ティモシー・シャラメ主演、ひと夏の恋を描いた傑作。

Culture 2018.06.17

恋愛の甘美なじれったさ、クラシックと80年代ポップの混交に酔う。

『君の名前で僕を呼んで』

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ひと夏の恋を、若気のいたりのハシカのようにやり過ごさず、壊れやすい生の希少な体験として寡黙な父が息子を励ます。父子の理想的な関係の結晶化。

『眺めのいい部屋』『モーリス』など、美学あふれる名画の数々を監督したあのジェームズ・アイヴォリーがシナリオを手がけ、本年度アカデミー賞脚色賞を受賞! と聞いただけで前のめりになってしまう映画ファンは多いはず。『君の名前で僕を呼んで』は、世界中の期待を背負って巨匠が同名小説を脚本化した、10代男子と20代男子のとびきり美しい恋愛映画だ。

ギリシア=ローマ美術史学者を父とする家族の中で、知的に芸術的に育てられてきた17歳のエリオ。イタリアの屋敷でバカンスを過ごす家族のもとに、学者のアシスタントとしてひと夏を過ごしにやってきた青年オリヴァー。時は1983年、研究対象である古代ギリシアの彫像そのもののような体躯と容貌を持つオリヴァーへの恋心に、エリオは最初、戸惑う。彼は自ら編曲したバッハをオリヴァーにピアノで弾いてみせるクラシック少年である一方、トーキング・ヘッズ Tシャツを着て部屋にはピーター・ガブリエルのポスターを貼っている。オリヴァーは衒学的なところと、ディスコでポップミュージックにのって踊り女の子にもモテてしまう、普通に「ナウ」なところを合わせ持つリア充。こうした80年代カルチャーに萌えるのもあり、恋愛のこの上なく甘美なじれったさに酔いしれるのも大いにあり、心の琴線にふれるラヴェルなどのピアノ曲に涙するのもあり。文芸映画らしい格調高い味わいと、男性アーティストなどがこぞってメイクをしアンドロジナス(両性具有的)な魅力で売り出していた時代の空気感が一体となった、ヨーロピアン・テイストの大傑作。強く強くお薦めします。

文/目黒 条 作家、翻訳家

2005年、マクドナー作『ピローマン』の翻訳で第12回湯浅芳子賞を受賞。最近の翻訳戯曲は『8月の家族たち』『ビッグ・フィッシュ』など。近著に小説『免罪符に』(角川書店刊)など。
『君の名前で僕を呼んで』
監督/ルカ・グァダニーノ
出演/ティモシー・シャラメ、アーミー・ハマー
2017年、イタリア・フランス・ブラジル・アメリカ映画 132分
配給/ファントム・フィルム
TOHOシネマズ シャンテほか全国にて公開中
http://cmbyn-movie.jp

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*「フィガロジャポン」2018年6月号より抜粋

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