それに付ける声は英語のセリフは全部僕が入れて、日本語のセリフは全部、訓市が入れてくれた。その制作に1年ほど掛かったよ。そして各キャラクターの声のキャストが決まった段階で、全部差し替えていった。最後に残った人が何人かいたけど、そういう段取りで映画を作っていった。つまり、映画の流れが全部わかるようなフッテージを作って、声を差し替えていったという流れだね」(アンダーソン)

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しかし、スタッフもキャストも多忙な人たちとあって、その声入れもさまざまだ。主人公の小林アタリ役はオーディションで決まったが、その大役を得たコーユー・ランキンは、その時の模様を次のように話す。

「ニューヨークにあるウェス監督のスタジオへ行き、その時は練習なしで、いきなりアタリのセリフを読み始めました。モノクロの絵コンテがあったけど、“ まだ完成じゃないんだよ”ということで、どんな話なのかわからないまま、ただ、“ここは悲しく言って”“ここは怒って”というくらいの演技指導で、5時間くらいやりました。それがオーディションだと思っていたら、1年後にアタリ役に僕が決まったというメールが来ました」(ランキン)

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3年前の8歳の時にオーディションに参加したコーユー・ランキン。映画の仕事は初めて。母親が日本人で、カナダからよく里帰りするという。

デューク役のジェフ・ゴールドブラムに至っては、監督はいない状況で製作スタッフが立会い、ロサンゼルスで2時間ほどで録った。台本は2~3回読んでストーリーはおおよそ理解していたものの、デュークの容姿などはよくわかっていなかったという。2人はベルリン映画祭で初めて、完成された映画を観た。

「全部に驚いた! その後パペットは見る機会があったけど、ストーリーは全く想像できなかったから。で、とても感動しました」(ランキン)

「他の犬たちとの絡みがファンタスティックだった。声も誰がどの役をやっているのかを把握しないで観ていたから、後からキャストを知ったしね(笑)。他の人たちはニューヨークで一緒に録音したと聞いていたから、僕がうまく絡めたか心配だったけど、大丈夫だった(笑)」(ゴールドブラム)

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『ジュラシック・パーク』(1993年)や『インディペンデンス・デイ』(96年)などでお馴染みのジェフ・ゴールドブラム。ジャズ・ピアニストという一面も持つ。

とはいえ制作の途中で、後からセリフの言い方を差し替えるケースもあり、その場合は各自がiPhoneに録音したものを送ったという。

ウェスのチームとあって、声優陣はエドワード・ノートンにビル・マーレイ、F・マーリー・エイブラハム、スカーレット・ヨハンソンにティルダ・スウィンストン、フランシス・マクドーマンドにグレタ・ガーウィグ……と豪華で、日本人も野村訓市をはじめ、高山明、伊藤晃、ヨーコ・オノ、村上虹郎、野田洋次郎(RADWIMPS)、渡辺謙、夏木マリなどが多数出演。監督のスタジオはニューヨークにあり、音楽の和太鼓を担当する渡辺薫はNYのブルックリン在住とご近所ながら、パペットなどの製作スタジオはイギリス、音楽を担当するアレクサンドル・デスプラはパリ在住、そして日本……と、ワールドワイドな制作現場となった。

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監督の原点は、小学生の時に書いていた脚本。

今回でウェス・アンダーソン監督作品3本目の出演となるというジェフ・ゴールドブラムが、監督の映画の魅力を語ってくれた。

「純粋さや誠実さに加え、追放されたものたちが正義のために立ち上がるという点にロマンチックな部分があるし、闇の部分もあるけれど、そこに希望もある。とても繊細で優しく、そしてワッという驚きが常に彼の映画の中にはあるよね。『犬ヶ島』ではそのどれもが進化していて、より豊かで深みがあり、驚きも増えている。しかもとてもゴージャスだし! パペット作家全員がすごい職人技を使い、綿密な作業でユニークかつ驚くような映像を作り上げている。僕は本当に美しいと思ったね。衣装は『グランド・ブダペスト・ホテル』(2014年)の時と同じミレーナ・カノネロが担当していて、どの服も素晴らしい。あとストーリーがとにかく変わっていて面白いし、感動的で、とにかく洗練されている。映画作りの現場にいるだけでも芸術的な体験なんだ。僕はロバート・アルトマンと何度か仕事をしたことがあるけど、それと同じで、作る作業自体が夢のようでスペシャルな体験になっているよ」(ゴールドブラム)

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スカーレット・ヨハンソンの声が印象的な犬ナツメグの製作には6ヶ月かかったという。

最後にアンダーソン監督に、現在の作品のスタイルが生まれるきっかけとなった原点は何なのかを聞いてみた。

「自分のことだからうまくわからないけど、7歳か8歳の時に両親が別居することになって、その頃の僕はいたずら盛りだったので学校の先生によく怒られていたんだ。ただ、小学3年生の時の担任の女の先生が、僕が演劇の脚本を書くのが好きなことを知っていたので、“もし学校でその日一日悪いことをせずに怒られなかったら、星のマークのステッカーをつけて、それが何日か続いたら、あなたが書いた脚本をみんなで演じましょう”と言ってくれた。で、1年のうちに何度も僕が書いた演劇を上演してくれたので、ぼくはかなり態度が良くなったんだと思う。その先生がそういうご褒美をくれたのが、僕の原点なのかな」(アンダーソン)

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1969年、アメリカ、テキサス州生まれ。その比類なきユニークな才能で、世界で最も人気を博しているフィルムメイカーのひとり。

『犬ヶ島』
監督:ウェス・アンダーソン
声の出演:ブライアン・クランストン、コーユー・ランキン、エドワード・ノートン、ビル・マーレイ、ジェフ・ゴールドブラム、野村訓市、グレタ・ガーウィグ、フランシス・マクドーマンド、スカーレット・ヨハンソン、ヨーコ・オノ、ティルダ・スウィントン、野田洋次郎(RADWIMPS)、村上虹郎、渡辺謙、夏木マリ
配給:20世紀フォックス映画
©2018 Twentieth Century Fox
2018年5月25日(金)字幕版/日本語吹き替え版 同時公開
http://www.foxmovies-jp.com/inugashima/

texte:NATSUMI ITOH

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