伊賀大介が語る『ファントム・スレッド』の魅力とは。

Culture 2018.06.27

見えざるものによって縫われ織られる映画、その戦慄と陶酔。

『ファントム・スレッド』

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レストランで働くうぶな女が、立ち寄った大物クチュリエに見初められる。微笑みが育むのは、相似形の愛と殺意。米アカデミー賞衣装デザイン賞受賞。

常日頃、フィガロジャポンを読まれるような、モード・ファッションに関心がある女性なら、この『ファントム・スレッド』の予告などで、マチ針を咥えながら採寸する(きゃー)ダニエル・デイ=ルイスの、実在するクチュリエにしか見えない姿にウットリすることだろう。いまやデ・ニーロに並ぶ役作りのスゴイ俳優。今回はなんと2年間、縫製の修行をしたとのこと!

さらには、衣装デザイナー、マーク・ブリッジスが完璧に1950年代のオートクチュールを再現したドレスの数々にこれまたウットリしたり、英国ロックバンド、redioheadのギタリストでもあるジョニー・グリーンウッドが手掛けた甘美なスコアに三たびウットリしたりするのも間違いない。

速攻で「観たいっ!」ってなるのは当然の帰結だと思われるが、僭越ながら一つだけご忠告を。この最上級に麗しいフィルムを撮ったのは、あの『ブギーナイツ』『マグノリア』『パンチドランク・ラブ』『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』などの “傑作しか撮らない男”、ポール・トーマス・アンダーソン(PTA)その人であるってことだ。しかも、前作はピンチョン原作の『インヒアレント・ヴァイス』という、夢うつつ、な怪作を放っている。

このPTAが、普通に心地良くなるラブストーリーなんて撮るわけない。ウェイトレスのモデルスカウトを始点に、見えない「何か」によって縫われ、織られたシーンたちを最後まで観た時に、初めて彼の真意を感じて、貴女は鳥肌を立てながら4度目のウットリとなることだろう。後は、観た後に何処のレストランに行くか、ってことだけだ。

文/伊賀大介 スタイリスト

熊谷隆志に師事後、1999年、22歳で独立。雑誌、CM、映画、演劇と活動は多彩。参加映画は、『モテキ』(2011年)、『おおかみこどもの雨と雪』(12年)、『何者』(16年)、『未来のミライ』(18年)ほか。
『ファントム・スレッド』
監督・脚本/ポール・トーマス・アンダーソン
出演/ダニエル・デイ=ルイス、ヴィッキー・クリープス
2017年、アメリカ映画 130分
配給/ビターズ・エンド、パルコ
シネスイッチ銀座ほか全国にて公開中
www.phantomthread.jp

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〈インタビュー〉愛を物語る、『ファントム・スレッド』の衣裳たち。

*「フィガロジャポン」2018年7月号より抜粋

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